記憶のメカニズム

情報は脳に分散保持/神経細胞の回路網が重要

 「あの書類は?」「どれですか」「あれだよ、あれ」という場面。そのものは頭に浮かんでいるのに名前がすぐに出てこない、物をよく置き忘れる…ひょっとしたら?ということはあります。ドクターは「気にしなくていい場合が多いが、何度も感じるなら医師に相談を」と言ってくれます。
 「もの忘れ」とひと口に言っても、単なる「ど忘れ」なのか認知機能が少し落ちた程度なのか、はたまた認知症の初期なのか…と心配になります。「早く気づけば早く対処が出来、機能の衰えを遅らせることも出来ます」と医師は言います。一方で認知機能低下の場合は1年で認知症になる確率は10%というデータもあります。
記憶とは
 覚えていることを思い出したり、忘れたりするのはどういう仕組みなのでしょうか。東大大学院の池谷裕二先生は「情報は脳内に分散保持され、『それは、どこそこに納められていますよ』という指示で取り出されると考えられています。例えば野菜。色や形は言えても名前が…という場合も説明がつきやすい」と言います。
 脳では、神経細胞が作る回路網を電気信号が伝わり、細胞同士が神経伝達物質をやりとりして記憶や認知といった様々な活動が行われています。でも、コインを入れてボタンを押せば商品が出てくる自動販売機と違って、信号の伝わり方が悪い時もあれば、いい時もあります。「そんな『ゆらぎ』が時にはど忘れ≠ノなったり、時には素晴らしいひらめき≠ノなるのではないでしょうか」と池谷先生は言います。記憶が有りながらアクセスしにくい状態がど忘れ≠ナ、教えられればそうだと分かります。だが、教えられても記憶が保たれていないと分からないし、保たれていてもアクセス出来なければ分からないのです。
 京都府立医大の木村実教授(神経生理学)は最近の研究から「形を覚えている神経細胞がある」と説明しています。そうした「記憶をコントロール」するのが海馬ですが「年をとると、血流が悪くなり影響を受けやすくなる」。つまり、若いときより物覚えが悪くなるのです。
 記憶は新しいことを覚えるだけでなく、経験や物事の流れ、言葉などから意味を解釈するといったようなもの、さらには車の運転、スポーツのように体で覚える≠烽フもあります。これらは年をとっても比較的忘れにくいのです。木村教授は神経細胞の回路網の重要性を指摘しています。「使うと回路が維持され、使わないと繋がりが悪くなる」。池谷さんは「ど忘れ≠ヘ脳の活動のかわいい一面です。忘れたら思い出す過程を楽しんでみては…」と話しています。
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