広報誌 南東北

第240号

がんによる気持ちのつらさ

緩和ケアって知ってますか?

最近よく「緩和ケア」という言葉を聞きます。でもよく分からないことが多いようです。先月19日、総合南東北病院で開かれた医学健康講座で同病院の宮元秀昭呼吸器疾患研究所 所長が「がんによる気持ちのつらさ-緩和ケアって知ってますか?-」と題して講演した内容を要約し、緩和ケアを考えてみます。
 
「がん」といわれた時どう考えるか私の患者さんに尋ねました。何かの間違いでは(煙草も吸わないのに)、なぜ自分が(なんて運が悪いのだろう)、まだ早期なの・手遅れなの、どんな治療法があるの-。ここまでは治そうという気力が十分です。この後です。まだ完全に治るのかどうか心配、あとどの位生きられるのか教えて、自分のせいで疲れている家族の姿を見るのが辛い、自分が働けなくなったら家族の生活が心配-などでした。
肺がんで骨転移し手術できないため化学療法中だった62歳の男性が、その効果がないことを告げられ、表情が険しく口数が減りました。この時は大変つらかったと思います。抑うつ状態の人の自己表現は憂鬱だ、寂しい、一人ぼっちの感じ、楽しくない、生きていく希望もない、死にたい-など様々です。
気持ちのつらさが重傷化したのがうつ病・不安障害です。要因は進行・再発がん、痛みなど身体症状の不十分なコントロール、低い活動性、化学・放射線療法など治療に伴うストレス。危険因子は若者や神経質な性格、独居老人、前向きに考えられない人などです。気持ちのつらさは、生活の質や治療意欲を低下させ、最悪の場合自殺につながる-など悪影響が大きく、自殺は何としても避けたいものです。
難治がん患者は年間52万人、再発・進行がん患者は300万人、積極抗がん治療の中止が32万人で、うち4〜7%がうつ病といわれます。がん患者のうつは、全身倦怠感や食思不振などががんの症状なのか治療の副作用、うつのどの症状か鑑別が難しいようです。疼痛などで睡眠障害も起き、抑うつ気分や興味・関心の減退症状も発見の重要な手掛かりです。周囲は「終末期だから落ち込むだろう」と受け止めケアや治療の必要を考えない。これが問題です。
うつ病は神経伝達物質が足りなくなる脳の最も苦痛な病気。病気だから治せます。自殺願望が出る前の中核症状段階での治療が必要。がん診断後5ヵ月以内の自殺は一般の人の4.35倍といわれます。「1日中気持ちが落ち込んでいませんか」「今まで好きだったことが楽しめなくなっていませんか」。つらさを評価する第1段階の質問で「ハイ」と答えた場合、ケアが必要な可能性が高いです。患者さんの言葉に耳を傾け、受容的に接することが重要で「がんばれ」は禁句。ケアが必要なつらさ、死にたいと訴える場合は精神科医への相談をお勧めします。重度の精神病と思って精神科受診に抵抗がある人もいますので、それは誤解だということをよく説明して下さい。
緩和ケアを看取りの医療、終末期ケアと思う人が多いようですが「緩和ケア」とは生命を脅かす疾患、特にがんに直面して問題を抱えた患者と家族のQOL(人生・生活の質)を改善、高めるための医療アプローチ。身体的な苦痛、うつ状態や不安などの精神的苦痛、仕事や家庭問題の社会的苦痛、生への問い・死への恐怖などスピリチュアルな苦痛を早期発見し適切な治療をすることです。がん医療の目標は治癒、予後の延長とQOL向上。緩和ケアの目標もQOL向上で予後に良い影響を与えます。両者の目標は一致し補完し合うため、包括的がん医療モデルと呼んでいます。
緩和ケアは平成19年に「がん対策基本法」が施行され、閣議決定したがん対策推進基本計画(5ヵ年)で予防、治療、緩和ケアを3本柱としました。その中で緩和ケアは治療の初期段階からの実施を決め、5年以内にがん診療に携わる医師の緩和ケア研修を徹底することになりました。
がん治療の均てん化=Aつまり「だれでも、いつでも、どこでも」治療が受けられるよう全国に「がん診療連携拠点病院」を整備、がん相談支援センターで相談を行っています。都道府県の拠点病院は本県では県立福島医大、地域がん診療拠点病院は南東北、太田西ノ内、坪井、白河厚生、竹田、会津中央、福島労災のほか本県独自に磐城共立病院を「がん診療連携推進病院」として加え8病院あります。
医師の研修がまだ徹底しませんが、これら拠点病院の支援センターでは、相談のほか在宅療養で看護師やヘルパーによる状態確認や様々なケア、理学療法士によるリハビリなども受けられます。緩和ケアは病気の時期や治療の場所を問わず提供され、苦痛(つらさ)を和らげ、QOLを改善するためのがん治療です。そんな状況になった時は1人で悩まず医療関係者に相談して下さい。皆さんのすぐそばに私たちはいます。

目標はQOLの改善、向上。早く苦痛見つけ相談、治療

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