広報誌 健康倶楽部/2010年6月号

摂食障害〜拒食症と過食症

 一般に 「拒食症」といわれる神経性食欲不振症や「過食症」など、身体的な病気がないのに食事がとれなかったり、逆に食欲のコントロールができずに食べすぎてしまう病を総称して摂食障害といいます。  

 拒食症とは、食べ物を食べない、食べられないといった状態が続く病気です。過食症とは、食べ物を大量に食べた後に吐いたり、「下剤」を使ったりして排出するといったことを繰り返す病気です。 

 何かショックなことがあって、食欲が一時的に落ちたり、やけ食いをしたりすることは多くの人に見られる現象ですが、摂食障害は単なる一過性の反応ではなく、長期間食事に関する問題が続き、しかも体型や体重に対する強いこだわりがあるのが特徴です。

 拒食症も過食症も体重が減ってきます。過食症は太りそうにも思えますが、食べる量より排出する量のほうが上回ってしまうことが多いのでやせてくるのです。極端な体重の減少があるにもかかわらず、本人には摂食障害の自覚がないことがほとんどです。

 拒食症は、摂食や激しい運動などで、適正な体重の15%以上のやせがみられ、月経が止まってしまうこともあります。それだけやせても、もっとやせたいと思ったり、少しでも太ると自分が醜いと思ってしまったり、体重だけで自己評価が大きく左右されるので、毎日の生活が体重の心配を中心に回るようになってしまいます。

 拒食が続くと、摂食を調節する脳の機能がうまく働かなくなり、空腹を感じなくなったり、かえって「低血糖状態」や「脱水状態」に快感を覚えるようになります。

 一方過食症は、ストレスを発散しようとして、短時間の間に大量の食べ物を食べてしまいますが、単なるやけ食いと違うのは、背後に拒食症と同じく「やせていないと自分は醜い」という思い込みがあるようです。そのため、過食の後、体重を元に戻そうと自分で嘔吐したり、下剤を使用したりします。すると、過食をしたり排出行動をとった自分に対して罪悪感が生まれ、ますます自分の価値が下がったように感じます。そのため「もっと頑張らないといけない」と思うようになり、それが新たなストレスとなって過食をするという悪循環に陥ってしまうのです。

 拒食症による栄養失調の状態が長く続いた後に、過食症になることもあります。過食だけではなく、お酒を飲みすぎたり、その他の薬物乱用が同時にみられるケースもあります。過食症の人の体重は、嘔吐や下剤乱用の程度にもよりますが、かなり低体重になった場合は拒食症と同様の合併症への注意が必要です。嘔吐や、下剤を大量に使っていつも下痢を起こしている場合は、胃液や腸液とともにカリウムが大量に失われ、低カリウム血症になります。そうなると不整脈などを起こしやすく注意が必要です。嘔吐を繰り返していると、胃酸が口の中や食道へ逆流するため、歯のエナメル質が失われたり、逆流性食道炎になってしまうこともあります。

 

摂食障害に気づくために

 摂食障害では、本人が自覚していなかったり、自覚していても隠したりすることがあります。しかし、進行すると命に関わることもあるため、極端にやせたり、短時間に大量に食べる、夜中に起き出して大量に食べている、食べた後すぐにトイレにかけこんでいるなどのサインに周囲の人が早く気づくことが大切です。摂食障害のサインに気づいた場合は、周囲の人が患者さんと一緒に内科を受診しましょう。患者さんが摂食障害が疑われる状態であることを医師に伝え、検査をしてもらいましょう。  

 摂食障害では、早い段階で体に異常が起こることがあります。検査で体の異常が見つかった場合、患者さんは自分が病気であることを自覚できるため、スムーズに治療できることも多いものです。

 

 

<周囲が気づくサイン>

拒食症

  • 小食である
  • 極端に体重が減ってきたり、やせてきた
  • なかなか食卓に着かない
  • 一人で食事をしたがる
  • 食事の時に食べ物を小さく切る
  • 活動的になる

過食症

  • 短時間に大量に食べ、食事に夢中になる
  • 食事の途中や食事直後、トイレに入ってなかなか戻ってこない
  • 家の食べ物がなくなる
  • 指に吐きだこができている

 

 

<摂食障害の治療>

  精神面の治療とからだの治療を行います。外来では、精神療法、家族療法などとともに、さまざまな検査をしたり、栄養指導などを行います。  体重低下が著しい場合や、抑うつ感や自殺願望が強い場合は入院治療をすることもあります。  摂食障害の根本にあるのは、ストレスを受けやすい考え方です。カウンセリングや精神療法で、こうした考え方を改めて自分をコントロールできるようにします。

<摂食障害の患者さんのいる家族の方へ>

 摂食障害の治療には、周囲の人の理解と協力が欠かせません。患者さんが摂食障害になった心理を理解してあげることが必要です。極端にやせたことを心配して食べることを勧めてしまいがちですが、食行動に干渉しすぎてはいけません。他の話をしたり、旅行などを一緒に楽しむことで意識を「食」以外に向けるようにするほうがよいでしょう。患者さんが人生を楽しんだり、満足するように支援することが大切です。

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