椎間板ヘルニア
 重いものを持ち上げた、あるいは、何かの拍子に、突然、立っていられないほどの腰痛が…。
 急な腰痛のとき、まずは、安静にして無理に動かないことが大切です。ただし、足のほうに響くような痛みやしびれを感じる、排尿・排便ができない…こんなときは迷わずに病院で治療を受けてください。椎間板ヘルニアの心配があります。
椎間板の構造と椎間板ヘルニア発症のしくみ
 腰痛の原因で最も多いのが椎間板ヘルニアです。
 椎間板ヘルニアとは、背骨の腰部の椎骨と椎骨の間でクッションの役割を果たしている軟骨(椎間板)が変性し、組織の一部が飛びだすことをいいます(ヘルニア=何かが飛びだすこと)。このとき、飛びだした椎間板の一部が付近にある神経を圧迫し、腰や足に激しい痛みやしびれなどの症状を起こします。この症状を坐骨神経痛といい、椎間板ヘルニアの代表的な症状となっています。

坐骨神経痛は病名ではなく、「症状」のことをいいます(坐骨神経痛という病気を治療するというのではなく、坐骨神経痛を起こしている病気は何かをつきとめ治療する)。
椎間板ヘルニアの発症原因
 椎間板ヘルニアの発症は、環境要因(姿勢・動作)や遺伝要因(もともとの体質・骨の形)そして、加齢が関係しています。
 椎間板には、座る、立ったまま前屈みになるといった姿勢や動作でも体重の約2・5倍の圧力がかかるといわれ、こうしたことの繰り返しが、椎間板に変性をもたらし、椎間板へルニアに発展するものと考えられています。
治療法(保存療法と手術療法)
 腰痛には、椎間板ヘルニア以外にもさまざまな原因がありますが、椎間板ヘルニアと診断されたときの治療法についてみていきましょう。
 椎間板ヘルニアの治療法は、保存療法と手術療法があります。この病気は、自然治癒することもあるため、まずは、保存療法から治療が進められます。
保存療法
@神経ブロック
 激しい痛みを抑えるために、局所麻酔やステロイド薬を注射し痛みを和らげます。注射の部位によっては、患者さんの安全を考えて、入院が必要な場合もあります。
A薬物療法
 非ステロイド性消炎鎮痛薬や筋弛緩薬を使って痛みを抑えます。
B理学療法
 痛みが落ちついたあと、筋肉を強化するための体操や、専用の器具で身体を「牽引」することなどが行われます。
手術療法
 手術療法は、保存療法を行っても痛みがとれない場合や、脚に麻痺がある場合、または、日常生活に支障があって本人が希望する場合などに行われます。また、厚生労働省の作成した診療ガイドラインによると、「排尿・排便障害がある場合」には、48時間以内に緊急の手術を受けるように勧められています。
@後方椎間板切除術
 患部を背中側から切開し、ヘルニアを切除します。
A椎間固定術
 金属などで骨を固定する方法で、とくに腰痛がひどい場合に、後方椎間板切除術と同時に行われます。
B経皮的椎間板療法
 背中を切開せずにヘルニアを切除する新しい手術法です。ただし適応するヘルニアのタイプが限られます。また、この手術法のなかでレーザーを使用する場合は、健康保険が適用されません(2007年1月現在)。
予防・再発防止のために
 腰痛のほとんどは、日常生活における何気ない姿勢や動作によって引き起こされます。腰への負担を日頃から減らすように工夫し、腰痛の発作の回数を減らすことは、椎間板ヘルニア発症を防ぐ方法につながります。また、すでに椎間板ヘルニアを経験された方の再発防止にもなるでしょう。
 椎間板ヘルニアの予防・再発防止には、ストレッチをしたり、体重の増加に気をつけたり、筋力を強化することなどが大切になります。下にまとめた項目を読んで、日常生活に反映させてください。
椎間板ヘルニア 〜日常生活で気をつけたいこと〜
姿 勢 ◎長時間に渡って同じ姿勢を取り続けないように注意
腰には座っているだけでも思わぬ負担がかかっています。適度に休憩し、緊張をほぐし、負担をかけ続けないように工夫します。
座る 床に座る場合、あぐらは正座や横座りより腰に負担がかかります(膝との兼ね合いによる判断も必要です)。
イスに座る場合、イスが高すぎると腰に負担がかかるので、膝が股関節よりやや高めになるように調節します。
運転 運転前に深く腰かけて背中を密着させた状態で足がペダルから離れすぎないようにドライバーシートを調節してください。また、運転中は適度な休憩を取ってください。車の乗り降りも注意が必要です。
掃除機
がけ
掃除機のホースを身長に合わせて調節し、できるかぎり上半身を起こした姿勢で行いましょう。屈まなければならないときは、膝をついて行うようにするとよいでしょう。
台所仕事など 台所仕事をするときは、足元に足台を用意して片方の足を交互に乗せて休ませると効果的です。
動 作 ◎持ち上げる、取る、ときの注意
ものを持ち上げたり、取ったりするときは、腰を落として自分のほうへ引き寄せてからにします。中腰やひねりながらはやめましょう。また、自分より高い位置にあるものは、台を利用し、背中をそらさないように工夫します。運ぶときもできるだけカートを利用してください。
その他の注意点 筋力の
強化
背筋・腹筋を鍛えることで、お腹周りの筋肉が天然コルセットとなり、負担に強い腰を作ります。
ストレッチの奨励 背筋・腹筋の軟性は、痛みの軽減につながります。
体重 体重オーバーは背骨のカーブを不自然にし、腰にかかる負担も増やします。適正体重の維持に努めてください。
コラム
頚椎椎間板ヘルニア
 本文では、腰部に起こる「腰椎椎間板ヘルニア」についてご説明しました。椎間板ヘルニアにはこの他に、首(頚部)に起こる「頚椎椎間板ヘルニア」があります。頚椎椎間板ヘルニアは、首、肩、背中、腕や手に痛みや痺れなどの症状を起こし、下半身に及ぶこともあります。その他にも、はしが持ちにくい、服のボタンがかけにくいなどの症状が現れる場合もあります。
 腰椎椎間板ヘルニアを発症した方で、遺伝要因に原因があった方は、頚椎椎間板ヘルニアにも充分に注意してください。


−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2007年2月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載
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