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腰椎変性疾患

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腰椎椎間板ヘルニア

腰椎椎間板ヘルニアとは、腰の骨と骨をつないでいる椎間板という軟骨が、椎間板の後ろにある脊柱管という神経を入れてある管の方にはみ出てしまう病気です(図2-1, 2-2)。腰の神経は脚全体に分布していることから、ヘルニアが神経を圧迫し、脚の特定部位に痛みやしびれを生じます。痛みやしびれが生じる場所は、圧迫を受けた神経の支配領域に一致します。腰椎椎間板ヘルニアで最も多いのは第4腰椎と第5腰椎間のヘルニアで一般に第5腰神経の支配領域に一致して痛みとしびれを生じる(図2-3, 2-5)。腰椎椎間板ヘルニアで次に多いのは第5腰椎と第1仙椎間のヘルニアで多くは第1仙骨神経の支配領域に一致して痛みとしびれを生じる(図2-3, 2-6)。症状がすすむと、痛みだけでなく、脚に力が入らない(筋力低下)、触った感覚が鈍い(知覚障害)といった症状もあり、おしっこがでにくいなどの排尿障害が起こることもあります。また、足の親指や足首を上に挙げることが困難になります。

少し専門的になりますが、腰椎椎間板ヘルニアは脱出部位により症状発現が異なります(図2-4)。第4/5椎間板ヘルニアの場合、 ①medial type(正中型):硬膜嚢を圧迫し、複数の神経根症状を呈し、馬尾神経症状を呈する。②posterolateral type(後外側型)および③foraminal type(神経孔型):L5神経根を圧迫し、L5神経根症状を呈する。④far-lateral(超外側型)あるいはextra foraminal type(椎間孔外側型):脊柱管外に脱出し、L4神経根を圧迫し、L4神経根症状を呈する。尚、⑤L4/5椎間板ヘルニアが上方へ脱出するとL4神経根症状を呈し、同様に⑥L5/S1椎間板ヘルニアが上方へ脱出するとL5神経根症状を呈する。

治療法は、非ステロイド性鎮痛剤などの薬物治療と、コルセット装具などによる安静治療が基本ですが、牽引治療などの理学療法が有効なこともあります。痛みが強い場合は、注射やブロック療法を行います。ほとんどの腰椎椎間板ヘルニアは、これらの保存的な治療で症状が軽快する。また、椎間板ヘルニアの中には、自然に吸収され、小さくなっていくものもあります。しかし、保存的治療では軽快せず、筋力低下が著しい場合、排尿障害がある場合、下肢痛が持続する場合などは、手術が考慮されます。

腰椎椎間板ヘルニアに対する手術は腰椎手術の中では基本的なものですが、決して初心者手術ではありません。生死にかかわる重大な医療事故例も報告されています。辻陽雄先生(富山医科薬科大学名誉教授)が述べているように、「基本的な術式であるが、経験を重ねれば重ねるほど千差万別の難しさのあるもので、初歩的な手術では決してありえない。」私もこれには全く同感です。

外科的適応

相対的適応

1) 数ヵ月の保存的療法が無効である。但し、10歳代は6ヵ月、9歳以下は少なくとも1年は経過観察する。
2) 痛みはさほどでないが、麻痺が進行し、強いしびれを訴える。
3) 根性痛の複数回の既往があり、保存的療法で完治が望めない。
4) 下肢の強い運動麻痺(母趾背屈力低下、下垂足)
5) 単一根性の間欠性跛行 intermittent claudication

絶対的適応

急性馬尾症候群 acute cauda equina syndrome
下肢・会陰部の知覚障害、下肢の弛緩性麻痺、膀胱・直腸障害、インポテンス、坐骨神経痛

脊椎・脊髄外科領域にも日帰り手術の波が押し寄せ、腰椎椎間板ヘルニアの内視鏡手術が盛んに行われるようになってきました。さらに、テレビモニター上で2次元観察しかできない内視鏡手術の大きな欠点(すなわち、立体観察ができない)を補うべく、筒型開創器(tubular retractor)を利用した顕微鏡下手術(図2-7~2-11)が始まり、当部門でも平成16年より導入しました。この低侵襲手術法の結果、従来の顕微鏡下椎間板ヘルニア摘出術よりさらに入院期間の短縮、創部痛の軽減が可能となっている。

脳神経外科医による脊椎・脊髄外科

脳神経外科、略して脳外科という名称は実は日本でのみ通用する名称です。欧米では神経外科と言われます。この名称を反映してか、日本における脳外科は脳血管障害、脳腫瘍、頭部外傷など脳疾患を扱い、背骨の病気は整形外科が担当すると誤解されています。

腰椎椎間板ヘルニアは坐骨神経痛の最も多い原因です。この発生機序を臨床的に初めて解明したのはアメリカ・マサチューセッツ総合病院神経外科の初代チーフであるMixterで、1934年にNew England Journal of Medicineという学術雑誌に報告しています。この時のヘルニア摘出術は椎弓切除と経硬膜アプローチで行われ、侵襲の大きいものでした。現在、ラブ法と呼ばれ広く知られている椎弓間・硬膜外アプローチでの椎間板ヘルニア摘出術の基本的手技を確立したのはアメリカ・メイヨークリニックの神経外科医であるLoveで、1938年にJAMAという学術雑誌に発表しています。手術用顕微鏡を使用した腰椎椎間板ヘルニア摘出術を最初に実施したのは顕微鏡手術の父と言われているスイス・チューリッヒ大学神経外科元教授のYasargilです。

このような歴史的背景から、欧米の(脳)神経外科での脊椎・脊髄手術が占める割合は手術全体の60-70%を占めます。お隣韓国でも脊椎・脊髄外科診療を担当するのは(脳)神経外科医が中心で、脊椎・脊髄手術の占める割合は欧米よりさらに高いと言われています。遡ること朝鮮戦争の時に、アメリカ軍医の指導による脊椎・脊髄外科治療がそのまま定着した歴史的経緯があります。

腰部脊柱管狭窄症

直立での歩行継続が困難で、しゃがみこんで前かがみになることで回復することを間欠性跛行(かんけつせいはこう)といいます。原因別に馬尾性(ばびせい)、末梢性(まっしょうせい)、脊髄性(せきずいせい)に分類されますが、前2者が多く、脊髄の血管奇形などが原因の脊髄性はまれです。

馬尾性は腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)によって起こります(図2-12~2-14)。脊髄が入っている背骨の管(脊柱管)が狭くなり、脊髄から枝分かれした神経の束(馬のしっぽに似ていることから馬尾と言われる)が潰されることを指します。加齢現象に伴い、脊柱管を構成する椎間板、椎間関節、黄色靭帯などに退行性変化(膨隆・肥厚)が生じ、結果として硬膜嚢、馬尾神経、腰髄神経根が圧迫される病態です。お尻から脚の後ろ側にかけてのしびれのために歩行困難となり、しゃがみこむか、立ったまま前かがみ姿勢をとると改善します。路上でシルバーカーを押しながら腰を前かがみにして歩いている高齢者をみかけることがありますが、腰部脊柱管狭窄症の実例です。末梢性は下肢の動脈の血流不全によって起こり、多くはふくらはぎの痛みのため歩行困難となります。末梢性間欠性跛行の治療は心臓血管外科、循環器科で行われますので、専門医にご相談ください。

馬尾性間欠性跛行の治療は鎮痛剤、コルセット着用、神経ブロック療法などの保存的治療から開始されます。無効な場合に手術が考慮される。

今日のように高齢者の一人暮らし、老齢夫婦だけの所帯の増加、そして同居世帯でも日中若い人が働きにでて日中放置される高齢者が増加しています。このような状況では少なくとも身の回りのことが自分でできて、自力移動ができなければ生活が成り立たない状況におかれています。当事者である高齢者も年のせいだからしょうがないと自分で納得し、かかりつけ医も同様なことを高齢者に言います。また、一般脳神経外科外来でみることが多い脳卒中後遺症をもつ患者さんにいたっては脳卒中後遺症による片麻痺と失語症などに加え、変形性腰椎症による腰痛と下肢痛の多重苦を強いられているのが現状です。適切な治療で勿論麻痺は回復しないまでも腰痛と下肢痛が軽減されるだけで、その高齢者のQOLは大幅に改善します。このような理念で我々は全身状態が許せる範囲で高齢者医療に積極的に取り組んでいます。脊椎・脊髄外科領域で最も多い手術症例はこのような腰椎変性疾患です。

手術は通常、腰椎開窓術(ようついかいそうじゅつ)(図2-15~2-19)といって術後の脊椎変形の進行を最小限にする方法が第一に選択されます。最近ではより体に負担の少ない手術が行われ、幅22mm前後の筒を神経がつぶれている部位に挿入し、内視鏡あるいは手術用顕微鏡で神経の圧迫をとる方法が開発され、入院期間の短縮と早期の社会復帰が計れるようになってきました。

この分野では脊椎固定のための脊椎インストルメントの適正使用の是非が問題となります。脊椎外科領域では腰椎椎体間固定および椎弓根(ついきゅうこん)スクリュー (pedicle screw)固定という腰椎すべり症や腰椎不安定性病変対する手術が盛んに行われています。この手術で使用される脊椎インストルメントは高額で、医療費高騰の一因となっています。脊椎インストルメントを留置するためには腰椎支持組織に大きな侵襲を加えることになり、術後に耐えがたい腰痛をきたすことがあり、いわゆるFBSS (failed back surgery syndrome)の原因のひとつに挙げられる。顕微鏡下に低侵襲手術に心がけ、その結果として腰椎支持組織への侵襲が最小限に抑えられ、術後に腰椎の不安定性をきたすことが少ない。したがって、脊椎インストルメントによる固定が不要になる。すなわち、腰椎の不安定性と腰椎支持組織の温存とのバランスの取れる範囲内での手術侵襲に止めるか否かの違いです。基本的手術は開窓術で、強い不安定性が存在する場合に初めて腰椎椎体間固定および椎弓根スクリュー固定を選択するのが、基本的な治療方針と考えている。

腰椎変性すべり症、腰椎分離すべり症

腰椎すべり症とは推骨が前方にずれた状態で、腰椎変性すべり症(図2-20)と腰椎分離すべり症があり、両者ともに腰椎の変性がベースにあります。腰痛が主な症状ですが、坐骨神経痛や間欠性跛行の症状が現われることがある。腰部や殿部が重苦しい・だるいような痛みで、痛みは激しい運動や作業後に現われるが、安静あるいは活動を控えると軽減することが多い。

腰椎分離症(図2-21)は、腰椎の関節突起部に離断がある病態で、骨格の未発達な成長期におこる疲労骨折が原因です。腰椎分離症の好発年齢である10~15歳以降の発症は稀です.腰椎分離症の10~30%が腰椎分離すべり症を発症すると言われている。

腰椎変性すべり症の好発部位は第4腰椎で、腰椎分離すべり症のような椎弓の分離はありません。加齢によって椎間板や椎間関節の変性が進み脊椎が緩んだ状態になって第4腰椎の下関節突起部分が第5腰椎の上関節突起部分を少し乗り越えて前にずれることで脊柱管が狭まく(脊柱管狭窄症)なって腰痛などの症状が発現する。腰椎変性すべり症は女性の高齢者に好発し、腰痛が主な症状ですが、坐骨神経痛や間欠性跛行の症状が現われることがある。脊椎の安定に大切な椎間関節が形態的に弱い人に多く起こりやすいとされている。

腰椎分離すべり症の好発部位は第5腰椎で、椎弓の分離と椎体のすべりが認められる。若い頃は無症状ですが中高年になって腰痛の自覚症状が現れる。坐骨神経痛や間欠性跛行の症状が現われることがある。

各種保存的治療が無効で、日常生活あるいは仕事に大きな支障をきたしている場合に外科的治療が考慮される。腰椎不安定性を伴う腰椎疾患に対して腰椎固定術が行われる。腰椎椎間固定法には3つの代表的な手法(図2-22)がある。

1) 後方腰椎椎体間固定術PLIF (posterior lumbar interbody fusion)
2) 経椎間孔椎体固定術TLIF (transforaminal lumbar interbody fusion)
3) 前方椎体間固定術ALIF (anterior lumbar interbody fusion)

の3法です。前2者が主に実施されています。通常、腰椎椎間固定術だけを単独で行うことは少なく、椎弓根スクリュー(pedicle screw)固定を追加します。適応は限られるが、腰椎椎間固定術に棘突起間プレートによる固定(図2-50~2-52)を併用する手法もある。

不安定性の強い腰椎変性すべり症、腰椎分離すべり症などで行われます。椎間板摘出後、椎体間にチタン製(図2-23)、カーボンファイバー製あるいはPEEK製スペーサー(図2-24)を挿入留置します。その後、椎弓根スクリューを挿入して椎体間の安定化を図ります。脊柱管の前後を固定することから初期固定性に優れ、早期離床および早期退院が可能です。

総合南東北病院 脳神経外科/脊髄外科では、平成18年より、CD HORIZON SEXTANTR Rod Insertion System (Medtronic)を導入している(図2-25左)。

この手技は次世代の椎弓根スクリュー挿入法です。従来、椎弓根スクリューを挿入するには背中の筋肉を広く開創することから、腰椎支持組織に大きな侵襲を加えることになり、術後に耐えがたい腰痛をきたすことがありました。新しい手法では、椎弓根スクリュー(図2-26~2-28)は小さな開創部から経皮的に挿入し、椎弓根スクリューを連結するのも図2-25、48のように彎曲したロッドをやはり小さな開創部から経皮的にスイングさせるように挿入・設置します。航海計器の六分儀(図2-25右)になぞらえてSextantと命名されている。脊椎外科手術の中で、大きな外科侵襲の代名詞であった後方腰椎椎体間固定および椎弓根スクリュー法がより低侵襲的に実施できるようになりました。術後の創部痛も従来法に比べて軽度です。Pathfinderシステム(Stryker)、Mantisシステム(Stryker)、Viperシステム(DePuy・Johnson&Johnson)など他社メーカーからも随時開発されている。

以下、腰椎変性すべり症に対してPLIFおよび椎弓根スクリュー固定を実施した代表例を呈示する

症例1 (66歳、女性)  図2-29~2-35

平成16年1月頃から、歩行および立位時の鈍い腰痛、両大腿後面の痛み、しびれおよび冷感あり、平成16年3月に某院受診。L4/5レベルにMeyerding I度のすべり症と、腰椎X線動態撮影で、腰椎不安定性が指摘された。保存的に経過観察されていた。4年後の平成20年3月当方受診。歩行および立位時の腰痛、両下肢の痛み、しびれ、冷感がさらに増強し、ADLおよび仕事に大きな支障をきたすようになった。腰椎単純X線撮影で、L4/5間のすべりがMeyerding II度に進展し、L4/5椎間腔の狭小化および腰椎不安定性も増強していた。平成20年5月14日にL4/5レベルのPLIFおよび椎弓根スクリュー固定を実施した。

術後約3年が経過し、難治性の腰痛および下肢症状は全快している。

症例2 (69歳、女性) 図2-36~2-41

8年来の歩行時の腰痛があり、1年前から両側臀部、大腿および下腿外側に放散するしびれ、痛みが加わり、さらに、間欠性跛行を呈するようになった。立位および歩行で症状は増強した。神経学的には左足背側に軽度の知覚低下および両側長母趾伸筋の筋力低下が指摘された。アキレス腱反射および膝蓋腱反射の低下がみられた。SLRテストで下肢痛の誘発はなかった。Japanese Orthopedic Association (JOA) scoreは13/29 points (I 2/9・II 3/6・III 8/14・IV 0/-6) であった。L4/5レベルのPLIF & 椎弓根スクリュー固定術を実施した。

術後2年が経過し、術前症状は寛快している。神経学的には正常で、JOA scoreは26/29に改善した。

症例3 (69歳、女性) 図2-42~2-47

5年来の歩行および立位時の腰痛があり、1年前から両側臀部、両大腿前面、左大腿~下腿外側のしびれ、痛みが加わり、さらに、間欠性跛行を呈するようになった。神経学的には大腿四頭筋およびhamstringの筋力低下が指摘された。JOA scoreは11/29点であった。不安定性を伴った腰椎変性すべり症の診断で、L3/4レベルのPLIF & 椎弓根スクリュー固定術を実施し、また、左L4/5レベルの開窓術を追加した。

術後1年が経過し、術前症状は寛快している。神経学的には正常で、JOA scoreは27/29に改善した。

症例4 (69歳、女性) 図2-48~2-51

2-3年来の左に強い両下肢のしびれ、痛みがあり、徐々に増強し、ここ6ヵ月間は立位、歩行時の腰痛が強く、外出が困難になった。両側L4、L5、S1神経根領域に知覚低下あり、MMTで大腿四頭筋、ハムストリング・前脛骨筋・腓腹筋に5-/Vの筋力低下がみられた。SLRテストは右80度、左90°であった。深部腱反射の低下が認められた。平成22年9月7日にL3/4およびL4/5レベルのPLIFおよび椎弓根スクリュー固定術を実施した。術後、徐々に歩行障害、下肢痛は軽快し、現在、経過観察中である。

最後に、PLIFおよび棘突起間プレート固定は適応が限られるが、椎弓根スクリュー挿入が「糠に釘」となりかねない、とくに骨粗鬆症が強い高齢者では有用と考えられるので代表例を紹介します(図2-52・2-54)。