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基礎からシリーズ・3 脂質異常症

脂質異常症(※高脂血症)とその予備軍は、2200万人ともいわれている(平成12年厚生労働省循環器疾患基礎調査)。

30代以上の男性及び、50代以上の女性に限ると、2人に1人にものぼる(国民栄養調査)。


 平成12年に厚生労働省によって「生活習慣病に関する世論調査」が行なわれました。その結果、「脳卒中」「心筋梗塞・狭心症」を95%以上の人が怖い病気だと感じています。  

 そして、それらの病気の原因なる「脂質異常症」「糖尿病」「高血圧」に関して、糖尿病・高血圧は90%以上の人が怖い病気だと考えています。

 ところが、脂質異常症は、76.5%と、この病気を怖いと思う人の数値は低くなっているのです。この数値は「肥満」を怖い病気と考えている人より、若干下回っています。

 脂質異常症が怖い病気と思うかどうか「わからない」と答えている方も、15.8%にのぼりました。 脂質異常症に関しては、その病気の本質が比較的認識されていないようです。

 

脂質異常症とは何か?

 血液は、様々な栄養を全身に運びます。運ばれた栄養は、身体の活動エネルギーとしているだけでなく、細胞を再生させていく働きもしています。  

 脂質異常症とは、血液中のこれらの栄養のうち、脂質のバランスが乱れた状態のことをいいます。 ホームクリニックでは、生活習慣病の基礎として、6月号では糖尿病、8月号では高血圧症を取り上げました。

 それらが動脈硬化を強く促進する要因となるのに対して、脂質異常症は、動脈硬化の原因そのものとなります。

 血液中の脂質は、細胞膜やホルモンの生成に必要な、LDLコレステロール(以下LDL)とHDLコレステロール(以下HDL)、身体を動かすエネルギー源になる中性脂肪の3つに大きく分けられます。

 LDLには、悪玉コレステロール、という別名があります。LDL自体に問題があるのではないのですが、LDLが血液中に増えすぎるとLDLは血管壁のなかに入り込み、コレステロールの塊をつくります。

 この塊は、血管壁を内側から押し上げ、血液の通り道を狭くするだけでなく、血管の内壁を破れやすい状態にします。この状態は「粥状(じゅくじょう)動脈硬化」とよばれ、動脈硬化のほとんどはこのタイプです。

 それに対し、HDLは善玉コレステロールともよばれます。HDLは、血管壁に溜まったコレステロールを回収する役割があるためです。HDLが少ないとコレステロールが回収されず、動脈硬化が進んでしまう原因になります。 中性脂肪の問題点は、中性脂肪が多いと血液中に、通常のLDLより小さなLDLが増えるところにあります。通常より小さいLDLは血管壁に入り込みやすく、動脈硬化を強く促進するのです。

 これを数値で表すと、LDL140mg/dl以上、HDL140/dl未満、中性脂肪150m/dl以上(いずれも空腹時採血として)となります。この数値にひとつでもあてはまれば、他の病気との関連なども考慮したうえで、脂質異常症と診断されます。

 

脂質異常症の原因

 脂質異常症を招く最大の要因は食生活、とくに、肉類摂取中心の食生活が問題視されています。  

脂質異常症の治療ガイドラインでは、1日のコレステロール摂取量を300mg以下に抑える必要があるとされています。

 卵1個のコレステロール量は210mg。普段、いかにコレステロール量の多い食事をしているか、気になりませんか?

外食や弁当などでよく食べられている、牛丼と親子丼。このふたつは、カロリーはほぼ同じぐらいですが、コレステロールは、卵でとじる親子丼のほうが、牛丼の約4倍になります。

 とはいえ、牛丼も仕上げに卵を載せて食べるという方も多いかと思います。この場合、コレステロール量は逆に牛丼のほうが高くなります。ちなみに卵を載せた牛丼の並盛は270mg。1日のコレステロール摂取量に匹敵してしまうわけです。

 食事のほかに肥満や運動不足も脂質異常症の原因となります。肥満や運動不足は、中性脂肪を分解する酵素の働きを低下させることがあるためです。肥満(内臓脂肪による肥満)は脂肪細胞から分泌される様々な物質のバランスが乱れ、血液中の脂質、血糖、血圧に悪影響を及ぼします。

 

脂質異常症の治療

 脂質異常症の治療は、生活習慣の改善がもっとも重要であるだけではなく、その前提にもなっています。生活習慣の改善は、食事療法、運動療法、禁煙が大きな柱となって行なわれます。  

 薬物療法は、治療開始から3〜4か月の生活習慣の改善を経てもLDLの数値や中性脂肪の数値が下がらない場合に行なわれます。

 しかし薬物療法も生活習慣の改善ができていないと、一時的に数値を下げたに過ぎないということになりかねません。

生活習慣の改善には、意識改革が必要です。その意識改革のためには、病気の本質をよく知ることが大切です。

 脂質異常症は、高い確率で動脈硬化を引き起こすこと。動脈硬化は、心疾患、脳血管疾患を引き起こすこと。これが脂質異常症の真の姿なのです。

 

〜コラム〜

 「脂質異常症」という病名は耳慣れないという方でも、「高脂血症」なら聞いたことがあるかと思います。

2007年に動脈硬化性疾患予防ガイドラインが改定され、病気の状態に病名を近づけるため、病名が変更されました。

 とはいえ、厚生労働省のHPや健康診断などでは「高脂血症」という言葉が使われています。このふたつは同じであると理解しておいてください。

 

生活習慣病とは?

 

−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2009年9月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載

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