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前立腺は膀胱の下にあり、なかを尿道が通っています(図参照)。栗の実ほどの大きさで、その重さは数グラムほどのものです。前立腺の機能などについては、まだ解明されていない部分もありますが、精液の構成成分となる前立腺液の分泌がおもな働き。さらに精子に栄養を与える、精子の運動能力を高めるといった働きや、射精における収縮、尿の排泄などの役割も担っています。 |
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この前立腺が加齢とともに肥大化することにより、尿道や膀胱が圧迫され、さまざまな排尿障害がでてくる病気が前立腺肥大症です。前立腺肥大症の患者数は増え続けており、現在では50歳以上の男性の2割以上がかかっているといわれています。
前立腺肥大症の原因については、現在のところはっきりしたことは分かっていません。ただ、加齢とともに男性ホルモンの分泌が減り、そのために男性ホルモンと女性ホルモンのバランスが崩れることがおもな原因と考えられています。
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おもな症状は排尿障害、つまりおしっこの出方の異常で、次のような症状が現われます。
*頻尿=トイレが近い。
*夜間頻尿=とくに夜、何度もトイレに起きる。
*排尿遅延=おしっこの出方が悪い(すぐにでない。時間がかかる)。
*残尿感=終わっても、まだ残っている感じがする。
*尿勢の低下=尿腺が細くちょろちょろと勢いがない。
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排尿のトラブルがしばしばあって医療機関を訪れると、まず問診によってその障害が日常生活に及ぼす支障を調べます。この問診では「IPSS(国際前立腺症状スコア)」という、WHO(世界保健機構)が1995年に定めたものがよく使われます(表1参照)。自覚症状を点数化(スコア化)することで、客観的に病状の把握ができるわけです。 |
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また次のような検査も行います。
☆直腸診
肛門より指を入れ、前立腺を触診。大きさ、硬さ、表面の状態などを診る。
☆尿検査
前立腺だけでなく、腎臓の働きや、糖尿病、膀胱炎、がんの可能性などを調べる。
☆超音波検査(腹部エコー検査)
臓器をモ二夕−画面上に映しだしてみる、身体への負担が少ない検査。画面の映像から、
前立腺や膀胱の形、大きさ、さらに残尿量もわかる。
☆血液検査
腎臓の機能や前立腺がんの有無、前立腺肥大症の程度などを知ることができる。
☆尿流量測定(ウロフローメトリー)
センサーのついた装置に排尿し、排尿量やそれに要する時間などのデータを計測。
尿の勢いなどが分かる。
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前立腺肥大症の治療は、症状が軽ければ、まず薬物療法を行います。薬の効果は症状が軽いうちほど高いのですが、放置したまま悪化してしまうと外科的手術が必要になる場合も少なくありません。 |
薬物療法
☆α1受容体遮断薬
α1受容体は前立腺や尿道の筋肉にある、蓄尿をコントロールする器官です。
自律神経の命令により緊張している前立腺や尿道の筋肉をリラックスさせる働きがあるため、
排尿障害のさまざまな症状が改善されます。前立腺が小さくなるわけではありませんが、
軽い症状なら早期改善が望めます。
☆抗男性ホルモン薬
前立腺肥大を起こす男性ホルモン(テストステロン)の作用を抑えることにより、前立腺細胞の
増殖を抑制し、肥大を起こさないようにする薬です。使用開始後、効果が現れるまでに数か月
かかります。また、服用を中止すると再び肥大してしまいます。
☆漢方薬
漢方薬には、排尿障害に効果のあるものも何種類かあります。しかし、患者さんの体質によって
処方される薬が違ってきます。
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手術療法
☆内視鏡手術
症状が重く、薬物療法では十分な改善がみられなかった場合、内視鏡手術が必要となります。
内視鏡を挿入し、肥大した前立腺の組織を電気メスやレーザーで切除します。所要時間は1時間
程度ですが、3〜7日間ほどの入院が必要です。
☆開腹手術
前立腺がかなり大きくなっている場合、前立腺をすべて摘出するために、開腹手術が行われる
こともあります。この場合、2週間以上の入院が必要になります。
☆レーザー治療
尿道から挿入した内視鏡の先端からレーザー光線を照射して、前立腺の肥大した組織を
凝固・壊死させる方法です。1週間以内の入院で、身体への負担が少なくてすみます。
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前述のように、まだ分からない部分も多い前立腺肥大症ですが、前立腺および膀胱、尿道への刺激を繰り返していると、症状がでやすいといえます。長時間寒冷所にいる、水泳などで身体を冷やす、イスに座りっぱなしなどはあまりよくありません。また、短時間での大量の水やアルコールの摂取などは考えものです。
このように、前立腺の病気は食生活や運動などとの関わりが考えられます。排尿障害を悪化させないための生活をぜひ考えてみましょう。
また、かぜ薬や頭痛薬、内視鏡検査などで使用する薬剤のなかには、前立腺肥大症の方が使用すると、尿閉を招きかねない成分が含まれているものもあります。処方の際や検査のときには、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。 |
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