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頸椎変性疾患

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頸椎症性脊髄症、頸椎症性神経根症、頸椎椎間板ヘルニア

頸椎症(頸部脊椎症とも言う)(けいついしょう)cervical spondylosisは椎間板の退行性変性が原因で、椎間板ヘルニア、骨棘、後縦靱帯肥厚、黄色靱帯肥厚などの圧迫要素が発達する。脊髄圧迫による脊髄症(せきずいしょう)myelopathyと脊髄から枝分かれした神経の圧迫による神経根症(しんけいこんしょう)radiculopathyに分類される。頸椎症性脊髄症の症状としては、箸がうまく使えない、書字が乱れる、上着のボタンのかけはずしがうまくできない、ポケットの中の小銭をつかみにくいなどは両手の巧緻運動障害(こうちうんどうしょうがい)が挙げられる。また、歩行障害も加わり、歩行中、脚の運びがぎこちなく、とくにつま先がひっかかりやすく転倒しそうになることがある。このような症状が、滑って転倒して首をひねった後、あるいは交通事故後などに急に起こり、救急外来に搬送され、精密検査の結果、頸椎症性脊髄症と診断されることが多くみられる(図1-1)。

神経根症では首のうしろの痛みで発症することが多く、その後、上肢痛あるいは手指のしびれが出現し、さらに脱力に進行する。「手の脱力感」は一見脊髄症状と誤認されがちですが、正しくは神経根症状です。脊髄症状における運動障害は両手の巧緻運動障害と痙性歩行障害です。一方、神経根症状はデルマトーム(皮膚支配領域)に一致した領域の上肢~手指のしびれ、痛み、そして筋力低下が主症状です。頸椎症を有する方は超高齢化社会を反映して潜在的に多くいることが推測される。また、日頃無症状でも転倒あるいは軽微な外傷を契機に四肢麻痺などを呈する「骨損傷のない頸髄損傷」に遭遇することがあり、このような例は根底に強い頸椎症が存在する。

治療はまずは安静、頸椎カラー、鎮痛剤などの保存的治療から開始する。多くは保存的治療で症状がかなり軽快する。脊髄症では手指の巧緻運動障害、歩行障害、膀胱・直腸障害など日常生活動作に大きな支障をきたす場合、神経根症では難治性の激しい上肢の痛み、脱力あるいは筋の萎縮を呈する場合などに手術的治療が考慮される。

保存的治療および手術的治療と並行して、頸椎の筋萎縮を防止するための維持療法が必要です。マッサージは確かに心地よいのですが、自分で運動しないと筋力はつきません。最も手軽にできる筋萎縮防止の方法を紹介します。頸椎の等尺性筋強化運動isometric stretching exercise(ISE)という方法で、前後屈、左右側屈、左右回旋に対して10秒間筋収縮を行い、各運動を3-10回、1日3-4回繰り返します(図1-2)。

手術療法

この分野の手術法はめざましい発達を遂げている。脊椎インストルメントというチタン製(図1-3)あるいはピークpolyetheretherketone (PEEK)製の人工椎間スペーサー、チタン製のプレート、スクリュー、ハイドロキシアパタイトhydroxyapatiteという骨の基質からなる物質などが使用され、術後早期の離床、退院、職場復帰に貢献している。

脊髄症状が3椎間レベル以下で、前方要素が圧迫原因となり、頸椎X線撮影側面像の動態撮影(屈曲・正中・伸展位で撮影)で不安定性がある場合などは頸椎前方除圧固定術(けいついぜんぽうじょあつこていじゅつ)(図1-4~1-9)による前方アプローチが選択される。顕微鏡下に椎間板摘出後、神経圧迫要素である骨棘をドリルで削開し(図1-4)、肥厚した後縦靱帯を露出・除去し(図1-5上)、硬膜を露出展開し、減圧を終了する(図1-5下)。現在、固定用の脊椎インストルメントとして各種形状のチタン製(図3)あるいはPEEK製ケージが利用されている。ケージによる椎間固定は安全に確実な固定が可能で、1椎間の手術では術後数日での退院も可能です。従来、頸椎前方固定術で使用していた自家腸骨からの移植骨採取を必要としないことから、術後の腸骨採取部の痛みがありません。また、腸骨採取部近傍を通る外側大腿皮神経の損傷による大腿外側近位部の痛み・しびれ(Meralgia Parestheticaと言います)も術後に起こることはありません。ケージは手術用顕微鏡下での操作が前提であることから、使用者は大半が脳神経外科医です。術後の後療法(頸椎カラー装着など)も短期間で済みます。但し、固定が強固なために、固定椎間の隣接上・下椎間に過度の負荷がかかり、不安定性を生ずることがあり、最近ではチタン製ケージの使用は2椎間までが妥当とされています。

多椎間レベルの外科的治療

3椎間レベル以上の狭窄があり、不安定性がなく、頸椎の彎曲alignmentが前弯を維持されている場合、頸椎椎弓形成術(けいついついきゅうけいせいじゅつ)(図1-10~1-13)が一般に選択される。

頸椎椎弓形成術の従来法(図1-10~1-14)は、後頸部の傍脊柱筋を広範に剥離展開したことから、術後、後頸部の筋萎縮をきたし、頑固な後頸部痛(axial pain)を起こすことが知られている。しかし、最新の傍脊柱筋を愛護的に扱う手術法(図15-18)ではこのような後頸部痛をきたすことが少なくなり、手術翌日から離床および歩行が可能です。

多椎間レベルの狭窄所見があり、上肢および手のしびれ、痛みなど神経根症状が主症状の場合、頸椎椎弓形成術を実施すると、脊髄の後方偏移に伴う神経根の牽引(tethering)により、術前よりさらに神経根症状が増強することがあります。神経根症状が強い場合は、3椎間の頸椎前方除圧固定術を行うことがある(図1-19~1-21)。

頸椎椎間板ヘルニアの外科的治療

骨棘形成が軽度あるいは頸椎椎間板ヘルニア(図1-22)(椎間板の退行性変性に陥った椎間板が後方に脱出し、脊髄あるいは神経根を圧迫するもの)の場合、医療材料費の高騰を抑えることを目的としてボックスタイプのチタン製あるいはPEEK製ケージ(図1-23~図1-26)による頸椎前方固定術が最近普及してきている。ケージの中には自家頸椎骨あるいはハイドロキシアパタイトを充填する(図1-24~1-25)。

椎体切除による外科的治療

頸椎椎体の変形が強く、神経圧迫要素になっている場合、頸椎の後彎変形が強い場合、あるいは頸部後縦靱帯骨化症の場合には椎体切除術(ついたいせつじょじゅつ)(vertebrectomyあるいはcorpectomy)を必要とする場合がある。従来、腸骨などの自家骨あるいはハイドロキシアパタイトを椎体切除部に移植したが、最近ではチタン製人工椎体(中に椎体切除で採取した自家頸椎骨を充填する)とチタン製プレートの併用による頸椎前方除圧固定術が行われる(図1-27~1-28)。

頸椎後縦靭帯骨化症

後縦靱帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)ossification of posterior longitudinal ligament(OPLL)は、わが国では重要な脊髄症起因疾患のひとつです。脊椎椎体の後縁を連結し、脊柱のほぼ全長を縦走する後縦靱帯が骨化することにより、脊髄あるいは神経根の圧迫をきたした疾患です。

1960年月本が剖検例で確認し、1964年寺山らが「頸椎後縦靱帯骨化症」と命名した歴史的背景があります。頸椎後縦靱帯骨化症は40歳以上に好発し、日本人成人の1.6%にみられ、男性:女性=3:1と男性に多くみられるが、胸椎での頻度は0.8%で、女性に多い特徴がある。同一家族内発生率は23%で、一卵性双生児では85%にのぼる。

日本の発生率は2.1%と高く、韓国1.0%、台湾2.1%、中国1.6%、モンゴル1.8%、フィリピン1.5%と東南アジアにも比較的多発する。米国ではミネソタ州0.1%、ハワイ州0.6%、ニューヨーク0.7%、ユタ州1.3%で、多国籍の人口が多い州では比較的高い傾向にある。ヨーロッパではドイツ0.1%、イタリア1.7%で、欧米でも決して稀な疾患ではない。

後縦靱帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)ossification of posterior longitudinal ligament(OPLL)は、わが国では重要な脊髄症起因疾患のひとつです。脊椎椎体の後縁を連結し、脊柱のほぼ全長を縦走する後縦靱帯が骨化することにより、脊髄あるいは神経根の圧迫をきたした疾患です。

1960年月本が剖検例で確認し、1964年寺山らが「頸椎後縦靱帯骨化症」と命名した歴史的背景があります。頸椎後縦靱帯骨化症は40歳以上に好発し、日本人成人の1.6%にみられ、男性:女性=3:1と男性に多くみられるが、胸椎での頻度は0.8%で、女性に多い特徴がある。同一家族内発生率は23%で、一卵性双生児では85%にのぼる。

日本の発生率は2.1%と高く、韓国1.0%、台湾2.1%、中国1.6%、モンゴル1.8%、フィリピン1.5%と東南アジアにも比較的多発する。米国ではミネソタ州0.1%、ハワイ州0.6%、ニューヨーク0.7%、ユタ州1.3%で、多国籍の人口が多い州では比較的高い傾向にある。ヨーロッパではドイツ0.1%、イタリア1.7%で、欧米でも決して稀な疾患ではない。

形態分類では分節型(50.4%)、混合型(30.7%)、連続型(18.9%)に分類される(図1-29)。治療が困難なことがあり、難病(特定疾患)のひとつに指定され、医療費公費負担の対象疾患である。

頸椎後縦靱帯骨化症に対する治療は、頸椎症、頸椎椎間板ヘルニアおよび頸部脊柱管狭窄症などの頸椎変性疾患と同様で、保存的治療から開始する。後縦靱帯骨化は非常にゆっくり増大することから、症状発現時には骨化巣が非常に発達し、脊髄を強く圧迫変形していることがある。偶然に発見された無症状例では厳重に経過観察をする。しかし、脊髄症状を有し、進行性で、日常生活動作あるいは仕事上大きな支障をきたしている場合には手術的治療が考慮される。

頸椎後縦靱帯骨化巣は脊髄の前方に局在することから、頸椎前方除圧固定術が理想的な手術法と言える(図1-30~1-34)。

しかし、頸椎前方除圧固定術は分節型を除き、椎体切除、椎体固定およびプレート固定が必要になり、手術難度が高まる。また、後縦靱帯骨化巣は時に硬膜と一塊化、すなわち、硬膜の骨化を伴うことがある。したがって、骨化巣の摘出で硬膜欠損を生じ、髄液漏をきたす。一昔前はこの髄液漏対策が困難で、術後に数日に亘るベッド上安静、スパイナルドレナージの留置が必要となりました。現在では吸収性ポリグリコール酸フェルト(NeoveilR、Gunze)およびフィブリン糊などの手術材料の発達により、術中の髄液漏コントロールが可能になってきた。しかし、頸椎前方除圧固定術では常に念頭におくべき合併症です。

連続型など広範囲に骨化が存在する例では、頸椎椎弓形成術が選択されます。観音開き式、片開き式など種々の方法がありますが、当方では棘突起正中割断による観音開き式を採用している(図1-35, 1-36)。また、従来法と異なり、傍脊柱筋を温存させた手技を採用し、早期離床および早期退院が可能である。