広報誌 南東北

第230号

ヘリコバクター・ピロリ菌

胃がん原因の一つに 強い胃酸液の中で生きる

 ピロリ菌という言葉が知られるようになってきました。しかも、この菌が胃の病気、とくに胃がんの原因の1つに挙げられて関心が強まりました。では一体どんな細菌なのか、まとめてみました。
 「ピロリ菌」という呼び名は通称で、正式にはヘリコバクター・ピロリという名です。ヘリコは螺旋、バクターは細菌、ピロリは胃の幽門部(出口付近)の呼び名です。つまり「胃の幽門部付近に住み着く螺旋状の細菌」という意味です。胃の内部は強酸性の胃液に守られているため、定住出来る細菌はいないというのが長い間の常識でしたが、1983年に西オーストラリア大のロビン・ウォーレン名誉教授とバリー・マーシャル教授によってピロリ菌が発見されて常識が覆されました。2人はこの発見で2005年のノーベル医学生理賞に輝いています。マーシャル教授は培養したピロリを自ら飲んで胃炎に罹り、原因菌であることを身をもって実証しました。
どんな形?どんな悪さをするの?
ピロリ菌は螺旋形をした長さ0.003ミリで、片方の端に付いた4〜8本の鞭毛で活発に動くことが出来、胃の粘膜に潜り込んで長年にわたって住み着きます。胃酸の強い酸性の中でも生きていけるのはウレアーゼと呼ばれる酵素を出して胃の粘膜にある尿素を分解してアンモニアを作って胃酸を中和しているからです。このアンモニアの壁に守られてピロリ菌はゆっくり増殖し、粘膜層内に巣が形成されます。ここで生成・分泌される種々の毒素や分解酵素の作用によって胃の粘膜が剥がされ、むき出しになった粘膜上皮が傷ついて胃炎や潰瘍が生じるのです。
どのように感染するの?
ピロリ菌は免疫力の弱い乳幼児期に経口感染する、と考えられます。世界の感染者の割合をみると、開発途上国では、小児でも70%以上ですが、先進国では若年層ほど低く、40代以上でも50%程度と推定されています。日本人は40代以上では80%ですが、世代が下るにつれて10〜40%程度であるため、途上国と先進国の中間型といえます。いまの高齢者が乳幼児だったころの生活環境が戦時中でもあり、衛生的だったとはいえず感染する機会が多かったため、と考えられます。
検査は?除去するには?
ピロリ菌に感染してもほとんど病気にならずに済むことが多く、全ての人にとって「有害か」といえば、そうでもなさそうです。でも今のところ「胃に病気がある人にとっては少なからず有害」と考えた上で治療することになるでしょう。
 感染しているかどうか検査するには@内視鏡で胃の組織の一部を採取して検査する方法A内視鏡を使わず尿素呼気テスト、血中や尿中の抗体検査などを行なう、の2つがあります。そして除菌治療は日本ヘリコバクター学会では疾患別にランク付けしています。@Aランク(除菌治療が勧められる)は胃潰瘍・十二指腸潰瘍・MALTリンパ腫ABランク(除菌治療が望ましい)は早期胃がんのため内視鏡的粘膜切除術を行なった人・萎縮性胃炎BCランク(除菌治療が検討されている)は機能性胃腸症=病変が無いのに痛みやもたれなど胃の不快な症状が続く状態の人。
 治療には2種類の抗生物質や胃酸過多防止の薬の3剤をセットで1週間内服します。除菌の成功率は80%、副作用が現われることがありますが、一般に症状は軽く一過性です。詳しくは医師と相談しましょう。

よく知っていますか?

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