広報誌 南東北

 

大動脈が裂ける(大動脈解離)のを防ぐ方法は存在するのだろうか?

家庭血圧は135/85mmHg未満 仮面高血圧、朝夜自宅測定の習慣を

喫煙をやめ、魚を食べよう 減塩、1割カットで生活習慣是正
 大動脈が突然裂け、全身ヘの血流障害を来し、生命を奪う恐ろしい病気の大動脈解離が増えています。高血圧の放置が要因といわれます。 2月17日(金)に総合南東北病院で開かれた医学健康講座で同病院の菅野恵心臓・循環器センター長(心臓血管外科)が「大動脈が裂ける(大動脈解離)のを防ぐ方法はあるのか」と題して講演した内容を要約して対処法を考えます。
 昨年2月に大阪・梅田で運転者が突然死して11人が死傷する交通事故が発生した。大動脈解離が原因らしいというので1年間、予防可能か考えてきた。結論からいえば不可能だ。でも少しでも発症の危険を避けられる手立てがないかを考えてみたい。
 わが国の高血圧症の血圧管理はコントロール良好が50%で残り半分はダメ。降圧の治療をしているのは実際の高血圧患者の半分、その半分は外来血圧は良好だが、その半分は早朝高血圧だという。私が診た症例の約6割は高血圧治療中に急性大動脈解離を発症。 服用降圧剤は手術前に平均0.7剤だったのが、術後に3~5剤必要な人もいる。ある研究では降圧剤で血圧は良くなるが、良くなるのは診察室血圧だけで家庭血圧は下がっていない。むしろ医師の目の届かないところで高血圧が増えているという。 先日の新聞に福島県民のメタボ率が全国ワースト2位に悪化、との報道があった。仮面高血圧を視野に家庭での血圧測定習慣化、大切さを示唆している。
 急性大動脈解離は突然、人を不幸にする重篤な疾患。治療しないと8~9割死亡する。私は〝高血圧界のロシアンルーレット〟と名付けている。心臓から血液を全身に送る大動脈は高い血圧に耐えるため3層構造。 血管の一番内側の薄い内膜が一瞬にしてピッと裂けるのが原因。外に出れば即死だが、厚い丈夫な外膜との間にある中膜に血液が流入、血流が強いため大動脈の壁を縦方向に竹を割るように裂けるので緊急手術が必要だ。
 心臓からすぐの上行大動脈から裂けるスタンフォードA型と背中の下行大動脈から裂けるB型の2タイプあり、A型は緊急手術しないと即死、B型は内科的治療でかなり生きられる。 手術を要するのは心臓の周りに流れ出た血液が心臓を圧迫して心タンポナーデを起こし血圧が下がりショックで意識を失う。これを取り除き修復しないと生きられないわけだ。
 大動脈解離は、大半は落雷に遭ったような激痛を感じるが、無痛性も6%程ある。心臓から背中、腹などあちこち裂けていく移動性の痛みも特徴。そのため頭や胸、腹などいろんなところで症状が起こる。 心臓の出口だと冠動脈閉塞で即死、頭だと脳虚血、半身不随になるのもある。2013年には走行中のバス運転手が急性大動脈解離を発症して死亡、気付いた乗客3人がハンドルを操作して停車、他の乗客31人を救出、交通事故も無縁ではない。 最近は俳優・阿藤快さんが突然死、加藤茶さんも緊急手術で助かるなど有名人もかなり発症し動脈解離を知る人が増えてきた。
 年齢別では60~70代が圧倒的だが、早いのは30代。若者は高血圧の未治療・無視が多く、術後に降圧剤が2~3錠必要な人もいる。60歳未満の共通点は全員喫煙者だった。
 大動脈解離の発症率は年間10万人当たり3~5人。突然死を解剖して分かった死因1位は心筋梗塞、2位が大動脈解離、3位くも膜下出血で解離は珍しい病気ではない。平成24年に福島県で緊急手術した数は約130件。10万人当たり6.5人で平均以上だ。
 大動脈解離の手術は増えている。高齢化だけでなく肥満やメタボの増加、食生活の変化も関係しているが、肝心の血圧治療は疑わしい。 高齢なほど治療しているが50~60代の治療率は低く、50代は4割、女性は3割程度。この病気が減らないのは高血圧なのに治療していない隠れ高血圧〝仮面高血圧〟が多いからだ。
 診察室血圧と家庭血圧では家庭血圧の方が大事。135/85mmhg未満で135以上は高血圧だ。それを高血圧と認識している医師は3割未満、家庭血圧を医師に見せない患者が4割もいるという。
 大動脈解離の原因は肥満、血管壁の脆弱性、喫煙、しなやかさの消失、内皮の炎症などがある。私が診た解離の男性96%、女性52%は喫煙者だ。また偏食、特に魚嫌いも多く、血管内皮に炎症を抑制するEPAの数値が低かった。 血圧を測定し一度起立して再度測った数値が15~20差あれば仮面高血圧の疑いがある。診察室外で計測すると高血圧の仮面高血圧には早朝、職場、夜間高血圧の3パターンあるが、降圧剤では減らせない。仮面高血圧は悪だ。血圧は低ければ低いほどいい。 64歳未満は家庭血圧135未満を守るべきだ。生活習慣では何といっても減塩。6gというが、味噌汁は別にしてトマトに塩をかけない、かまぼこに醤油をつけない―など今より全体で1割りカットすべきだ。
 体重1kg減で血圧1.77下がるという。糖尿病でないといわれた2型糖尿病の47.5%が心血管リスクのある仮面高血圧。肥満者は血圧に注意してほしい。
 まとめると①未受診の若い世代に高血圧の危険性を伝えたい②外来血圧のみで降圧剤を選択・変更するのは危険。特に冬の降圧剤変更は家庭血圧の測定を前提にすべき③肥満症例や2型糖尿病症例では、仮面高血圧の存在を念頭に置くべき―だ。「血圧計は飾るものでなく、測るもの」です。


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