広報誌 南東北

 

介護に役立つボディメカニクス 抱き起し、移動が楽に

最小の労力で疲労のない介護 腰痛防止にも効果あり

 障害者や高齢者を抱えた介護の現場や家庭で足腰などの痛みを訴える介護者が増えています。実際に介護はかなりの重労働です。そんなとき力学の原理を応用して介護する技術の「ボディメカニクス」を知っていると役に立ちます。最小の労力で疲労のない介護、腰痛防止にもつながります。
 介護は毎日のことですから精神的なものも含め介護する人の疲労は蓄積され、腰や腕など身体のあちこちに痛みが出てきます。そうした辛さを避けるため日本の看護師を中心に体系化されたのが「ボディメカニクス」という方法。力学的原理を活用した介護技術で無理のない自然な姿勢で介護することをいいます。ポイントは「力のモーメント・重心・慣性力・摩擦力」です。
 「力のモーメント」は軸(点)の周りで物体を回転させようとする力の量のこと。これを棒状にすると〝テコの原理〟になります。支点から遠い方の作用点に力を加えると力のモーメントが働き、軽い力で済みます。仰向けから横向きに体位交換するとき利用者に膝を立ててもらい、膝と肩に手をかけて回転支援すると少ない力で回転できます。重い物を持ち上げるとき身体から離れたところで持ち上げると力のモーメントが大きくなり腰などの関節に負担がかかります。肘を引いて対象を自分に引き寄せた方が持ち上げるときの姿勢も楽です。


 


「重心」とは物体を一点で支えたときにつり合う点で人間の重心は骨盤内にあるといわれます。身体を支えるため床と接している部分を結んだ範囲を支持基底面といい面が広いほど安定します。姿勢を安定させる時は重心を低く、相手を動かすときは相手の重心を高めにすると効率的です。









 


「慣性力」は、物体に力が働かないとき、力がつり合っているとき静止している物体はいつまでも静止しており、運動していたその速さで運動を続ける―というもの。重いものの動きを変化させるには大きな力が必要ということです。慣性力を介護に応用するには介護時に急激な動作を行わないこと。電車の中で吊革につかまっていて急停車された場合と同じように、急に加わった力を止めることは難しいからです。一つの動作は一方向へ区切って行う方が効率的に慣性力を使うことができます。









 


「摩擦力」は物体が他の物体と接触しながら動くときに動きを妨げる力のことです。動き出す直前の摩擦力を最大摩擦力といい最も大きな摩擦力が働きます。寝たきりの人を最初に動かすときはもっとも力が必要で摩擦を減らす工夫が大切。この最大摩擦力は褥瘡(床ずれ)の原因とも考えられ、ベッド上で利用者を横に移動しようとする場合、介護者の手を身体の下に入れて接触面積を減らしたり、すべりマットを用いて摩擦係数を減らし褥瘡を予防します。
 ボディメカニクスは①支持基底面積を広く②重心の位置を低く③重心の移動をスムーズに④重心を近づける⑤テコの原理を使う⑥利用者の身体を小さくまとめる⑦大きな筋群を使う⑧広い室内で効率よく行う―が8原則です。できるだけ負担の少ない方法で日々の介護に生かしてください。それは介護される方も安全・安楽に介護を受けられるということでもあるのです。





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