広報誌 SOUTHERN CROSS

 


新薬開発で注目される

免疫の働きと免疫療法  

照沼裕先生は、東北大学大学院時代からHIV(エイズウイルス)に類似したレトロウイルスの研究を進め、 アメリカ・マイアミ大学助教授に就任、その後アフリカに渡り、 HIVを中心としたウイルス感染症対策の指導にあたりました。

帰国後はがん治療への関心を強め、免疫細胞療法の研究に取り組みました。

研究の結果、リンパ球などの免疫細胞を増やしてやるために開発した方法が、 実はがんにも有効であるということも分かりました。がん細胞に対して働く免疫と、 ウイルス感染細胞に働く免疫は同じ免疫機構です。ウイルス感染に対する治療は がんにも応用できるし、逆も成り立つわけです」

2015年には新しいがん治療薬「免疫チェックポイント阻害剤」の登場によって 〝免疫〟の働きの重要性が再認識されることになりました。

あらためて免疫システムへの関心が高まるなか、免疫をめぐる医療の最新の姿とは、 どのようなものでしょうか。

がん免疫をめぐる医療とその周辺について、照沼裕先生にお話をうかがいました。


◎Profile/照沼 裕(てるぬま・ひろし) 専門:免疫療法・温熱療法 東北大学大学院医学研究科博士課程修了後、同医学部病態神経学講座助手に就任、 1990年には米国ウィスター研究所でウイルス学、免疫学の共同研究を行い、 1992年米国マイアミ大学医学部助教授に就任、1995年には国際協力事業団ザンビア感染症プロジェクトに 長期専門家として派遣。その後、山梨医科大学講師、東京クリニック丸の内オアゾmc副院長等を歴任。 東京クリニック副院長。現在は東京クリニックのほか、
郡山市の総合南東北病院(南東北医療クリニック)でも診療を行っています。


体にやさしい癌治療

第4のがん治療—免疫細胞療法
Immune Cell Therapy


免疫細胞療法とは—
NK細胞を中心に


免疫細胞療法と 免疫の働きについて

2人に1人は生きているうちにがんになり、3人に1人はがんで死亡する時代です。

これは、誰もが生きているうちに何らかのかたちで、がんに関わりを持つ、ということを意味しています。

がん治療には、手術、放射線、化学療法があり、最新のBNCTも実用化されようとしています。

免疫療法などは代替医療と呼ばれています。標準的な治療にプラスして行い、標準治療の効果を さらに上げていこうという治療です。

では、免疫力とは何かと言うと、自分の体の中で、自分とは異なるものを見つけて排除する力です。 自分の細胞が異常化してしまったがん細胞やウイルス感染細胞といったものを、主にリンパ球が 体の中で働いて取り除きます。そのリンパ球の中でも中心的なものがNK細胞(ナチュラルキラー細胞)です。


免疫細胞(NK細胞)の活性とがん

東京クリニックでは、テレビバラエティなどの企画でタレントさんの免疫力の測定をまかされることもありますが、 そうした場合には、だいたいNK細胞の力を見ています。

ものごとにこだわらないような人たちはNK細胞の活性が高く、疲れているような人は低い、という傾向があります。

本来、免疫力を測るのはとても難しいのですが、このNK細胞の活性は、比較的簡便に、きちんと測れるように 確立しています。

私たちはNK細胞の活性を調べて、がん細胞を傷害する力を測定しています。

調べたいリンパ球をがん細胞と一緒にしてやると、がん細胞がどんどん死んで減っていきます。 すると、残っているのは30%だから、NK細胞が傷害した活性は70%です、という測定の仕方をします。(資料1)



NK細胞が年齢でどう変わるかというと、20才くらいの人がピークで年齢と共にどんどん下がってしまいます。 がんの発生率はこれと反対に上がっていきます。

40代後半で仮に12%しかないという人は、免疫(NK細胞)活性の年齢は78才です。非常に低いレベルです。 それは実は数年前の私のことなのですが、仕事のし過ぎだったのかもしれません。(笑)

ちゃんと仕事をしていこうとするなら、「良い加減」に仕事をして、睡眠も食事も適度にとって、 ストレスがかかり過ぎないようにすることが理想です。私の場合もそうしたことを注意するようにしてから、 NK細胞の数値は戻ってきました。笑うとNK活性が上がります。

では、活性が低いとがんになりやすいのか、ということで、埼玉県のがんセンターが3,625人のNK細胞活性を 測ってみました。

40才〜80才まで、NK細胞活性が高い、中くらい、低いという3つのグループに分けて、11年間にわたって がんの発生率を調べました。(資料2)



NK細胞の働き(活性)が低い人は、発がん率が倍くらいになっています。正式には男女合わせて1.7倍で、 NK細胞活性が低いとがんになりやすいと言えます。

私たちが調べたデータでも、健康な人にくらべて乳がんが見つかったり、乳がんの転移が見つかった人は、 NK細胞の活性は低くなっていました。(資料3)



このNK細胞の活性を高めて、がん予防に利用しようとするのがNK細胞による免疫細胞療法です。 NK細胞を血液から取り出して培養すると、3週間で数百倍に増えます。一個ずつのNK細胞ががんを傷害する力も、 培養する前に比べて数倍から数十倍高くなります。数も増やして、力も強くする。それを点滴などで本人の体に 戻してあげます。(資料4)



こうした免疫細胞療法は健康な人にも使えますが、主にがんの方に使っています。



再生医療新法と
免疫細胞培養の安全性


免疫医療をめぐる 今日の状況

現代は、iPS細胞、再生医療などが話題になる時代です。細胞を培養して医療に応用する技術が進んできました。

ですから、安全性などを確保するため、2014年の11月には「再生医療等の安全性の確保等に関する法律 (再生医療新法)」が施行され、2015年11月25日からは、培養細胞を使った医療に関する運用の完全実施が始まりました。 法律に従って、細胞は定められた培養施設できちんと培養し、医療機関自らが厚生労働省に登録をして治療する、 という時代です。

私たちは、細胞を使った治療について、定められた計画書をつくり、特別な認定を受けた委員会で承認を受けた上で 厚労省に提出して免疫細胞療法を行っています。免疫に関わる培養施設もレベルの高いものを準備し、培養施設として 厚労省から許可を受けて患者さんに投与しています。


免疫細胞の培養と 免疫細胞療法の特長

免疫細胞療法では、患者さん本人の血液をいただき、培養施設に送って、目的とする培養NK細胞などをつくり、 それを患者さんに点滴して治療します。樹状細胞ワクチンなどをつくるときも、こうした国への登録を 行ってやっています。

われわれは、最近5年間で29、861件の細胞の培養をしました。そのうち16、885件はNK細胞の培養です。

安全性は、点滴中にアレルギー反応が出た人が4例で0・024%。後で関節がちょっと痛くなったという人が 3例くらいで、0・018%ということですから、安全性は非常に高いと言えると思います。

絶対に副作用が起こらないということではなくても、私たちはおそらく世界で最も多くNK細胞の培養を行い、 質の高い技術を持っているのではないかと自負しています。

では、細胞の治療がどれだけ効くか、ということですが、これは患者さんによって違いがあります。 しかし、特長として言えるのは、副作用は少なくて、QOLを高めながら、より長生きできるようにする 治療法だということです。

NK細胞は、がんの発症予防に使われます。ところが、ウイルス感染症にも効果的で、がんを目的に治療していたのに、 毎年ひいていた風邪をひかなくなったという方も多くいらっしゃいます。健康だけど、やってみたいという方も おられます。

ボランティアの人に、20億個のNK細胞を点滴すると、ほかの免疫細胞の活性も高くなり、健康な人なら2週間以上 そうした状態が保たれます。病気の人ではNK細胞が消費されて下がってしまいます。こうしたことで、 健康をより良く保つ。そういう利用をしている人もいます。

明確な効果はまだ分からないところがあるのですが、点滴をすると元気になるという人が多いですね。 そんなふうに、体の中からきれいにしようということができる時代だということです。



免疫チェックポイント阻害剤の登場で

注目される免疫医療の世界



免疫細胞・温熱療法(ハイパーサーミア)と、
その症例について



免疫細胞療法の実際



免疫細胞療法は、自己治癒力の増強による健康増進、がんやウイルス感染症の発症予防に用いられますが、 手術や陽子線治療との併用として、がんに対する免疫力の誘導や、がんの再発予防に用いるのもお勧めです。

また、化学療法(抗がん剤)との併用で、相乗的作用による治療効果増強や、化学療法の副作用の軽減が期待できます。

緩和医療との併用によって、がんの進行遅延、生活の質(QOL)や病気の予後の改善にも用いられています。

手術をする場合、手術をするという精神的なストレスと手術自体の身体的ストレスによって免疫力が下がります。

ねずみを使った実験では、NK細胞が下がってくると転移の数が増えてしまいます。そして、NK細胞を活性化する薬を 使うと、転移が抑えられます。

実際に人が手術を受けた場合、NK活性が1週間以上低下するというデータもありますから、そうしたときにこそ NK細胞療法を使うことで、より再発のリスクを下げることができるのではないかと考えています。

肝がんは再発しやすいことが知られています。通常は再発すると、免疫力が下がります。

そこで、手術のあと5〜6回免疫細胞を点滴で入れると、倍近く再発率が抑えられることが報告されています。

再発を抑えるためのいい抵抗力を体内につくってやれるといいですね。

ほかにも、治療効果増大のために相談に来られる人も多くいらっしゃいます。

遺伝子が1個だけ働かなくなった一見双子の免疫不全マウスと、免疫力があるマウスにがん細胞を移植してから 治療を行います。

すると、免疫力があるマウスでは抗がん剤が効くのに、免疫が働かない免疫不全マウスでは、がんがどんどん 大きくなっていきます。

免疫力がきちんとしているほうが、同じ抗がん剤や放射線治療でも、より効果が高く出る。こうしたことが 動物実験から分かっています。

人での免疫細胞療法は、低下した免疫力を強くすることで、抗がん剤や放射線での治療の効果を高めてやろう という治療です。実際、肺がんの手術をしたあと、化学療法や放射線治療をしても、生存率がどんどん 下がってしまいます。その際に免疫療法をプラスすると、やはり倍近くまで生存率が高くなることが 臨床研究で報告されています。

実際の症例について、ご紹介しましょう。

4才の男の子の治療例ですが、脳幹部に腫瘍がありました。

抗がん剤と放射線で治療して、一時的に麻痺が良くなりましたが、その1か月後には再び右手足に麻痺が出てきました。 そこで、2週間に一度ずつ培養したNK細胞を点滴したら、少しずつ麻痺が良くなり、6カ月くらいで完全に 麻痺がなくなりました。

MRI画像を見ると、造影病変の中身が黒くなっていて、がんが抜け落ちてきていたと思います。 さらに治療を続けたら、画像上でもがんが完全に消えて、今、小学5年生で、元気に学校に通っています。(資料5)



63才の男性で悪性脳腫瘍(神経膠芽腫)手術後の再発例では、放射線治療と抗がん剤の服用で効果がなく、 NK細胞とインターフェロンの点滴をしました。画像でがんの影はだんだん薄くなり、14カ月後にはほとんど 見えなくなりました。

このように、非常にいい反応をする方もいらっしゃいます。その一方で、反応しない方もおられます。 まだまだ研究しなければなりません。


温熱療法(ハイパーサーミア)との併用

温熱療法は、正式にはハイパーサーミアと言って、サーモトロンRF8という治療機器を使います。



電子レンジと同じような高周波で体の中を温めます。

42・5度以上になると、がん細胞自体が少し弱くなったり、がんを攻撃する免疫細胞の働きを抑えるリンパ球が 死んでくれたり、がんのまわりで免疫力が活性化したり、がんやその周辺の血流が良くなって、抗がん剤ががん組織に 入りやすくなったりして、抗がん剤の作用増強、免疫力の活性化、放射線の効果増強といった効果が得られます。

温熱自体はがんに対する効果は弱いのですが、がんに対する体の環境を上手にコントロールしてくれるので、 いっしょにやると効果的です。

免疫細胞療法と温熱療法を併用した症例をご紹介します。

40代の女性で卵巣がんの手術のあとに腹膜への転移があり、手術したところから皮膚にも転移を起こしてしまいました。

そこで、皮膚の表面に放射線を弱くしてかけ、樹状細胞という免疫細胞を打って、NK細胞を点滴し、温熱をかけてやると、 そのあと3カ月くらいで皮膚転移だけでなく、放射線治療をおこなっていない腹膜の転移巣も消えて、 今も元気にされています。(資料6)



肝がんの手術のあと、肺転移して、少量の抗がん剤治療と、免疫療法、温熱療法を行った症例では、6カ月くらいすると、 急に効果が出て、転移が消え、現在まで約9年間がんは消えたままという方もいらっしゃいます。

85才の肺腺がんの男性の場合は、もうお年だし、ほかにも病気があるから、診断にあたった医師からは何も治療しないほうが いいというアドバイスがありましたが、本人も家族も何か積極的な治療をしておきたいということで、併用療法を行いました。

NK活性を中心として3週間に1回の免疫細胞療法。その間の週に少量の抗がん剤治療をして、毎週温熱療法を行いました。 すると、どんどんがんが小さくなって、現在は完全に消えてしまいました。1カ月に1回通院で経過をみていますが、 現在まで3年間元気にされています。(資料7)



すい臓がんで、多発肝転移の85才の男性の場合は、2週間に1回免疫療法、2週間に1回抗がん剤治療、加えて 毎週温熱療法を行いました。

すると、がんが小さくなって消えてしまいました。(資料8)



免疫に限らず、抗がん剤治療でも一緒ですが、どういう人にどういう薬を使えば効くか、予見しきれないのが現状です。 きちんとしたバイオマーカーがまだないので、あらかじめ予言することはできませんが、免疫細胞療法と温熱療法などを 手術や陽子線治療、化学療法(抗がん剤)と組み合わせることで、免疫力の誘導が期待でき、生存率が高まるという データもあります。



免疫チェックポイント阻害剤の登場と
免疫細胞療法



免疫細胞療法のエビデンスについて



すい臓がんで、すでに転移がある場合の症例をご紹介しましょう。(資料9)

ほかの治療ができず、抗がん剤治療をした場合の生存率と期間が書いてあります。そういうステージの方の結果を まとめたものです。6カ月で生存率50%とあります。

それに対して、われわれのところで同じ種類の抗がん剤を使い、温熱療法を加えると、50%の人の生存率が6カ月から 8カ月になり、さらに免疫療法を加えると、6カ月が13カ月になる。1年後の生存率が、通常の抗がん剤だけだと 20%以下なのが、免疫や温熱を加えると50%を超える、という結果が出ています。

ところが、臨床治験をやらないとエビデンスとしては認められませんので、こうした治療は標準治療にも組み込まれません。 エビデンスにならないのはいいかげんな治療法として懐疑的になられる方もいらっしゃいますが、こういったものも 試してみる価値はあると思います。

エビデンスとは、臨床試験によって得られますが、大変なお金もかかりますし、しっかりしたデータを大がかりに 取るのも現実的には大変です。施設ごとにつくっている細胞の質も違っていますから、それらのデータ管理や分析も なかなか難しいのです。

しかも免疫療法のように医療のテーラーメード化を図るほど、データが個別化してしまいますから、 臨床治験や研究はやりにくくなります。

がん治療では、基本的には標準治療をまずやることをお勧めします。

ただし、もう何もやることがないということになると、皆さん、下を向いてしまうのですが、 それだけで元気をなくして免疫力を失い、病気が進んでしまう。しかし、いろいろな選択肢が残されています。 何も治療法がなくなっても緩和医療とプラスして免疫療法をやることができます。

標準的な治療法はもう行えないという方でも、外来に通いながら週に1回、免疫療法や温熱療法、 少量の抗がん剤治療をしてみると、ゆっくりした治療ペースですが、3カ月後には3分の1の人は改善し、 3分の1の人は変わらない、3分の1の人は進行する、というのがおおよそのところです。

病状がだんだん進むのはやむを得ないところもありますが、がんがあっても家で普通に暮らしながら、 いい時間を過ごせるようになります。私たちの治療なら、そういうことにトライできるということです。




免疫チェックポイント阻害剤の可能性と問題点

最近、大きなトピックがありました。免疫チェックポイント阻害剤という薬が開発され、その効果が目覚ましいのです。 国の保険が適用された初めてのがん免疫療法であり、そのため、免疫の力があらためて認識されることになりました。

もともと免疫細胞にはがんをやっつける力があります。ところが、攻撃をストップするブレーキを踏まれて、 がんを殺せなくなるのです。このブレーキを取り除くような薬を投与すると、ブレーキがかからないので、 がん細胞を免疫細胞がやっつけて、がんが治るのです。

この薬によって、これまでは抗がん剤による完治が見込めなかったような人たちの中で、完治と思えるような人が 2〜3割出てきています。

代表的な対象疾患は、皮膚がんの悪性黒色腫(メラノーマ)と非小細胞肺がんです。

複数の免疫チェックポイント阻害剤が、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、胃がん、卵巣がんなどに効き目がある ということが国内外の臨床研究で分かっていますし、薬事承認への臨床試験も進められている状況です。

ただし、悪性黒色腫の場合で、1回の抗がん剤を体重60キロの方に投与するのに85万円かかります。3週間に1度 投与することになりますから、3年間使うと4000万円以上です。3年間の治療後に薬をやめて治った状態に なる方がいますが、とても高い薬ですね。それでは保険制度も破綻しかねません。そうした経済的な問題がすでに 指摘されています。

また、今までとは違う副作用、自己免疫疾患が非常に強いかたちで、数パーセントの方に出てきますから、 安易に使うことはできません。副作用としては、甲状腺の炎症や間質性肺炎、激しい大腸炎などが知られています。

こうした副作用の問題も指摘されているようです。


免疫のアクセルを踏む免疫細胞療法と先制医療としての可能性

通常、体の中のがんを殺せないのは、がんを攻撃する免疫の働きをストップしてしまう負の免疫が働いてしまうからです。

ですから、逆にアクセルを踏んで、がんを傷害する自分の体の免役をより強く作用させることも有効なわけですね。 免疫細胞療法などはそうした考え方に基づいていますし、温熱療法は免疫細胞が働く環境を整えてくれるツールですから、 免疫が働きやすいようにゆっくりとアクセルを踏んであげるわけです。

ブレーキを取り外すだけでなく、良い質のアクセルが踏まれるようにすることが必要です。

免疫細胞療法は自費負担で高額という印象があるかもしれませんが、免疫チェックポイント阻害剤に比べれば かなり低価格です。

伸び続ける医療費は大きな問題になっています。皆が受けなくちゃならないベースの治療のところはキープして、 特別高いものについては民間保険でまかなうとか、別のことも考えないといけないかもしれません。

皆がどうやって健康な状態を保つのか。平均寿命は長くなっても、健康上問題ない状態で日常生活を送れる 健康寿命との間にはギャップがあります。男性で9年、女性で13年くらいです。そこを埋めるようなアプローチも 必要になっています。

早期に診断し、早期の積極的な介入で、発症の遅延・防止をするような医療(先制医療)のあり方も 考えなければなりません。(資料10)




幹細胞の培養上清を用いた臨床研究



今われわれが臨床研究しているのは、体の中のいろいろな幹細胞を培養して、壊れたところを修復するために出している 活性物質(培養上清)を集めて投与してあげる、というものです。

再生医療として知られる細胞移植医療は、文字通り細胞を移植しますが、われわれは歯髄や脂肪の幹細胞などを培養して 液中に分泌される活性物質を含む培養上清(細胞を含まない上澄み液)を利用し、自己治癒能力を引き出そうと いうわけです。

細胞を直接体内に投与しないので、移植医療などに比べて安全性は高いし、品質の良い幹細胞からあらかじめ 準備しておくことができるので、急性期や亜急性期でも使えます。規格化も非常に容易で、低コストです。 動物実験で幹細胞の培養上清を使って、いろいろな有効性が指摘されています。

東京クリニックなどでは、試薬をつくって、安全性を確かめる臨床研究を100例くらい行っていますが、 副作用が出た方はいません。

糖尿病の人のうち、生活習慣に注意している人では、血糖値が下がってきたり、糖尿病による末梢神経の しびれが改善したり、アルコールの飲み過ぎで肝機能が悪かった人の血液検査データの改善が見られました。

頸椎がずれていたり、こわれたりしている人で、手にしびれがある人が点滴をしたら、手のしびれや痛みが なくなったとか、腰が悪くて坐骨神経痛があった人が、点滴しているうちに痛くなくなったり、足のしびれが なくなったり、という症状の改善が見られました。神経のしびれにはいいみたいですね。

疲れやすさや肩凝りが改善したり、末梢神経障害の後遺症が改善したり、乾癬が改善したり、体温が上がったり、 まだ研究途中ですが、臨床研究として良い効果が見つかっています。

最後に今後の大きな可能性として、総合南東北病院では、非常に放射線治療が充実していますから、陽子線、 BNCTも含めて、放射線とのコンビネーションが良いこうした免疫の医療との併用について、もっと研究が進むと、 個々の治療の独自性もさらに高めていけるのではないか、と思っています。



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