増えている 大腸がん
 がんのなかでも、最近急増しているのが肺がんと大腸がん。
なかでもここ10年で患者数が倍増した大腸がんは、2015年には罹患率
トップに、死亡率は肺がんに次いで2位になると予想されています。
 大腸がんを防ぐにはどういった点に注意すればよいのでしょうか。
 
大腸がんはなぜ増える?
 がんは、細胞の遺伝子が傷ついて発生するもの。ほとんどの傷は生体の機能により修復されるのですが、喫煙や誤った食習慣などのために修復が間に合わなくなり、遺伝子に傷が積み重なっていきます。傷ついた遺伝子をもつ細胞が増え続けると、年月を経てがんになるのです。がん全体の発生原因の30%に喫煙が、35%に食事が関係するといわれます。
 大腸がんは、結腸がん直腸がんに大別されます。かつて、日本人の大腸がんといえば結腸がんを指すといわれたほどでしたが、近頃は直腸がんが増加し、S状結腸がんがそれに続いています。
 大腸がんが増えている大きな原因として、日本人の食生活の変化があげられます。食物繊維の多い穀類や野菜中心の伝統的な和食が減り、動物性脂肪の多い食事を摂る機会が増えたことは、どなたも実感されているでしょう。
 動物性脂肪を消化するために、胆汁が大量に分泌されます。その一部が腸内細菌によって酸化され、二次胆汁酸へと変化します。この二次胆汁酸が発がん物質として働くのです。
 大腸の終点に近いS状結腸や直腸は、発がん物質と接する時間が長いため、結果的に大腸がんが多発すると推定されています。
 
大腸がんの症状
 および検査・治療法
 大腸がんは比較的長い時間をかけて進行するので、早期にはほとんど自覚症状がありません。進行するにつれて排便時の腹痛や、病巣部からの出血により便に血が混じる、通過障害により便が細くなる、排便後にも残便感があるなどの症状を自覚するようになります。そういった症状に加え、体重が減ったり、だるさや微熱などの不調を感じたりしたら、迷わず受診しましょう。
 健康診断や人間ドックに広く取り入れられている便潜血検査では、肉眼的にわからない出血もみつかります。検査を受けた人の約7%が陽性ですが、その多くは痔による出血もしくはポリープで、がんが発見されるのは陽性者の0.2%程度です。
 また、健康な50代の人の5割、60代の6割に大腸のポリープがあるといわれています。そのほとんどが良性で、大きさが直径5mm以下の盛りあがった形状のポリープはがん化しにくいようです。
 確定診断には、肛門から造影剤(バリウム)と空気を注入して「注腸造影検査」を行なったり、内視鏡を挿入して内部を観察します。また、放射性物質と糖を含む薬液を注射して行なう「陽電子放射断層撮影(PET)」は、一度に全身を検査できるため、がんの早期発見に役立つと期待されています。
 万が一がんが発見されても、粘膜や粘膜下層にとどまっていれば内視鏡での切除が可能です(図2)。場合によってはポリープやごく早期のがんを切除する「大腸内視鏡検査」などが行なわれます。
 しかし深いところまでがん細胞が達していたり、遠くの臓器に転移があったりする進行がんでは、開腹手術の適応となります。ごく早期ではないが開腹するほどではない場合は、腹壁を数か所小さく切開し、腹腔鏡を挿入して行なう「腹腔鏡下手術」が選択されることも多くなってきました。
 この20年間で最も進んだのは直腸がんの手術法といわれます。命さえ助かればよいという考え方から、排泄機能や性機能を温存させ、生活の質(QOL)に配慮した治療法が選択されるようになりました。
 
一次予防と二次予防
 がんの一次予防とは、がんにならないよう日常生活に注意することをいい、二次予防とは定期的に検診を受け、早期発見・早期治療して完治させることをいいます。
 一次予防の柱となるのは、食生活の改善と禁煙です。動物性脂肪を減らし、食物繊維の多い野菜などをたっぷり摂りましょう。また、ヨーグルトなどに含まれる乳酸菌には胆汁酸を酸化させる腸内細菌を減らす働きがあり、カルシウムは二次胆汁酸と結合して排出させる作用があるので、ともに大腸がんの予防効果が期待できます。平成15年国民栄養調査の結果によれば、1日当たりの食物繊維摂取量は平均14.3gで、目標量に到達していません(表2)。
 また、肥満男性に大腸がんが多いことから、運動による体重コントロールも重要です。ウォーキングなど無理なく継続できる運動を日常生活に取り入れましょう。
 
 大腸がんはゆっくり進行するので、早期発見できれば100%完治させることが可能です。発症には遺伝的要因もかかわるため、祖父母・両親・兄弟にがん患者がいる人や、40代以上の人は毎年必らず検診を受けましょう。「禁煙・食事・運動・検診」が、大腸がん予防のためのキーワードなのです。
 
1日あたりの食物繊維摂取目標量(表1)
年齢(歳)
性別
18〜29 30〜49 50〜69 70以上
男性 20g 20g 20g 17g
女性 17g 17g 18g 15g
1日あたりの食物繊維摂取量(表2)
年齢(歳) 総数 1〜6 7〜14 15〜19 20〜29 30〜39 40〜49 50〜59 60〜69 70以上
食物繊維総量 14.3g 8.4g 13.7g 13.1g 12.4g 12.8g 13.6g 15.7g 17.5g 15.5g

   コラム「食物繊維と大腸がん」
 食物繊維には大腸がんの予防効果があるのか―。
 1993年から4年間にわたり、国内初の食物繊維に関する臨床試験が行なわれました。これは、大腸の良性ポリープや早期がんを切除した経験のある40〜65歳の男女400人を4グループに分け、食物繊維の摂り方によってがんの発生率に差があるかどうかを調査したものです。しかし結論からいうと、食物繊維が大腸がんを予防するという明確な結論には至りませんでした。
 90年代から世界各地で行なわれた同様の臨床試験でも、同じような結果がでています。
 ところが、世界保健機関(WHO)の関連施設である国際がん研究機関がヨーロッパ8か国52万人を対象に行なった調査では、食物繊維の摂取量が多い人は、少ない人に比べ、大腸がん発生率が25%少ないという結果がでています。これは、イギリスの権威ある医学誌「ランセット」2003年5月3日号に掲載されました。
 果たして食物繊維が大腸がんを直接予防するかどうかは、今後の研究結果を待つ必要がありそうです。しかし、便の量を増やし排泄を促進する食物繊維は、有害物質が腸内に停留するのを防ぎます。心筋梗塞や糖尿病にかかるリスクを減らす効果があるともいわれるので、積極的に摂りたいものですね。


−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2006年1月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載
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