糖尿病の合併症
 近年、糖尿病の患者数は増え続けています。それにともない、糖尿病が原因となる疾患一合併症にかかる方も増加しています。 糖尿病の合併症には、放置すると重篤な症状になるものが多く、命に関わる疾患もあります。
糖尿病になるとどうなるの?
 私たちの身体の細胞は、ブドウ糖をエネルギー源としています。ブドウ糖は血液を通して全身に運ばれるのですが、血液中のブドウ糖(これを 血糖といいます)を細胞に取り込ませる働きをしているのが、すい臓から分泌されるインスリンです。  
 このインスリンの働きや分泌量が、何らかの原因で弱まったり、減ってしまうと、血糖が細胞に取り込まれず、血液に残ります。このため、血糖の数(血糖値)が下がらず、高血糖が続くようになります。 これが糖尿病です。  
 糖尿病を発症しても、自覚できる症状がすぐに生じるわけではありません。ただ、血糖値の高い状態が続きますから、血管が傷ついたり、つまってしまいます。このため、糖尿病は数多くの疾患を引き起こす原因となるのです(図1参照)。

糖尿病の三大合併症
 糖尿病が引き起こす疾患のなかでも、「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」「糖尿病神経障害」は糖尿病の三大合併症とよばれています。これらは糖尿病特有の合併症で、毛細血管に障害が起きるなどの原因で発症します。また、糖尿病罹患後、数年を経て発症し、徐々に悪化するという特徴があります。それでは、三大合併症をひとつずつ、ご説明しましょう。

  
糖尿病網膜症
 目から入ってきた光を映像にして脳に伝える網膜には、多くの毛細血管があります。糖尿病になり、これらの毛細血管に障害が起きて発症するのが、糖尿病網膜症です。  
 糖尿病網膜症は、成人の失明原因の一位です。ただし、糖尿病網膜症の初期段階である単純網膜症、次の段階である前増殖網膜症の時点では、視力障害はあまり発生しません。さらに症状が進行し、増殖網膜症になると、視力の急激な減退や失明の危険性が高まるのです(図3参照)。  
 糖尿病網膜症の発症は、糖尿病になって約10年くらい経ってからですが、単純網膜症であれば血糖値のコントロールだけでよくなる可能性が高く、前増殖網膜症まで進行しても、レーザーで網膜の一部を焼くなどの治療法があります。しかし、増殖網膜症になると治療は難しく、視力を取り戻すのは非常に困難です。
糖尿病腎症
 腎臓には糸球体という毛細血管の集合体が片側だけで約100万個、計200万個あります。この糸球体 は、腎臓の大切な働きである血液のろ過を行ないますが、糖尿病になると、毛細血管が傷つけられるなどの原因により、この働きが低下してしまいます。これが糖尿病腎症です。  
 糖尿病腎症の病期(進行度)には5段階あり(表参照)、このうち、第一期であれば問題ありません。また、第二期でも適切な処置をすれば、第一期に回復することが可能です。しかし、第三期から第二期へ回復できる確率はおよそ50%程度、第四期以降となると改善は難しくなります。  
 なお、糖尿病腎症の悪化により人工透析を受けている人は約6万7000人(透析患者全体の約30%)で、新たに透析を開始する人は年々増えています。
糖尿病神経障害
 人の身体の末梢神経には、痛みや温度(熱い、冷たい)など、外からの刺激を感じる感覚神経と、内臓や器官の働きを司る自律神経、筋肉の動きの指令を伝達する運動神経があります。糖尿病神経障害になると、これらすべての神経に障害が発生する危険性があります。  
 感覚神経の症状としては、痛みや温度に過敏になる、手足にしびれや違和感、痛みを感じる、寝ているときにふくらはぎがつる、などがあげられます。また、悪化すると、痛みや温度といった感覚を感じなくなってしまいます。感覚を失ってしまうと、ケガや火傷をしても気がつかずに放置してしまい、患部が壊疽を起こしてしまうことがあります。壊疽を起こす部位としては足が多く、場合によっては切断せざるを得なくなることもあります。  
 自律神経が障害を起こすと、発汗異常や立ちくらみ、食欲不振、便通異常などの症状が現れます。また心筋梗塞や低血糖になっても気がつかず、命に危険が及ぶこともあります。  
 運動神経は、感覚神経や自律神経に比べ障害が起こる確率は低いですが、障害が起こると、顔面の神経麻療や眼球の神経が麻癒してしまうこともあります。  
 糖尿病神経障害は、三大合併症のなかでもっとも早く併発する危険性が高く、早い人では糖尿病発症後3年程度で症状が現れはじめます。
糖尿病と動脈硬化
 高血糖状態でいると血管が傷つきやすくなるため、糖尿病は動脈硬化の危険因子でもあります。動脈硬化は、心筋梗塞や脳梗塞といった疾患の原因になりますので、糖尿病になると心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなります。  
 また、足に血液を送る動脈が動脈硬化を起こし、足に血液が行きにくくなる閉塞性動脈硬化症も発症しやすくなります。糖尿病神経障害によって足を切断することがありますが、閉塞性動脈硬化症も、足の血行障害を引き起こすため、足の切断をする原因のひとつになってしまうのです。
糖尿病と合併症を予防するには…
 現在、すでに糖尿病を患っている方が合併症にならないようにするためには、医師の指示に従って、食餌療法、運動療法を徹底することが大切です。また、薬物療法を受けている方は、血糖値などの検査数値が下がっても、処方通りに薬を服用してください。そして何より、症状がなくても、合併症の検診を定期的に受けること。合併症は早期に発見し治療すれば、治癒したり、状態がよくなる確率が高いのです。
 なお、糖尿病でない方も油断は禁物です。糖尿病にならない生活―規則正しい食生活と 適度な運動、しっかり休養−を心がけてください。
−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2008年4月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載
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