広報誌 南東北

第239号

脳下垂体とホルモン異常

頭痛、軽視せず検診を

私たちの身体にはたくさんのホルモンが分泌されていますが、ホルモンのバランスが崩れることで様々な症状が引き起こされます。先月中旬、総合南東北病院で開かれた医学健康講座で同病院下垂体疾患研究所の池田秀敏所長が「脳下垂体とホルモン異常」と題して講演した内容を要約し、ホルモン異常について学んでみましょう。
画像の融合が早期診断に効め
下垂体は脳の下面についた前後8ミリ、幅10ミリ程の小さな内分泌腺でホルモンを血液中に送り出します。下垂体前葉と下垂体後葉に分けられますが、内頸動脈、海綿重脈洞などに囲まれた重要な臓器です。下垂体は脳の視床下部から命令を受け、副腎皮質や甲状腺、膵臓、卵巣、精巣、骨や筋肉などいろんなところを刺激して作用させる仕組みになっています。
下垂体から出るホルモンは前葉では成長、甲状腺刺激、副腎皮質刺激、卵胞刺激、黄体化の各ホルモンとプロラクチンの6種類、後葉では抗利尿ホルモンとオキシトシンの2種類があります。多くのホルモンは30〜40歳代でピークを迎え、分泌は加齢のほど落ちますが、ホルモンと加齢は大いに影響があります。外部から成長ホルモンの濃度を上げ、一生懸命若返りをしようとする人も中にはいます。
下垂体の疾患には血管障害・循環障害、炎症、腫瘍があります。腫瘍は良性で、でき物を作らない(ホルモンを分泌しない)場合を非機能性腺種、でき物を作る(ホルモンを分泌する)場合を機能性腺種といいます。機能性腺種には先端巨大症(末端肥大症)、プロラクチノーマ、クッシング病、甲状腺ホルモンを作るTSH産生腺種があります。
下垂体の機能がなくなると死んでしまうか死亡率が2倍以上になるなど生命予後に重大な影響を及ぼすのが下垂体です。ホルモンは上から刺激され分泌しますが、ホルモンが多いのを機能亢進症、少ないのを機能低下症といい、多すぎても少なすぎても悪影響があり中庸が大事です。ホルモン分泌量の調節は、視床下部―下垂体―副腎といったように各器官ごとに多すぎればフィードバックし、少なければ分泌を指示、一定に保つ調節機能を持っています。ホルモンの基礎値を知るため内分泌刺激、同抑制試験を行いますが、例えばブドウ糖に抑制される成長ホルモン値を測る場合「朝絶食」を指示するのは本当の値を知るためです。
クッシング病は、副腎皮質刺激ホルモンを過剰に作ることにより発症。満月様・赤ら顔、ニキビやひげが生え、手足が細く肩が張り、腹や首が太く中心性肥満という特徴的な体型になり、皮膚が薄く皮下出血しやすくなります。発生率は百万人に1〜2人で福島県だと4人ぐらい。最近は糖尿病やコントロールされにくい高血圧を持つ肥満患者のうちクッシング症候群の人が2〜5%潜在していることが分かってきました。糖尿病やなかなか血圧が下がらない人の中から早く見つけ、早期治療する努力が必要です。
末端肥大症は成長ホルモンを過剰に作ることで発症し、手足や下顎など身体の中心から離れた先端よりの部分が大きくなるのが特徴。発症から10年位して医療機関で見つかるのが多いようです。糖尿病や汗をかきやすい、女性の生理不順、激しい頭痛、性欲低下など症状は多彩で、下顎が伸び歯の噛み合わせが悪くなって初めて分かるなど早い時期に症状があっても見逃された例もあったようです。末端肥大症患者の合併症で特に多いのは糖尿病、高血圧症、高脂血症で成人病と同じ。歯科や内科、循環器科など各科で早期発見することが可能です。死亡率を少なくするためにも早期診断が重要です。
高プロラクチン血症の症状は乳汁漏れ、月経異常、性欲低下、肥満などがありますが、肥満は注目です。肥満の人は値が普通の人より数倍高く、ホルモン値が下がれば減量にもつながります。値が高ければ検査すべきです。また降圧薬や女性ホルモン薬など薬物を飲んでいるとプロラクチン値は高くなったり、値が高いのにプロラクチノーマの症状がない例などいろいろです。誤った診断で薬の投与などを受ける例もあり、ぜひMRIなどの画像診断を受けたいものです。また下垂体の中にのう胞が出来るラトケのう胞も要注意です。下垂体の中で刺激性のある内容物が破裂し髄膜炎を起します。頭痛やめまいが1カ月、2カ月、1年と周期的に起きる人は「片頭痛か肩こり・生理前後の頭痛」などと軽く自己診断せず、ラトケのう胞破裂を疑って下さい。当院で実施したラトケのう胞の手術件数は下垂体腫瘍の15%にも上っています。当院が独自に開発したMRIとPETの画像融合による特殊撮影で早期診断が可能になったからです。ラトケのう胞患者は女性に多く、初発頭痛発作は若い人に多く見られます。最近4年間で無症状のクッシング病、末端肥大症患者が画像による早期診断法の開発で増えて来ました。早く発見できれば早く治療が出来ます。下垂体腫瘍の早期発見、2次予防のためにも30〜40歳代前半に一度脳ドックを受診するようお勧めします。

 

トップページへ戻る