「誰にもいないのに、  自分の悪口を言う声が聞こえる…」


「どうもこのごろ、疲れやすい」「仕事の能率が悪い」「家事をする気がしない」…そんな一見「怠けている」ように見られがちな状態の影に、もしかすると「鉄不足」があるかもしれません。「鉄不足」というとまず貧血をイメージしますが、実は貧血が現れるずっと前から、体の中の鉄は少しずつ目減りしているものです。栄養バランスを整え、体も心も元気に過ごしましょう。
 
 
 
◆貧血になる前から始まっている鉄不足
 体内でさまざまな役割を果たしている鉄。その60〜70%は血液に含まれるヘモグロビンの成分として、20〜30%は肝臓や脾臓、骨髄などに「貯蔵鉄」として蓄えられています(このほかに、筋肉の中や酵素の形でも存在しています)。
 血液中の鉄が不足すると、酸素が十分に運べなくなってさまざまなトラブルがあらわれます。でも、食べ物からとる鉄が不足したからと言って、すぐに貧血になるわけではありません。
 血液中の鉄が足りなくなると、体内の貯蔵鉄から不足分が補われます。つまり、まず貯蔵鉄が不足し(潜在性鉄欠乏)、貯蔵鉄から血液中に補充できなくなると血液中の鉄も不足して、ついには貧血になるというわけです。
 鉄はカルシウムと並んで不足しがちな栄養素の代表選手。とくに女性の鉄不足は深刻で、体内の鉄と栄養摂取量の関連を調べたある研究によると、女性のほぼ半数は鉄不足。中でも、通常の血液検査の結果にはあらわれず、それとは気づきにくい「かくれ鉄不足」は、3人に1人とかなり深刻な事態です。


あなたもかくれ鉄不足(潜在性鉄欠乏)では?
潜在性鉄欠乏(体内に貯蔵されている鉄の不足)は、次のような症状となってあらわれることがあります。当てはまる項目はいくつありますか?一つでもあるという人、鉄の摂取不足かもしれません。
このところ朝、なかなか起きられない
なんとなく食欲がない
集中力が持続しない
冷えがつらい
全身に怠惰感がある
肩こりがきつい
午後になると眠くなる
休日はごろごろしていることが多い
頭が痛かったり、重い感じがする
 
◆潜在性鉄欠乏が体の不調の原因である場合も
 上記のチェック項目、いくつ当てはまりましたか?これらは、個人差はありますが、潜在性鉄欠乏によって現れる症状です。鉄は体内で酸素を運搬するほか、ブドウ糖からエネルギーを生み出すために重要な役割を果たしたり、酵素の成分として活性酸素の外から体を守ったりします。鉄が不足すると、疲れやすくなる、頭痛を起こしやすくなるなどのトラブルが生じる恐れがあるのです。
 潜在性鉄欠乏は、血液中に含まれるフェリチンの値から判断できます。ただ、通常の健康診断で行われる血液検査では、ヘモグロビンの数値から鉄欠乏性貧血について調べるのが一般的。フェリチンの測定はプラスアルファで行われるため、貯蔵鉄について知る機会は少ないのが実情です。気になる人は、健康診断のときなどに検査を依頼してみるのも良いでしょう。


鉄不足を解消する4カ条
 
1.基本は正しい食生活から
 鉄不足を防ぐために、まず見直したいのは日常の食生活。とくに全体的な食事量が問題です。ダイエットをしている人は、とかくカロリーを気にして食べる量を減らそうとしますが、同時に体の機能の調節に関わるミネラルやビタミンといった栄養素も不足することに。鉄不足で体調を崩してしまったら、体重が減ったと喜んでばかりもいられません。また、朝食抜きなど食生活が不規則な人、好き嫌いが多い人も、鉄不足に陥る可能性があります。
 食事にも気を配っているつもりでも、暑いからと言って昼食はそうめんだけで済ませる日が続いたり、ついつい肉を敬遠したりする人も要注意。体内で少しずつ鉄が減っていって、夏バテなどが出るのが心配です。
 鉄の必要量は1日当たり男性が10mg、女性が12mg(ともに18〜69歳。閉経後の女性は10mg、妊婦と授乳中の女性は20mg)とごくわずか。ただし、鉄は肉や魚介、野菜など色々な食品に含まれていますが、その含有量は少ないものが多く、吸収率も高くありません。それだけに、きちんと食べなければ不足してしまうのです。


2.動物性食品には吸収率のよい鉄が豊富。積極的に補給を心がけよう
 大切なのは普段の食事をしっかり食べること。でも、どんな食品をとれば鉄が効率よくとれるのか、気になります。そこで、鉄の含まれている食品をおさらいしておきましょう。
 まずは、鉄補給の優等生、動物性の食品から。レバーや肉、魚介類は鉄の供給源としてよく知られています。牛や豚の赤身の肉(筋肉)には、体内に吸収されやすいヘム鉄(吸収率は摂取量の23〜28%)を含むミオグロビンが豊富。運動量の多い筋肉には酸素がたくさん必要なので、酸素と結びつくミオグロビンが多くなるわけです。魚も、マグロやかつおなどの刺身が赤い色をしているのは、長い距離を泳ぎまわるのに酸素を利用するためミオグロビンが豊富だからなのです。このほか、レバーにも鉄が豊富に含まれています。レバー〈肝臓)は貯蔵鉄のストック場所ということで、鉄が多いわけです。
 肉はしつこくて苦手という人、癖のあるレバーがどうしても食べられないという人も、赤身の魚の刺身や貝の汁ものなど、魚介類を上手に食卓に取り入れて、できるだけ動物性食品から鉄を補給しましょう。

 
『ヘム鉄を多く含む動物性食品』
<肉類> 1食分の
目安量
鉄含有量
豚レバー 60g 7.8mg
鶏レバー 60g 5.4mg
牛レバー 60g 2.4mg
牛もも肉(和牛・赤身) 80g 2.2mg
牛ヒレ肉(和牛) 80g 2.0mg
<魚介類> 1食分の
目安量
鉄含有量
アサリ(水煮) 30g 11.3mg
うるめいわし丸干し 大1尾(60g) 2.7mg
きはだまぐろ 80g 1.6mg
かつお 80g 1.5mg
まいわし 80g 1.4mg
かき(むき身) 60g 1.1mg
しじみ(殻つき) 1/2カップ(80g) 1.1mg

3.植物性食品に含まれる鉄は、食べ合わせで吸収率アップ!
 鉄の補給源としてお勧めの動物性食品ですが、実際には鉄の摂取量の3割程度を占めるにすぎません。日本人の食生活では野菜や豆、海藻など植物性食品が主な鉄の補給源です。ただし、その鉄は非ヘム鉄といって、動物性食品の鉄とは構造が少し違っています(植物性以外でも、卵に含まれるのは非ヘム鉄)。その人の体内の鉄貯蔵量によって異なりますが、鉄が不足していない健康な人の場合、非ヘム鉄は腸で吸収される割合が摂取量の1割以下と、低いのが特徴。でも、いっしょにとる植物の組み合わせを工夫することで、吸収率を高めることができます。

『非ヘム鉄を多く含む食品』
<野菜> 1食分の
目安量
鉄含有量
小松菜 70g 2.0mg
スイートコーン 1本(200g) 1.6mg
ほうれん草 70g 1.4mg
枝豆 50g 1.4mg
そら豆 5〜6個(50g) 1.2mg
切り干し大根 10g 1.0mg
<その他> 1食分の
目安量
鉄含有量
干しひじき 5g 2.8mg
青のり(素干し) 小さじ1(2g) 1.5mg
干しそば(乾麺) 100g 2.6mg
豆乳 コップ1杯(200g) 2.4mg
生揚げ 1/2丁(75g) 2.0mg
鶏卵 1個(60g) 1.1mg
ごま 大さじ1(10g) 1.0mg
 
4.サプリメントも上手に活用して食生活をサポート
 必要な栄養素は普段の食事でとるのが基本ですが、鉄の特徴は食品に含まれている量が少なく、体内への吸収率も低いこと。とにかく、前述の2.3.で挙げた食品を積極的にとって鉄の摂取量自体を高めることが重要ですが、不足を補うために、ライフスタイルに合わせてサプリメントを活用するのも良い方法です。どんな人がどんなときに利用すればよいか、ポイントをまとめておきました。

▼こんな人に鉄サプリメント
 加工食品やインスタント食品を食べる機会の多い人、外食の多い人、忙しくて食生活が不規則な人は、サプリメントで鉄の補給を考えると良いでしょう。また高齢者も、食事量が減る、動物性食品を好まない、消化器のトラブルを起こして鉄の吸収が妨げられやすいといった理由から、鉄不足になりがちです。妊娠中や授乳中の女性も、鉄の必要量が多くなります。
 なお、ほかの疾病で受診中の人がサプリメントを使用する際には、かかりつけの医師に相談してみましょう。

▼サプリメントをとるのは食事どき
 鉄の吸収を高めるためには、動物性たんぱく質が含まれる肉や魚、ビタミンCの豊富な野菜・果物を食べるときに摂取するのが効果的。サプリメントの摂取は食後がおすすめです。

▼摂取量は1日40mgまで
 サプリメントを利用する場合、気になるのが過剰摂取。鉄は1日100mg程度までであれば、吸収を抑制するメカニズムが働くため、過剰症の心配はありません。ただし、極端に大量の鉄をとり続けると、肝硬変や糖尿病を引き起こすといわれているので、注意しましょう。(厚生労働省による許容上限値は40mg)

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