気をつけたい…
脳血管障害
 2007年11月16日、サッカー日本代表監督(当時)のイビチャ・オシム氏(66歳)が脳梗塞で倒れたというニュースが日本中を駆け巡りました。
 2004年3月に長嶋茂雄巨人軍終身名誉監督が、やはり脳梗塞で倒れたときと同じように衝撃を受けた人も多いことでしょう。
 オシム氏は、高血圧に加えて、心臓にも持病があり、薬が手放せない状態だったといいます。また長嶋氏は、アテネオリンピックの日本チーム総監督として気の休まる暇がない毎日を送っていました。
 脳梗塞や脳出血などの「脳血管障害」は、なぜ起きるのでしょう。また、予防するにはどうしたらよいのでしょう。
脳血管障害とは
 厚生労働省の「人口動態統計の概況」(2006年版)によれば、脳血管障害で亡くなった人は、がん(悪性新生物)、心疾患に次いで第3位の約13万人、全人口に占める割合は約12%です。ところが、患者数はその10倍以上の140万人ともいわれ、男性では、要介護度4や5になる原因の第1位は脳血管障害なのです。つまり脳血管障害とは、一命を取りとめても、自立した生活が困難になる危険性が高い疾患といえるでしょう。
 脳血管障害は俗に脳卒中ともよばれ、脳の血管が破れて起きる「脳出血」、「くも膜下出血」と、脳の血管が詰まって起きる「脳梗塞」に大別されます(図1)。
★くも膜下出血
 くも膜下出血は外傷性のものを除き、脳血管の分岐部に発生したコブ状の動脈瘤が破れ、くも膜下腔に出血が起こるものです(図2・3)。
 体質的な関わりが大きいため若年層で発症することも珍しくないのですが、患者さんの約半数に、数分程の強い頭痛といった前触れがあります。引き続いて意識を失なうような頭痛発作が起こります。

★脳出血

 脳出血は、脳血管の細い部分に高い血圧がかかり、血管壁がもろくなって破れることにより発症します(図4)。とくに冬場は屋内と屋外で気温差が生じやすく、また寒いトイレや脱衣所など温度差のある場所で血圧が急上昇するため、脳出血を起こしやすい条件がそろっています。日ごろから血圧が高めの人は注意が必要です。
★脳梗塞
 これに対し脳梗塞は、「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性梗塞」「心原性脳塞栓」の3つに大別されます。
●ラクナ梗塞
 脳の細い血管壁の厚みが増すために、血管が狭まって詰まり、直径3mm〜2cm程度の小さな脳梗塞が起こります(図5)。症状がでにくいのですが、MRI検査をすると60代の15〜20%、70代の30%以上、80代では半数以上に発見されます。
●アテローム血栓性梗塞
 コレステロールがたまって動脈硬化を起こした血管の硬化層を覆う膜が破れることにより血栓ができて、血管を詰まらせるものです(図6)。
●心原性脳塞栓
 不整脈により心臓内で発生した血栓が血流で脳に運ばれ、太い血管が詰まって発症します。
 脳梗塞では「TIA(一過性脳虚血発作)」とよばれる前駆症状が現れる場合があります。
 これは、いったん血管に詰まった血栓が自然に溶けて血流が回復した状態をいい、片側の目が数分間見えなくなったり、一時的にろれつが回らなくなったり、左右どちらかの半身がしびれるといった症状が出現します。TIAの1割が1週間以内に本格的な脳梗塞を起こすといわれるので、放置せず速やかに主治医にご相談ください。
脳血管障害と基礎疾患
 脳血管障害を起こす患者さんのほとんどが何らかの持病を患っていますが、それに気づかず、適切な管理が行われていない場合も多いのです。なかでも高血圧、不整脈、糖尿病(高血糖)、脂質異常症には注意が必要です。
●高血圧
 仮面高血圧をご存知でしょうか。これは、健康診断会場や医療機関で測ると正常なのに、家庭や職場で測ると高いという状態をいいます。仮面高血圧は、起床後1〜2時間で血圧が急上昇する「早朝高血圧」を起こしやすく、ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞の原因のひとつです。50歳を過ぎたら朝晩2回、家庭で血圧を測ることが脳血管障害の予防にもつながります。
●不整脈
 脳血管障害と関係が深いのが、心房細動です。これは、心臓上部の心房の筋肉が痙攣している状態で、血流が停滞するため血栓を生じやすくなります。発生した血栓は脳の太い血管に詰まることが多いため、病巣が広範囲にわたって重症化しやすいのです。
●糖尿病
 前段階である高血糖状態に気づかず放置していると、次第に全身の血管が内部から傷み、動脈硬化が進みます。空腹時血糖だけでなく、HbA1c(糖化ヘモグロビン)も併せて測定することで、過去1〜2か月間の血糖値の平均を推測できます。
●脂質異常症
 従来の高脂血症のことで、血液中のコレステロールや中性脂肪が高い状態をいいます。コレステロールのなかでも“善玉”であるHDLコレステロールが低い場合と、“悪玉”であるLDLコレステロールが高い場合があり、両者は同じように動脈硬化を促進させる要因となります。
 内臓脂肪型肥満を基礎として、高血圧・高血糖・脂質異常のうち2項目以上が該当する状態を「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」といいます。該当項目が多ければ多いほど動脈硬化が加速され、脳血管障害や心疾患の発症リスクが高くなります。
 脳血管障害を防ぐのは、一にも二にも自己管理です。食事・運動・禁煙・節酒の4本柱に気を配り、健やかで自立した生活を楽しみましょう。
《脳血管障害を予防するために…》
食事 〜コレステロールの摂り過ぎ注意!〜
*コレステロールを摂り過ぎないために…
●食べ過ぎない
●甘いものを控える
●油ものを摂り過ぎない
●外食ばかりしない
●バランスのよい食事を心がけ、野菜類を多めに摂る
こんな食品にコレステロールが
多く含まれています

・黄卵
・魚卵(たらこ、すじこなど)
・バター
・レバー(鶏、豚、牛)など
こんな成分がコレステロールの
減少に効果があります

・食物繊維(豆類、根菜、海藻など)
・オレイン酸(植物油など)
・EPA・DHAなど(青魚)など

運動
適度な運動は、血管をしなやかにし、血流をよくしてくれます。また、体重が減少すると、血圧も改善するという効果があります。
※血圧の高い人が運動を始める際は、必ず医師に相談しましょう。また、運動の際は、こまめに水分摂取を行ってください。

禁煙
タバコを吸わない人は、喫煙者に比べて、脳血管障害による死亡の危険度が半分になるという報告も。
タバコは血管の動脈硬化を進めるため、禁煙が一番の回避法です。
節酒
百薬の長といえど、多量の飲酒は血圧を上昇させます。高血圧の人はもちろん、現在血圧が高くなくても、適量の飲酒を心がけましょう。
−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2008年1月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載
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