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狭心症

 狭心症や心筋梗塞を「虚血性心疾患」といい、日本全国で患者数は百万人を超え、毎年7万人が亡くなっています。冬場に発作を起こす人の多い狭心症とは、いったいどんな疾患なのでしょう。


 

某テレビドラマに登場した2つのシーン。

さて、この老人の病名はなんでしょう?

また、誤っている部分はどこでしょう?

 

病名は…

 症状から推理すると、狭心症であるように思われます。《シーン1》で使われた薬は、おそらくニトログリセリンでしょうか。  

 狭心症は、心臓自身に酸素や栄養を運ぶ冠動脈の内側の一部に、何らかの原因で狭くなる(狭窄)箇所が発生する疾患です。病変部分は十分な量の血液を通すことができず、心筋(心臓の筋肉)が酸素不足に陥って悲鳴をあげる状態が発作なのです。発作は数分から15分程度で治まるため、狭心症が原因で亡くなることはありません。しかし治療せずに放置すると、次第に狭窄がひどくなり、やがて心筋梗塞を引き起こして生命に危機が迫るようになります。

 狭心症発作のおもな症状は胸痛ですが、左ではなく、中央部が鈍く締めつけられるように痛む人が多いのです。そのため胃の痛みと勘違いします。それ以外に奥歯が痛い、背中や左腕が痛いと訴える人もいます。

 狭心症発作の薬といえば、昔から使われているものがニトログリセリンです。ニトログリセリンには冠動脈を広げる作用があり、口に含めば1分以内に効果が表われます。しかし間違って飲みこんでしまうと、効き始めるまで時間がかかる上に効果が半減します。錠剤を舌の裏側に入れるか(舌下錠)、またはスプレーを舌の裏側に吹きつけて、粘膜から吸収させるのが正しい使い方です。

狭心症を分類すると…

 今回は労作時狭心症と安静時狭心症に分けて説明しましょう。  

 労作時狭心症は、運動や入浴で発作が誘発されるもの。通勤時の階段の上り下り、ゴルフ中、寒い時期の入浴時などに起きやすく、11月〜3月ごろに多発します。労作時狭心症の原因は動脈硬化です。

 まだ症状が軽く、発作の起きる間隔が長いものを「安定狭心症」、動脈硬化が進んで発作の頻度が多くなったり、ニトログリセリンが効きにくくなったり、発作時間が長くなったものを「不安定狭心症」とよびます。不安定狭心症は放置すると非常に危険で、入院治療の対象となります。

 安静時狭心症は、発作が就寝中に起きやすいという特徴があり、とくに明け方の3時〜5時に集中しています。朝起きて冷水で顔を洗ったときに起きる場合もあります。そのほとんどを、冠動脈がけいれんして狭くなる「冠れん縮性狭心症」が占め、欧米人より日本人に発生しやすいといわれます。心筋梗塞は起こしにくいものの、けいれんがひどくなれば突然死の原因である「心室細動」を引き起こす危険性が高く、油断は禁物です。

 

狭心症の検査と治療

 狭心症かどうか診断するには、発作が起きた時の状況を問診で把握し、心電図、ホルター心電図、超音波検査、マルチスライスCTなどの検査を行ないます。冠動脈に狭窄が確認されれば、治療方針を決定するため、腕や脚の付け根の動脈から細い管を挿入するカテーテル検査が行なわれます。  

 狭窄の程度が軽い場合は薬物治療の対象となり、冠動脈の直径の75%以上がふさがっていれば、カテーテルを入れてバルーンで血管を広げ、金属製の網管(ステント)を留置する治療が選択されます。また、狭窄が3か所以上に及ぶ場合は、体内の他の部位から切りだした血管で迂回路を作る「バイパス術」が行なわれます。

 労作時狭心症の原因である動脈硬化は、高血圧・糖尿病・脂質異常・喫煙などが引き金になります。 狭心症と診断されたら心筋梗塞を引き起こさないよう、速やかに禁煙し、原因疾患の治療を行なうことが大切です。

 

 

 ところで冒頭の《シーン1》と《シーン2》、誤っている部分はもうおわかりですか?  

 狭心症で左胸が痛くなることはなく、ニトログリセリンは舌の粘膜から吸収させるもの。また狭心症では亡くなりません。もしも病名が心筋梗塞だとすればニトログリセリンはきわめてわずかしか効果がないので、至急救急車を要請してください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

−すぐに役立つ暮らしの健康情報−こんにちわ 2010年2月号:メディカル・ライフ教育出版 より転載

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