広報誌 南東北

 

がんに対する血管内治療 (IVRの最先端)

体傷つけず病巣だけ治療 《兵糧攻め薬でがん補給路遮断》

 画像などを見ながらカテーテルと呼ばれる細い管や針を用い外科的手術なしで治療する血管内治療が注目されています。3月19日に総合南東北病院で開かれた医学健康講座で今井茂樹血管内治療研究所長(放射線科)が「がんに対する血管内治療~IVRの最先端」と題して講演した内容を要約、体により優しい新しい治療の最前線を探ります。
 がんに対する治療法は外科的治療(手術)、飲み薬や点滴などの抗がん剤、放射線療法の3つがありますが、どれもできるだけ切らずに治そうというスタンスになってきています。悪いところを切って繋げて治す手術は、腹腔鏡や胸腔鏡などを使って体に優しくなっています。使うと髪の毛が抜け、白血球が下がると思われがちだった抗がん剤も進化、値段が高いが効き目がある分子標的治療薬の開発などが進んでいます。放射線も現在はIMRT、トモテラピーなど機器の進歩でピンポイント照射し治療できます。究極は陽子線、当院で間もなく治験開始するBNCTとより良い方向に進んでいます。
 これら3つの治療法と一緒にやっていけるのがIVR(インターベンショナル・ラジオロジー)。放射線診断技術の治療的応用といい、血管内治療とか血管内手術といわれます。X線透視や超音波画像を見ながら体内に細い管(カテーテルや針)を入れて病気を治す新しい治療法です。
 特長は手術をしないので体に負担が少なく病巣だけを正確に治療でき、入院期間も短縮できます。お腹を開けて1カ月はかかるのが、1週間以内で帰れます。それだけ効果があります。また80代後半の高齢者が1カ月入院したら足腰が立たず動けなくなったりしますが、血管内治療だと90歳近い動脈瘤の患者さんでも、状態の悪い進行がんなどでも治療は可能です。根治するかどうかは難しいが、どうしようもなく、治療の施しようもなかったのに血管内治療で戦えることはメリットです。
 治療では時に全身麻酔することもあるが、足の付け根の鼠蹊部から動脈に針を刺し細い管を入れ、肝臓や肺、頭から手の先まで体中の血管に入っていき、狙ったところで血管を詰めたり広げたり、薬を直接流し込んだりできます。
 どんな病気に血管内治療を用いるのか。舌・喉頭などの頭頸部がんや肺・肝臓・子宮・腎臓がんなどに用いるが、当院では肝臓・頭頸部がんが多い。昔は手術が多かった子宮筋腫も最近は子宮を切らずに血管内治療が多くなっています。子宮や肺、肝臓がんなどに絡んだ出血も多く、救急外来で大量出血の時はまず放射線科、外科医も血が止まらず開けて手術できない時は放射線科を呼び、血管内治療を優先して出血を止めます。がんからの出血も同じです。
 では血管を詰めるのには何を使うのか。塞栓物質という薬や金属コイルという細かい毛のついた形状記憶合金を用います。実際のIVRがん治療は、動脈から栄養をもらっている血管を詰めて、がんを兵糧攻めにする塞栓術。直接悪い所に抗がん剤を動脈内注入する動注、針を刺して熱で直接がんを焼き切るラジオ波焼灼があります。最近はこのラジオ波焼灼が増えています。更に焼くなら凍らす治療もあるのではないか、と凍結療法の研究なども進んでいます。
 前述の頭頸部がんは、耳鼻科や口腔外科領域、具体的には上顎や咽頭・喉頭・舌がんなどの総称。頭頸部がんは小さい時に早く見つければ治りも早く比較的予後は良いが、進行がんは治療が難しい。手術をして声が出なくなったり、物が食べられなくなったり、「話して、食べて、出して」ができないと人間はつらいものです。でも放射線だけ、抗がん剤だけでは効きが悪く、どの療法も単独では治療が難しいのも実情です。
 ただ頭頸部がんに対して放射線や抗がん剤は他のがんより効くのでこれらの療法が進むわけです。手術せず動注療法、放射線療法などを併用すると声や嚥下、食事ができるようになるし、治療部位だけの副作用で済む、治療効果も期待できる―などの利点もあり、人間としてどちらがいいかということになります。病気が治っても患者さんのQOL(生活の質)が低下しては意味がありません。寝たきりは怖いし、声が出ない、物が食べられないでは困るわけで頭頸部領域では機能温存がポイントです。
 カテーテル治療でも抗がん剤を使ったり、兵糧攻めにしたり、動注リザーバーを用いたりいろいろあります。患者さんのために何を使ったら良いか医師側も考えます。血管造影装置やシース(カテーテルを血管内に入れるための管)も進化、血管の形状にあわせたマイクロカテーテルワイヤーの登場で腫瘍近くまで進め、治療効果が上がっています。最近は風船を活用したバルーンマイクロカテーテルや新たな抗がん剤も開発され、保健も適用になっています。
 ただ治療では造影剤や麻酔薬など薬剤アレルギーのトラブル、合併症などへの配慮が必要です。がんに対する治療戦略は臨床各科や放射線科などが一丸となり、患者さんに一番良いテーラーメイド、オーダーメイドのチーム医療が大切で、今後は低侵襲性の体に優しい治療が基本になると思います。

トップページへ戻る