最近のがん情報と肝臓がん
 日本人の死因としてもっとも多いがん。部位別にみてみると、胃がん・肺がん・大腸がん・肝臓がんが上位を占めています。(表1参照)。そして、患者数、死亡者数の多いがんのなかで、肺がんなどとともに、5年生存率が低いとされているのが肝臓がんです。今回は、最近のがん情報と、肝臓がん(肝細胞がん)について、ご紹介します。
最近のがんの傾向
 がん全体の患者数、死亡者数は年々、増加しています。
 ただし、これは高齢者の増加に起因するもの。そこで、高齢化の影響を除いたがんの傾向を男女別にみてみると、90年代後半からは、がん全体の患者数、死亡者数は減少、または横ばい状態であるとされています。
 では、部位別の傾向はどうでしょう。患者数は依然、胃がんが多いのですが、死亡者数では肺がんが胃がんを抜いてトップになっています。また、女性では肺がんなどの罹患者数や、乳がんの罹患者数、死亡者数が、男性では前立腺がんなどの罹患者数が増えています。
 
がんによる死亡者数・死亡率順位・患者数順位の変遷  (表1)
死亡者数 年齢調整死亡率順位 年齢調整罹患率順位
1980年 1980年 1位 2位 3位 4位 5位 1980年 1位 2位 3位 4位 5位
男性 93.501人 男性 肝臓 大腸 食道 男性 大腸 肝臓 食道
女性 68.263人 女性 大腸 子宮 肝臓 女性 子宮 乳房 大腸
全体 161.764人 全体 大腸 肝臓 膵臓 全体 大腸 子宮 肝臓
2004年 2004年 1位 2位 3位 4位 5位 2000年 1位 2位 3位 4位 5位
男性 193.075人 男性 肝臓 大腸 膵臓 男性 大腸 肝臓 前立腺
女性 127.259人 女性 大腸 乳房 肝臓 女性 乳房 大腸 子宮
全体 320.334人 全体 大腸 肝臓 膵臓 全体 大腸 乳房 肝臓
※年齢調整… 人口の構成を、基準となる集団(基準人口)の年齢構成にあわせ試算すること。
こうすることにより、高齢化の影響を除外した結果を出すことができる。
上記表では、1985年(昭和60年)の人口をベースにして作られた、仮想人口モデルを
基準人口として計算している。
参考資料 国立がんセンターがん対策情報センターホームページ
「国民衛生の動向」第51巻第9号 (財)厚生統計協会編
5年生存率
 医療の発展や早期発見の重要性が浸透してきたことにより、がんは治らない病気ではなくなりつつあります。現実に、がんと診断されてから5年間、生存している確率(5年生存率)が、以前より10%程度上昇した、というデータもあります(表2参照)。
 また、部位別でも胃がん(約60%)や大腸がん(約65%)、乳がん(約85%)といったがんにおいて、高い生存率となっています。ただ、肺がん(約20%)や膵臓がん(約5%)などは、がん全体の5年生存率と比べ、かなり低い数字になっています。
がん患者の5年生存率の変遷 (表2)
1975年〜77年 30.4%
1990年 41.0%
参考資料
大阪府におけるがん患者の生存率1975-89年
肝臓がんの傾向
 患者数、死亡者数ともに上位である肝臓がんは、肺がんなどと同様に、5年生存率が低いがんといえます(15〜20%)。これは、肝臓がんの特徴ともいえる、症状のなさが要因のひとつとしてあげられます。
 肝臓がんの主な初期症状は、腹痛や全身倦怠、お腹の張り、食欲不振などがあげられます。しかし、これらの症状は、他の疾患でも現われるものであり、また、症状があまり強くでないケースもあります。
 症状が進行すると、黄疸や体重減少、腹水、貧血といった症状がでます。ただ、これらの症状がでる前に、がんが他の部位に転移し、その転移したがんの症状に気がついてから、肝臓がんだったとわかるケースが、少なくありません。
 このように、肝臓がんは早期発見が難しく、そのため、治療が困難になってしまうことが、珍しくないのです。
肝臓がんの症状  
・全身倦怠 ・貧血
・食欲不振 ・体重減少
・お腹の張り ・黄疸
肝臓がんと肝炎
 肝臓がんの原因の多くは、肝炎ウイルスによる慢性肝炎です(図1参照)。肝炎ウイルスには、A型、B型、C型、D型、E型などがありますが、このうち、B型ウイルスとC型ウイルスに感染することが、肝臓がんの遠因となります。肝臓でがんが発生した場合、B型慢性肝炎が由来となっているケースは約15%、C型肝炎が由来となっているケースは約80%といわれています。
 また、よく肝臓がんの原因といわれる飲酒ですが、適度な飲酒であれば、肝臓がんになる心配はありません。ただし、慢性肝炎や肝硬変を発症しているにも関わらず、飲酒を続けると、肝臓がんになりやすくなってしまいます。
 
 
肝臓がんの予防
 肝臓がんにならないためには、肝炎ウイルスに感染しないことが、最も重要です。
 肝炎ウイルスの感染経路(図2参照)のうち、医療行為や鍼治療などが原因となるケースは、現代ではまれになりました。その他の経路も、入れ墨をしない、コンドームを使用するなど、自己防衛が可能です。予防を実践してください。
 
 
 ただ、心当たりがないのに感染している場合もあります。ですから、血液検査のある健康診断を定期的に受けることをお勧めします。
 また、既にB型・C型肝炎ウイルスに感染している人は、肝炎を発症している、していないに関わらず、肝臓がんにかかりやすいハイリスク・グループといえます。発症している人は3か月に1度、発症していない人でも半年に1度は肝臓がんの検査(表3参照)を受けてください。肝硬変を発症している人も、1〜3か月に1度検査を受けましょう。
 
肝臓がんの検査方法  (表3)
腫瘍マーカー 採血し、がんを発症すると血液中に増える物質を測定する検査
画像診断 超音波検査や、CT、MRIを使用する検査など
生検(針生検) 体外から針を刺し、病巣の組織を採取する検査
 
予防と早期発見が大事…
 肝臓がんは、確かに完治が難しいがんです。しかし、早期発見できれば、決して対応できない疾患ではありません。
 近年では、開腹してがんを摘出する外科療法だけではなく、超音波で病巣を探しだして針を刺し、エタノールを注入してがんを死滅させる「経皮的エタノール注入法」などのような、開腹が不要な治療法も増え、生存率も上昇しつつあります。だからこそ、他のがん同様、早期発見に努め、治療法の選択肢を増やすことが、とても大切なのです。
 また、B型・C型肝炎ウイルスに感染したから、あるいは慢性肝炎を発症したからといって、必ず肝臓がんになる、ということではありません。B型・C型肝炎ウイルスの感染が発覚したら、飲酒を控える、ストレスを溜めないようにするなど、肝臓に負担をかけない生活を心がけましょう。そうすれば、予防も可能です。そして、定期検診を欠かさずに受けるようにしましょう。
 同様に、ハイリスク・グループ以外の人も、健康診断などで定期的に血液検査を行なうように心がけましょう。


−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2007年7月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載
トップページへ戻る