広報誌 南東北

 

大切な人格を大切にもてなす 日常の当たり前のケアを

緩和ケアの本質とは?

 「がん」の増加に伴い、患者や家族たちをサポートする緩和ケアの重要性が増しています。11月28日⑤に総合南東北病院で開かれた医学健康講座で同病院の半澤浩一緩和ケアセンター長(麻酔科)が「緩和ケアの本質とは?」と題して講演した内容を要約し緩和ケアに大切なもの、支援策は何か―などを考えます。

理解深める聴き方上手 スピリチュアル・ペインをプラス感覚に

 がん、不治の病だけでなく死の目前でも穏やかでいられる条件は①死んでも家族を見守れる将来の夢がある②家族や友人、スタッフなど関係の支えがある③入院しても自分が決められる自由がある―などがある。苦しみとは希望と現実の開きで開きが大きいと苦しみも大きい。がん患者の苦痛は身体・心理・社会的立場など全ての角度から全人的にとらえなければならない。
 死を受け入れるまで①拒絶②怒り③交渉(取り引き)④抑うつ⑤受容―の5段階がある。「あなたはがんです」といわれまず「そんなはずはない。何かの間違いだ」と拒絶する。健康な人ほどこの反応は強く次々と病院を変えたりする。第二段階では「あの人がなってもおかしくないのに」と他人への敵意や恨み、羨望を抱く。第三段階では「好きな酒やたばこをやめるから痛みを取って」など情報や運命と取引を始める。第四段階は落ち込んだり不眠、罪の意識、突然の食欲変化などが出る抑うつ状態。長く不安定だ。「自分がいなくても大丈夫」と認めるようになれば受容。寡黙になり手を握るか静かにそばにいるだけで来るべき死を悟り、予期する受容の段階だ。言葉に出さなくてもスピリチュアル・ペインを感じているのではないか。ただ拒絶から受容に至るまでには各段階で死のストレスが絡み合う。
 死は時間・関係・自律存在の喪失をもたらす。時間的に明日はなく、家族や知人、ペット、自然、信仰などの支えを失う。「あれが食べたい、トイレに行きたい」など選択できる自由も失う。「スピリチュアル・ペイン」は自分の存在、生きている意義と意味の消滅から生じる苦痛と考えられている。
 緩和ケアの障害が「信念対立」。薬の使い方などを巡る医療者同士の対立、抗がん剤の使用など治療方針を巡る医療者と患者の対立、「家で過ごしたいのに、させてくれない」という患者と家族の対立―などだ。各々が自らの信念の正しさを信じているため対立が起こる。患者が抱える痛みや苦しみは現象として存在しているだけで当事者以外が言葉や数字を使って評価、共通理解をしようとすること自体が不可能で「思い込み」に近い。対立を超えるため心理学者の西條剛央博士は「構造構成主義」を体系化した。存在を支えるのは時間・関係・自律の三本柱。時間存在を喪失しても関係存在を太くすれば時間存在の再構築も可能。苦しみを和らげる援助とは相手を理解、共感することだが、まず全てを理解・共感できないことを認識すべきだ。苦しんでいる人は自分のことを解り、理解してくれる人がいるとうれしい。理解者になる聴き方は①会話の反復で共感を得る②沈黙。伝えたい言葉が出るまで待つ③ポイントを整理しての問いかけ―だ。人は死ぬ直前まで自分や自分を含む世界に絶えず関与していたい。スピリチュアル・ペインを治療すべきマイナスの状態としてではなく新しいものを生み出すプラスの状態として受け取る。患者がどんな状態であろうとも患者、家族に対し「あなたは大切な存在なんですよ」という意識で日常の当たり前のケア、大切な人格として大切に「もてなす」ことが緩和ケアの本質だ。大切なことは「何をするか」ではなく、その小さな1つの行為に「どれだけ真心をこめたか」ということだ(マザー・テレサ)。


トップページへ戻る