寒さに注意! 高血圧
 朝晩冷え込む季節には、温かい布団から抜けだすのが一苦労で、思わず寒さに身が縮みます。トイレに行って「ぶるっ」、パジャマを脱いで「ぶるぶるっ」。実はこの瞬間、あなたの血圧は急上昇しているのです。
寒い季節はご用心
 冬になると、体温を逃がさないよう毛細血管が収縮するため血圧も上がります。寒いトイレでいきむと平均60mmHg上昇するといわれ、くも膜下出血が排便中に起こるケースも少なくないようです。また血圧は、1日のうちでは起床する頃に高くなりやすいため、脳卒中や心筋梗塞による死亡数は朝7時頃から増え始め、10時頃ピークを迎える傾向があります。普段血圧が高めの人は、動脈硬化により血管の内部が狭くなったり、加齢により動脈が弾力を失なったりしているため、とくに冬の朝は注意が必要なのです。
血圧を上げないための冬の生活10か条
1 早寝早起き、起床直後の行動はゆっくりと
2 トイレや脱衣所も暖房するエ夫を
3 便秘に注意し、10分以上いきまない
4 出勤は余裕をもって。階段の駆け上がりや、満員電車に無理やり乗り込むのは危険
5 寝不足の翌日、重労働は避けよう
6 食事は薄味の腹八分目で
7 寒い夜のはしご酒は危険がいっぱい
8 入浴はぬるめの温度で、肩までつからない
9 準備運動を充分行い、毎日軽い運動を
10 禁煙しよう
仮面高血圧
 治療が必要にも関わらず発見されにくい「仮面高血圧」。これは、診察室で測ると正常なのに家庭や職場での血圧が高い状態をいい、正常血圧の仮面を被った隠れ高血圧という意味で「仮面高血圧」とよばれます。
 仮面高血圧には2種類あり、ひとつめは健康診断等でも見逃され、本人にも自覚がないタイプ。原因は職場や家庭での強いストレスや喫煙ですが、血圧測定の順番を待つ間にストレスから解放されてリラックスしたり、一定時間タバコを吸わないことなどで血圧が下がるため発見されにくいのです。
血圧の測り方
〈朝起きたら…〉
1時間以内に測る
朝食や降圧剤を服用する前に測る
排尿を済ませてから測る
座った体勢で1〜2分安静にしたら測る
〈夜寝る前に…〉
座った体勢で1〜2分安静にしたら測る
 ふたつめは、治療で降圧剤を内服しているのに夜間の血圧が充分下がらず、早朝に急上昇するタイプ。これは内服薬や服用時間をかえたりすることで対処可能です。ただし、主治医に必ずご相談ください。
 仮面高血圧は、良好に治療できている場合や白衣高血圧に比べ、心筋梗塞や脳卒中のリスクが3倍も高くなります。どちらのタイプも、発見には家庭での血圧測定が不可欠。朝と寝る前に血圧を測りましょう。さまざまな血圧計がありますが、指先や手首に装着するタイプは誤差が大きく、正確に測定するのが難しいので、上腕(肘の上)で測るタイプのほうが望ましいでしょう。結果は毎日記録し、上が135以上、または下が85以上の場合はすぐ受診を。その際、記録のメモを持参するとなおよいでしょう。
日常生活で気をつけることは
 日本高血圧学会では、血圧が高めの人のために次のようなガイドラインを定めています。
@食塩の摂取量を1日6g未満に
 国民栄養調査によれば、日本人の平均食塩摂取量は推定1日11.5g。食塩によって必ず血圧が上がるわけではないが(食塩感受性という)、過剰摂取は心臓・腎臓などの重要な臓器を傷め、胃がんや、尿路結石にも関係がある。
 しょうゆや塩は、かけるよりつけるほうが摂取量を減らせる。また、だしやレモン汁などで割る、片栗粉でとろみをつけたりすることで、少ない塩分量でも満足できる味付けになる。なおミネラル分が多いとされる岩塩等も、摂り過ぎが害になることに変わりはない。
A野菜・果物を積極的に摂取、コレステロールや飽和脂肪酸の摂取は控える
 野菜や果物に含まれるカリウムは、塩分を体外に排出する働きをする。冬場が旬のほうれん草やブロッコリー、大根などの根菜類、りんごや柿などを上手にメニューに取り入れよう。
 コレステロールの多い鶏卵や魚卵、飽和脂肪酸の多い肉類は、きのこや海草など食物繊維の豊富な食品と一緒に調理するとボリュームも増えて一石二鳥。ただし果物は意外にカロリーが高く、食べすぎは禁物。
B適正体重を維持する
 「体重(kg)÷身長(m)2」で表わされるBMlが25を超えないことが基本。軽い高血圧の場合、体重を約4kg減量できれば血圧が正常化するという報告もある。
C適度な運動を行う
 血行がよくなると血圧も下がる。目標は1日30分以上の有酸素運動(ウォーキング、水泳など)を毎日行うこと。
 しかし寒い時期にいきなり戸外へでると血圧も急上昇し危険。血圧が上がりやすい早朝を避け、準備運動で充分体をほぐし、防寒も忘れずに。
 また天気の悪い日は無理をせず、屋内で軽い体操を行うだけでも効果がある。
※運動を行う際は事前に主治医に必ず相談をすること。
Dアルコールはほどほどに
 適量を超す長年の飲酒は高血圧の原因となる。とくに男性の大量飲酒者は脳卒中を起こしやすい。
E禁煙
 喫煙は仮面高血圧の大きな原因であり、がんや脳卒中、狭心症や心筋梗塞を引き起こす危険因子にもなる。また降圧剤のβ遮断薬の効果を弱めるので、高血圧と診断されたら禁煙することが絶対条件。
コラム  DASH食
 米国立保健研究所などが提唱する、高血圧患者のための食事療法がDASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)食です。血圧を下げる作用のある食品は、単独で食べるより組み合わせて摂るほうが効果が大きいため、DASH食またはこれに準ずる食事を続けることにより、軽症の場合は降圧剤を服用しなくても済むようになる人もいます。
 DASH食の基本は、
1 野菜・果物・低脂肪の乳製品を充分摂る
2 肉類および砂糖を減らす
 という2点です。具体的には、緑黄色野菜と淡色野菜を毎食取り入れ、果物はカリウムの多いバナナ・プルーン・りんごなどがよく、また、鶏肉以外の肉を減らして魚を増やします。肉の調理は皮や脂を取り除き、揚げずに網焼きしたりゆでたりします。低脂肪の牛乳・ヨーグルト・チーズ等でカルシウムを充分補ない、ナッツ類や豆類も意識して摂り、パンは全粒粉を使ったものがよいでしょう。
 逆に減らす食品は、牛肉や豚肉(脂身)、甘いお菓子、砂糖を含むソフトドリンク類などです。
 伝統的な和食をDASH食と比較すると、食物繊維・カリウム・マグネシウム・カルシウムはやや低いものの、バランスはよいといえます。しかしコレステロールと塩分が多めなので、卵などを控え、低脂肪の乳製品をプラスした薄味の和食であればDASH食に近くなるでしょう。
 ただし、腎疾患の人が果物や野菜のカリウムを摂りすぎると害があります。また糖尿病の人が果物やナッツ類を多量に摂るとカロリーオーバーにつながるので、食餌療法を検討する際は必ず主治医にご相談ください。
 日本人の約3千5百万人が高血圧といわれ、これは新生児も含めた全人口の約3割に当たります。国民病ともいえる高血圧は、脳卒中や心臓病など重篤な疾患につながりやすいため、放置するのは大変危険です。毎日血圧を測って自己管理の習慣を身につけ、健やかな年末年始を過ごしましょう。


−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2006年12月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載
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