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高齢者にとって肺炎はとても恐い病気です。肺炎が死につながるケースも多く、高齢者やその家族にとって日常的な健康課題となります。
 そこで、肺炎を引き起こすきっかけとなりうる嚥下障害や高齢者に多い誤嚥性肺炎について理解し、予防と日頃の健康管理に役立てましょう。
 
*高齢者に多い誤嚥性肺炎
 誤嚥とは、唾液や食物、胃液などが気管に入ってしまうことをいいます。その食物や唾液に含まれた細菌が気管から肺に入り込むことで起こるのが誤嚥性肺炎です。
 起きているときに気管にものが入ればむせて気づきますが、眠っている間に唾液を少しずつ誤嚥することがあり、これは気づきにくいものです。
 とくに高齢者はなおさらで、そのため誤嚥性肺炎は高齢者に多く発症し、そして、菌が薬に対して抵抗力をもってしまい、薬が効きにくくなります。ですから予防に努めること、かかってしまった際には完全に治すことが大切です。
 治療には抗生物質を用いますが、ステロイド剤を用いることもあります。さらに呼吸がうまくできずに酸素欠乏状態になった場合は、酸素吸入や状態によっては人工呼吸器を装着することもあります。
 
*誤嚥性肺炎の予防
誤嚥性肺炎の予防には、次のことを心がけましょう。
(1)口腔の清潔を保つ
口腔は肺や胃腸の入り口です。適度な湿度と温度が保たれている口腔は細菌にとって居心地よく、歯磨きやうがいを怠るとすぐに細菌が繁殖します。そのため歯磨きをしっかり行ない、口のなかの細菌を繁殖させないこと、そして肺へ運び入れないことが重要です。
(2)胃液の逆流を防ぐ
ゲップや胸焼けなどがある場合は、胃液の逆流が起こりえます。その場合、食後2時間ほど座って身体を起こしていることで、逆流を防止できます。
(3)嚥下反射を改善する
嚥下とは物を飲み下すことをいいます。これがうまくいかない状態を嚥下障害といい、誤嚥性肺炎を引き起こす原因のひとつです。嚥下障害については、次項で説明しましょう。
(4)薬を用いる
誤嚥性肺炎の再発予防には脳梗塞予防薬が有効とされ、用いられることがあります。  
 
*嚥下障害とは
 食物を噛んだり、唾液や噛み砕いた食物を飲み下したりすることができにくくなる状態です。
 私たちは食物を口のなかで噛み砕く→舌を使って口の奥に送り込む→ 嚥下する、といった流れで食事をします。このとき、口の奥の天井の部分(軟口蓋)が鼻腔を塞ぎ、気管のふたである喉頭蓋が閉じます。これによって口のなかのものが気管や鼻に入り込むことなく、食道から胃へと送り込まれるのです。
 しかし脳卒中や脳神経系や筋肉に障害を生じた場合、一連の動きに支障が起こります。これが嚥下障害で、以下のような症状がみられます。

・物を飲み込みにくい
・飲み込むときに痛みや苦痛がある
・口から食物がこぼれたり、口のなかに残ったりする
・よだれがでる
・口が渇く
・食べるのに時間がかかる
・飲み込んだ後に声が変わる
・飲み込む前後や、最中にむせたり咳き込んだりする
・食物や胃液が口のなかに逆流したり吐いたりする  など
これらの症状がみられたら、かかりつけ医を受診して、その人に合った食事および介助の方法を相談し、誤嚥防止に努めましょう。
 
*日常生活の配慮
 高齢者は全身機能の衰えに伴なって嚥下機能も低下し、むせやすくなったり、口のなかが乾燥して食物を飲みにくくなったりします。そのため、日頃から次の配慮が必要です。

〈食事姿勢の配慮〉  
 食事の際は、前かがみの姿勢をとりましょう。要介護状態でベッド上で食事をする人や、食事に介助を必要とする場合、ベッドや椅子にもたれかかった上向きの状態で食事をすることがあります。
 しかし、上向きでは飲み込みにくく、また気道のふたが閉まる前に食物が滑り落ちて誤嚥する危険性があります。椅子でもベッド上でも、前屈みで食事することが大切です。なお、椅子に座って食事をする際は、図1のような正しい姿勢を保てるような配慮が必要です。

〈食事内容の配慮〉  
 スムーズに食事をするためには、嚥下に至るプロセスのどこに問題があるのかを見極め、それに応じた食事内容の配慮を心がけましょう。

1.咀嚼(ものを噛み砕く)に問題がある。
 きざむ、軟らかく煮る、マッシュポテトのように押しつぶした状態にする、などで食べやすくなります。

2.食塊形成(噛んだものを再度まとめる)に問題がある。
 口のなかでまとめることができないので、細かくきざんだものは逆にぱらぱらしてむせやすくなります。 一口大に切る、軟らかい状態にする、とろみをつける、などしましょう。

3.嚥下(食物を飲み下す)に問題がある。
 固形物でむせることと、水でむせることがあります。固形物でむせる場合には、軟らかくしたり、とろみをつけたりすると食べやすくなります。水でむせる場合はお茶やスープなどにもとろみをつけるといいでしょう。
 噛めない、飲み込みにくいとなると、すぐに流動食や刻み食に切り替えてしまいがちですが、食物を口に入れてから飲み込むまでのどこに問題があるかによって、このように対応も様々です。
 また、きざみ食や流動食では、食べる楽しみを充分に感じられません。状態に合った配慮をして、食事を充分楽しんでもらいましょう。
 また、口腔内の乾燥や脱水状態を防ぐため、1日コップで5〜6杯程度の水分補給も心がけましょう。

〈嚥下機能の低下を防ぐ配慮〉  
 年齢とともに低下してくる嚥下力も、図2のような簡単な体操を行なうことによって、食事に必要な 口・舌・頬などの筋肉を刺激し、唾液の分泌を促し、飲み込みにくさやむせ返りの軽減が図れます。毎食前に行なうことで、食事をより楽しめます。
 
食事は単に栄養補給だけの目的でなく、コミュニケーションや楽しみといった意味合いもあり、毎日の充実感に大きく影響します。よりよい食生活と健康を保つためにも適切なケアと肺炎予防を心がけましょう。
※図2 新星出版社 鎌田ケイ子監修「今スグ役立つ!よくわかる!家庭の介護ハンドブック」より
 
−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2009年2月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載
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