アトピー性皮膚炎
 
  かゆみを伴なう湿疹が、身体の様々な部位にできるアトピー性皮膚炎。
  命にかかわる病気ではありませんが、慢性的な強いかゆみは、不眠を引き起こしたり、
 ストレスの原因になるなど、患者さんのQOL(生活の質)を著しく低下させるものです。
  最近は、子どもだけでなく、大人にも増えている病気です。
アトピー性皮膚炎とは?
  身体がある物質に免疫学的に過剰に反応し、特定の症状が起こるアレルギー性疾患。
  アトピー性皮膚炎は、気管支喘息やアレルギー性鼻炎と並ぶ、三大アレルギー疾患のひとつ
 です。
  現在その患者数は、子ども大人ともに増加傾向にあります。
  アトピー性皮膚炎は、乳幼児期に発症することが多く、慢性的な経過をたどりますが、
 成長するにつれて治ってしまうことも多くあります。ただ、子ども時代にアトピー性皮膚炎を
 患っていた人が、大人になって再発するケースも増えているようです。
  アトピー性皮膚炎の原因は非常に複雑です。「もともと遺伝的にアレルギーを起こしやすい
 体質」、「ドライスキン(コラム参照)」、「アレルギーを引き起こす物質(アレルゲン)が周囲に
 ある」、「ストレス」、などといった要因が絡み合うことで発症すると考えられています。

アトピー性皮膚炎の症状
  アトピー性皮膚炎の一番の症状は、湿疹による強いかゆみです。このかゆみにより皮膚をかき
 こわしてしまうと、皮膚の状態が悪化し、さらにかゆみが増すという悪循環に陥りやすくなります。
  こうした湿疹のできる部位は、年齢によって変化します。
●乳幼児期
  赤い小さな湿疹が、顔や頭部を中心に出現します。患部は
 じゅくじゅくと湿っぽくなりやすく、湿疹は水疱となり、かきむしる
 とつぶれてかさぶたに変わります。そして、再び刺激を受け
 ると、また湿疹、水疱、かさぶたの過程を繰り返します。
  症状の進行とともに、皮膚の表面は次第に乾燥がちになって
 いきます。   
●小児期
  湿疹がひじやひざの裏側など、関節部にもできるようになり
 ます。
  全身の乾燥が目立つようになり、粉をふいたようになります。  
●思春期以降
  湿疹が上半身を中心に多く出現します。また四肢にもできるよ
 うになります。
  乾燥した皮膚は赤みをおび、厚くかたくなります。
図1〜3 赤色・・・湿疹の非常にできやすい部位  黄色・・・湿疹のできやすい部位 
アトピー性皮膚炎の治療
  アトピー性皮膚炎の根治は難しく、対症療法が中心となります。しかし、@〜Bの治療を
 地道に取り組むことで、症状を軽減させることは充分可能です。
@湿疹の改善
  かゆみの元となる湿疹を改善するために、軟膏などの外用薬を患部に塗布する治療が行われま
 す。用いられる薬は、ステロイド外用薬や非ステロイド系外用薬などです。また免疫抑制薬の含ま
 れた軟膏もよく使われています。
  ステロイドによる副作用を心配される患者さんもいますが、患者さんの症状にあったものが使用さ
 れますので、医師が処方した用法・用量をきちんと守れば、心配することはありません。
  また、抗ヒスタミン薬などの内服薬は、かゆみを軽減させる効果があります。
Aアレルギーの抑制
  アレルギー反応を抑制するためには、皮膚の湿疹を引き起こしている原因物質=アレルゲン
 を突き止める必要があります。検査や問診によりアレルゲンが特定された場合は、その物質を
 避けた生活を送るようにします。アトピー性皮膚炎のアレルゲンの多くは、イエダニやハウスダ
 ストだといわれています。
  また、食べ物がアレルゲンとなっている場合は、栄養が偏らないよう、医師と相談しながら代替
 食品の利用などを検討します。
B皮膚の保護
  乾燥した皮膚は、外部からの刺激に非常に弱くなっています。皮膚が乾燥しないように、保湿
 クリームなどを用いて毎日こまめにスキンケアを行います。
  また、できるだけ皮膚の刺激になるものを避けることも必要です。

必ずよくなると信じる 
 アトピー性皮膚炎の患者さんのほとんどが、夜も眠れなくなるようなつらいかゆみを感じ、そして、そうしたかゆみが精神的なストレスとなっています。
 ストレスは症状の悪化要因にもなりますので、家族をはじめ、周囲の人たちのアトピー性皮膚炎に対する正しい理解とサポートが必要になります。
 長い時間を要しますが、必ずよくなると信じて、治療を続けていくことが大切です。

●日常生活で気をつけたいこと
住環境
 ・じゅうたんや畳はダニのすみかになりやすい。床はフローリングに。
 ・ほこりをためないようまめに掃除機をかける。
 ・部屋の換気をよくする。 
衣服
 ・服は柔らかい布地のものを着る。ただし化学繊維や羊毛は避ける。
セルフケア
 ・身体の清潔を保つため、毎日入浴をする。
 ・浴そうやシャワーのお湯が熱すぎないようにする。
 ・入浴後はすぐに保湿クリームやローションを身体に塗り、水分が逃げないようにする。
 ・石けんやシャンプーは、成分が皮膚に残らないように、よくすすぐ。
 ・爪は常に短く切っておく。
 ・汗をかいたらシャワーを浴びる。
気をつけたい悪化要因
 これらは皮膚を刺激し、湿疹を悪化させることがあります。
 ・夏の高温多湿・・・汗をかきやすくなるため
 ・冬の乾燥
 ・紫外線
 ・大気汚染
 ・プール・海・・・塩素や塩分が刺激になる
 ・医薬品
 ・シャンプー
 ・リンス
 ・入浴剤
 ・洗剤
 ・塗料
 ・イエダニ
 ・ホコリ
 ・ゴキブリ   など
 
<コラム> ドライスキンとかゆみの仕組み
 健康な状態の皮膚は、角質細胞がきめ細かく並び、その表面を皮脂が覆っています。また、保水力の高い脂質が、細胞の間をしっとり潤しています。これらは外界からの刺激を遮断するバリアーの役目もします。
 一方、アトピー性皮膚炎の患者さんは、生まれつき皮膚の脂質が少ない傾向にあり、そのため角質細胞に隙間があき、外部からの刺激が皮膚の内部に伝わりやすくなっています。(図6)このため皮膚に含まれる水分が蒸発しやすく、乾燥がすすみます。これを「ドライスキン」といいます。
 また、図5のように、皮膚の表皮と真皮の間には、「かゆみ」を感じる感覚器が分布しています。皮膚から侵入した何らかの刺激が感覚器に触れると、この情報が脳に伝達され、私たちはかゆみを感じるのです。
 ドライスキンの場合は、些細な刺激にも敏感に反応するため、かゆみを感じやすくなります。 
 
  

−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2006年5月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載
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