広報誌 南東北

 

世界一の口腔がん治療システムの確立を目指して

多様化の中で進化する放射線療法 陽子線、BNCTで〝迎え撃ち〟

  口腔がんの発症はがん全体の1~5%といわれます。生命に関わる重大な疾患であるばかりか生活に重要な「食べる、話す、呼吸する」などの機能が損なわれるため深刻な問題です。7月17日⑤に総合南東北病院で開かれた医学健康講座で同病院の瀬戸晥一口腔がん治療センター長が「世界一の口腔がん治療システムの確立を目指して」と題して講演した内容を要約して口腔ケア・予防法などを考えます。
 南東北グループは郡山本院と総合東京病院、新百合ヶ丘総合病院の3施設が一体となり、あらゆるタイプ・ステージの口腔がんに対応できる世界一の口腔外科目指し改革してきた。口のどの場所に、どのステージに出来ても口腔機能を温存、回復させることだ。口は言葉を作るスピーカーボックス。しゃべるほか食べる、噛む、呑み込むために主役の舌、頬など様々な筋肉とともに共同作業。ノドちんこがある軟口蓋も大きな役割を果たす。その口にがんができ手術すれば大事なところがなくなるだけにがんの治癒率向上、口腔機能の温存・回復させることが重要になってくる。
 がんの治療法は①外科療法②放射線療法③化学療法が三本柱。口腔がんも同じ。外科療法は1970年代からがんを除去した後に他から移植する場合、血管をつけて首の血管と結ぶ修復術など再建外科が飛躍的に進歩。放射線療法はⅩ線が中心だったが、1950年代に粒子線治療が出現し陽子線などでがんを狙い撃ちできるように飛躍的に変革した。化学療法も分子標的薬の開発により新展開を見せている。これらを組み合わせていくのが今も昔も王道。他に超選択動注化学放射線療法や免疫療法、温熱療法などもあり治療は多様化している。
 日本口腔外科学会によると口腔がんのうち舌がんが半分、歯茎が4分の1。4つのうち1・2のステージなら機能障害が残らず治しやすい。問題はステージ4。他組織への転移や治りにくいのが3分の1。どんなに治療法が進んでも早期発見、早期治療に勝るものはない。だから診断が大事だ。X線やMRI、歯のデンタルCTなどがあるが、PET―CTは優れており全身のがんを発見できる。当グループは9台ある。口腔がんが見つかった場合、転移と別に食道や胃など上部消化管など他にがんがある場合が1割強ある。
 注目は口腔ケア。口の中は細菌がいっぱい。手術の際に麻酔をするが、口に管を入れるため肺に有害な細菌が入り込むリスクもある。当院は手術前、患者にオーラルケアを行っている。口腔ケアにより誤嚥性肺炎やインフルエンザの発症を軽減できる。口腔がんは自覚症状がなく定期的な診断が必要。禁煙は当然だ。
 1898年キューリーの放射線発見で医学は革命的に発展。その後は放射線をいかにしてがん病巣に集中させるか、正常な組織への障害を最小限にするかの努力だった。1954年に陽子線、1997年に重粒子線治療が実用化され効果は飛躍的に向上。本院も6年前に南東北がん陽子線治療センターを開設、今年6月までに年約500人、計2461人を治療している。
 これからは加速器を使った中性子利用。京都大原子炉実験所で2009年に加速器を使ったBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)が成功し現在臨床治験中だ。本院でも病院で世界初の加速器を使ったBNCT研究センターを建設中。ホウ素を取り込ませたがん細胞に中性子を照射、反応させ破壊する治療法で難治性・再発がんに効果あるといわれる。近く完成し来春から治験を始め30年度治療開始を目指す。「狙い撃ちから迎え撃ち」できるような態勢になる。


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