広報誌 南東北

 

本当は怖い便秘の話

たかが「便秘」とあなどるなかれ 放置すると緊急手術、がん発見も

ぜひ腹部単純X線撮影を〝糞詰まり〟解消が最も大切
 「便秘は辛いけど病院に行くのはちょっと」。 たかが便秘で医療機関に受診なんて大げさ、いう方もいるでしょうが、便秘を甘く見ると大変なことになりかねません。 6月10日(木)に総合南東北病院で開かれた6月医学健康講座で同病院の西野徳之消化器センター長が「本当は怖い便秘の話」と題して講演した内容を要約して「便秘とは」や便秘の予防法・解消法などを学びます。
 「便秘」については、テレビやインターネットでも取り上げられ、原因や解消法、さらに腸内細菌、サプリ―など様々な情報があり、情報過多の様相を呈しています。
 「自分は便秘だと思う」方の多くは根拠に①便秘の薬を服用。便通は良い②排便後も残った感じ③便が硬く、量が少ない④排便時にいきむ⑤出る回数が少ない⑥お腹が張っている―を挙げます。逆に「便秘ではない」と思っている方は①便通は不規則だが、出は悪くない②2~3回に1回はコンスタントに出る③便は硬いが、便通は悪くない④お腹の違和感はない―を挙げます。
 便秘って一体何でしょう。便秘の定義として日本内科学会は「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態」。 日本消化器病学会は「排便が数日に1回程度に減少、排便間隔が不規則で便の水分含有量が低下している状態(硬便)を指すが、明確な定義はない。個人差が大きい」としています。
 国際消化器病学会は①過去6か月間のうち3か月以上症状がある②排便4回に1回は特定基準に合致(特定基準:いきみ、硬便、残便感、直腸肛門の閉塞感・詰まった感じ、摘便や骨盤外圧迫など排便促進の対応、排便回数が週3回未満―など2項目以上)③IBS(過敏性腸症候群)の診断基準を満たさない④緩下剤なしで軟便になることはない。あっても稀―としています。これらRomeⅢの機能性便秘診断基準が医師の診断用として日本でも使われるようになりましたが、細かすぎます。便秘って実はあいまいで怖い病気なんです。症例を見てみましょう。
 80代の女性が汎発性腹膜炎を起こし救急車で運ばれ、一時心肺停止。CT検査で腸が破れ、空気が漏れている疑いがあり緊急手術しました。 その結果S状結腸が直径5cm大に拡張して破れ、硬い糞塊が小骨盤腔内に漏れていました。がんでもなく、便秘による宿便性穿孔が原因でした。 こうした「便秘で手術」は年に4~5例あります。
 便秘の概念は、排便回数の減少など頻度、強くいきまないと便が出ない排便困難感、残便感などが三大症状です。 腸は筋肉でできていますが、加齢とともに緩んで絞り出す力が弱くなります。 食物繊維を摂ったり、摘便や浣腸などで便通を整えてやるのが大切。客観的に診断することです。
 そのために私は腹部単純X線を使って調べます。「毎日便通がある」人もX線で見ると宿便が多いです。立派な便秘です。 画像で確認すべき所見と理由は、まず便やガスの偏移や腸管の異常な拡張が分かります。 結腸がんの前兆や便がびっしりと腸に詰まっている自覚のない「隠れ便秘」、 毎日便が出るといってもポロポロウンチの「鋳型便秘」、さらに週に1~2回しか便通がない人の白くなっている「糞石」も見つかります。
 救急車で運ばれた50代の男性は2日前から排便がなく腹痛。 自称「便秘」というが初診時のX線で便に空気が溜まっていたのに2日後の再診時には「硬握り」状態で詰まっており、「結腸がん」でした。
 4か月前から慢性下痢が続く60代の女性。X線では便秘と診断できるものの精査の結果、〝逆説的下痢〟と呼びますが、直腸がんが隠れていました。
 排便に必要な要素は便意、腹筋(いきみ)、食べ物、腸内細菌、水分摂取などです。 便を柔らかくするため「水分をよく摂りましょう」というが、水分を急に摂っても吸収され、尿となるだけで効果がありません。 ただ朝起きた時に飲むのは便意に役立ちます。
 便秘の症状には、便が出にくい、腹痛・胃痛、背部痛(上行・下行結腸)、腹部不快感などいろいろありますが、 問診や腹部触診、打診などに加えて腹部X線撮影することが重要です。 胃炎と診断の30代女性がX線から便の停滞が疑われ、CTを撮ったところ胃が空っぽなのに小腸に水が溜まり便秘による小腸閉塞で「糞詰まり」 が分かりました。 X線を撮っていなければこの症例は診断できませんでした。CTをうまく使う必要がある例です。
 便秘の診断は難しい。便秘の自覚症状がある日本人は、若年層では女性が多く、加齢に伴い男女とも増えます。 便を押し出す腸の力が弱まっているからです。 私たちは便への水分浸透や刺激性下痢など作用機序に沿って治療薬を処方したり、二次性便秘を考慮して対応します。 放っておくのは良くない。とにかく便を出してやることが大切です。
 繰り返しますが、便秘の診断にはX線が役立ちます。 被曝も少なく保険もOK。自覚のない隠れ便秘、腹が便だらけの鋳型便秘、大腸がんが見つかったりします。 「腹が痛い」は便秘かもしれません。腹がきれいかどうかX線撮影をしてみてください。 最後に白っぽいウンチはいけません。胆汁がでていない証。黄疸かもしれません。ご注意を。


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