ストレスが引き金
不安障害
ストレスと「神経症」
 心の病気とストレスの関係が深いことは、広く知られるようになりました。ただ“ストレス”とひと言で表わしても、入学や卒業、就職、結婚、転居、近親者の死などの身近な出来事(ライフ・イベントといいます)、過労や加齢による身体の衰え、季節の変化など色々なことが影響します。
 また、たとえ同じ出来事でも、個人の性格(物事の受け止め方)によって、人が感じるストレスの大きさは変わります。特別な出来事が思い当たらない場合でも、ちょっとした環境の変化などで心身の状態が変わったときに、心の病気になりやすいといえるでしょう。
 かつて、ストレスが引き起こす病ともいわれた「神経症」には、様々な症状がありましたが、国際的な診断基準が見直され(DSM−W)、最近では「神経症」という言葉は診断名としては使われなくなっています。
 新しい疾病分類のひとつである「不安障害」は、かつて神経症とよばれた病態と重なっており、ストレスや過労がきっかけになり引き起こされることも多くみられます。
不安障害とは
 不安障害とは、症状の中心が「不安」である様々な疾患の総称です。不安を感じるという経験は誰でもありますが、不安障害では不安の対象が漠然としていることが多く、程度が極端です。
 不安障害には、「全般性不安障害」「パニック障害」「社会恐怖」「強迫性障害」「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」などが含まれています。
 かつて不安神経症とよばれていたものは、全般性不安障害とパニック障害にあたります。
不安障害に含まれるもの
・広場恐怖を伴なわないパニック障害
・広場恐怖を伴なうパニック障害
・広場恐怖
・特定の恐怖(先端恐怖、高所恐怖など)
・社会恐怖
・強迫性障害
・心的外傷後ストレス障害(PTSD)
・急性ストレス障害
・全般性不安障害
・一般身体疾患による不安障害
・特定不能の不安障害
全般性不安障害
《症状と原因》
 漠然とした慢性的な不安に悩まされ、また身体にも様々な症状が現われます。
 精神症状として、自分の今の状況や体調、起こるかもしれない事故や失敗などについての強い不安や心配があげられます(他人からみれば、気にならないことであったり、考えても仕方ないように感じられる事柄であったりします)。また強い焦燥感を感じたり、些細なことにびっくりしたり、何をするにもおっくうで何もしない(できない)、などのこともあります。思考力や集中力、注意力、記憶力、判断力が低下し、疲れやすくなります。不眠症、または過眠(眠り過ぎること)の場合もあります。
 身体症状では、頭痛・頭重感、めまい、ふるえ、発汗、筋肉痛、首や肩のこり、動悸、息苦しさ、胸痛(または胸部の不快感)、下痢、便秘、吐き気(または腹部の不快感)などがあります。
 原因は1つではなく、神経伝達物質などの生物学的要因、遺伝的要因、心理社会的要因が絡まっていると考えられます。ストレスをうまく解消できないときになりやすいともいわれますが、それ以外でも発症する可能性があり、睡眠不足や風邪、過労などの身体的な疲労がきっかけになることもあるようです。女性に多く、男性の2倍程度ともいわれています。
《診断・治療》
 まずは、身体疾患ではないことや、他の精神疾患による不安症状でないことを確認した上で、治療が行われます。身体症状に関して内科的検査を受けてから、精神科・心療内科の診断を受けることになるでしょう。
 薬物療法としては、気持ちを落ち着けるための抗不安薬が有効です。また抗うつ薬も用いられます。本人の性格や生育歴(生い立ち)が症状に関係していると思われるときは、精神療法(カウンセリング)が並行して行われることも多くあります。
全般性不安障害
《症状》
漠然とした、慢性的な不安が生じるとともに、
様々な身体症状が現われる
《原因》
ストレス、脳内の神経伝達物質の分泌トラブル、
遺伝的要因、身体的な疲労など複数
《治療》
抗不安薬や抗うつ薬などによる薬物療法を行う。
また、症状により、カウンセリングが行われることもある
 
パニック障害
《症状と原因》
 突然、理由もなく強い不安や恐怖に襲われる発作(パニック発作)が起こり、その後も頻発するようになる不安障害です。
 具体的な症状としては、動悸、息苦しさ、めまい、ふるえ、胸痛、発汗、吐き気、非現実感、離人感(自分が自分でないような、夢のなかにいるような感じ)などが現われることが多く、皮膚が冷たく(または熱く)感じたり、手足がしびれたりすることもあります。
 発作自体は短時間(20〜30分程度)で治まりますが、息苦しさや動悸の激しさから「心臓の病気ではないか」と考え、救急車をよんでしまうケースも少なくありません。
 何度か発作を繰り返すと、そのうちに、また発作が起こるのではないかという「予期不安」や、このまま気が狂ってしまうのではないか、死んでしまうのではないかという恐怖感に襲われることも特徴です。
 発作の頻度は様々ですが、予期不安が強いと、生活や行動に支障がでるようになります。1人での外出や乗りものに乗ることが不安で困難な状態になる(広場恐怖の症状を伴なう)場合も多くあります。
 発症には心理的原因ではなく、中枢・末梢神経の調節障害などといった脳機能のトラブルの関与が指摘されています。その一方でストレスや過労が最初の発作の誘因になることが多いとも考えられています。つまり、何らかのストレスが引き金となって自律神経系が興奮し、ノルアドレナリン(興奮を促進する脳内神経伝達物質)が過剰に分泌されて、パニック発作が起こるといわれています。
《診断・治療》
 薬物療法では、抗不安薬や抗うつ薬がよく用いられます。発作が起こる頻度を減らしたり、「また起きるのではないか」という不安を抑えることに役立ちます。
 予期不安や広場恐怖に関しては、精神療法(とくに認知行動療法)も有効です。例えば「発作が起きても死んでしまうわけではない」と学ぶなど、物事のとらえ方を変えることで、不安を減らしていきます。また、心身のリラクゼーションや呼吸法を練習する場合もあります。
パニック障害
《症状》
突然、理由もなく、強い不安や恐怖に襲われるパニック発作が起こる
→発作を繰り返すことにより「予期不安」や「広場恐怖」なども生じる
《原因》
中枢・末梢神経の調節障害など。ストレスが引き金となり、
脳内で神経伝達物質の分泌トラブルが起こることも関与か
《治療》
抗不安薬や抗うつ薬などによる薬物療法、認知行動療法、
心身のリラクゼーション、呼吸法などが行われる
 
終わりに…
 心の病気は誰でも一生のうちにかかる可能性があるといわれ、決して特別なことではありません。
 もしパニック障害や全般性不安障害と診断されたら、自分の状態を、性格の問題だとか気のもちようだと思わずに、「不安になる病気」なのだと受け止めて、根気よく治療をしていくことが必要です。
広場恐怖
人混みのなかや広い場所などにいると、強い不安や恐怖を感じ、
そのような場所でパニック発作を起こすことがあります。発作が起こったとき、
その状況から逃げられないのではないか、という不安から、そのような場所を
避けるようになり、外出できなくなるなど、生活に支障をきたす状態です。


−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2007年6月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載
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