広報誌 健康倶楽部/2010年11月号
性行為によって人から人へと感染する病気を性感染症といいます。性行為の際に、皮膚や粘膜の病変部、体液の中にいる病原微生物が人から人へと感染するのが性感染(STD)です。淋病、梅毒、クラミジア感染症、HIV感染症(エイズ)などいろいろな病気がありますが、感染してもなかなか症状がでない病気もあります。
感染後に検査をしても、梅毒では6週間以上、HIV感染では12週間以上たたないと感染した証拠が現れません。性感染症は、性器にだけ症状が現れるとはかぎりません。唇、肛門、皮膚、のどなどに発疹や潰瘍といった症状がでることもあります。このため、性感染症と気づかないこともあります。男性と女性では症状の現れかたが違う病気もあります。淋病やクラミジア尿道炎などは男性では早くからはっきりと症状がでますが、女性は症状が軽いため気づかず、感染が進行したり、相手に感染させたりすることもあります。
性感染症は、本人が治療を受ける以外に、性行為の相手も検査を受け、感染していれば治療を受ける必要があります。
淋菌が感染しておこる病気で性感染症の中でも頻度の高いものです。男性では淋菌性膀胱炎、尿道炎、前立腺炎、副睾丸炎をおこし、女性では淋菌性膣炎や淋菌性頸管炎、子宮内膜炎、卵管炎、骨盤炎をおこします。
また、口腔性行為では淋菌性咽頭炎を、肛門性行為では直腸炎をおこします。いずれの場合も感染の悪化で菌血症をおこすことがあり、関節炎や心内膜炎の原因になることもあります。淋菌が目の粘膜に感染すると淋菌性結膜炎になることもあります。
男性に多い淋菌性膀胱炎の症状は感染後2〜5日後に排尿するときに焼けつくような痛みがあり、尿道口にびらんができ、膿が出てきます。
女性は淋菌性膣炎から始まり、おりものが多くなったり、外陰部にかゆみがあったりします。尿道まで広がると尿道炎の症状が現れます。淋病が疑われる場合は、男性は尿道から、女性は膣や子宮頸管から膿を採取し、淋菌を検査します。治療は抗生物質を使用します。
抗生物質を使ってもすぐに淋菌を根絶できるわけではありません。治療を終えて一週間位してから淋菌検出検査を行って、陰性になったことを確認する必要があります。
淋菌感染症の治癒判定までは、他の人に淋菌を感染させてしまう可能性があるので、性行為はしないでください。
近年、特に若い女性の患者さんが増加しており、性行為の若年化、多様化とともにその広がりが問題となっています。クラミジア感染症はクラミジアトラコマチスという細菌が性行為で感染しておこります。クラミジアによる尿道炎や子宮頸管炎は症状が軽いのが特徴で、感染しても気づかないことが多く、柏手に感染させたり、感染が進行してから気づいて障害を残したりする危険性があります。
男性は尿道炎、精巣上体炎、精管炎、前立腺炎、咽頭炎、直腸・肛門炎をおこします。女性は、子宮頸管炎、子宮内膜炎、卵管炎、骨盤腹膜炎などをおこします。女性の場合、クラミジアに感染したまま妊娠すると、流産の引き金になったり、分娩時に新生児に感染して、肺炎や結膜炎を起こす危険性が高くなります。
おりものや不正出血、下腹部痛、膀胱炎などが見られたらすぐに受診してください。
エイズはHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染でおこる、ゆっくり進行する感染症の終末像です。HIV感染症の主な感染経路の一つは性行為です。HIVに感染してもすぐにエイズにはなりません。症状が現れるまでに10年以上も症状がなく、元気で社会活動ができる期間があります。HIV感染者の血液、精液、膣からの分泌液には、他の人に感染するだけの量のウイルスが存在します。それらの体液と濃厚な接触があったときに人から人へと感染します。
もっとも多いのはHIV感染症にかかっている人との性行為による感染で、男女どちらへも感染します。
コンドームを使用しない性交渉では感染率が高くなります。また、出血しやすい性交渉のスタイルをとったり、他の性感染症のために局所の粘膜防御が壊れていると感染しやすくなります。
次に多いのは、HIVが含まれている血液との濃厚な接触です。具体的にはHIVを含む血液の輸血、非加熱血液製剤の注射、注射の回し打ち、針刺し事故などです。
3つめはHIVに感染している母親から新生児への母子感染です。HIVに感染しても、すぐにはエイズにはなりません。感染して10〜14日に発熱、のどの痛み、リンパの腫れなどの急性症状に気づくこともありますが、その後は何も自覚症状のないまま病気は進行します。免疫不全がおこるまで自覚症状はありませんが、人にHIVを感染させる能力はあります。検査を受けなければHIV感染を知ることはできません。
HIV検査は各都道府県の保健所で匿名・無料で受けられます。感染の可能性があったときから3カ月以降であれば感染したかどうかの確実な判定ができます。
HIV感染予防のために注意すること
・性交時は、必ずコンドームを使用する
・不特定多数の人と性交をしている人、あるいは安全な性交をしない人との性交渉は避ける
・血液が付着する可能性のあるカミソリや歯ブラシ、タオルの共用を避ける
HIV感染の心配をしなくてよい場合
・咳、くしゃみの飛沫
・食器の共用
・風呂やプール
・握手などの接触