広報誌 南東北

第241号

狭心症のおはなし

まず動脈硬化リスク軽減を

天皇陛下が先月、心臓の冠動脈バイパス手術を受けましたが、順調に回復し無事退院されました。狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患(虚血性心疾患とも呼ばれる)は日本全国で100万人を超えるといわれます。今回は先月16日、総合南東北病院で開かれた医学健康講座で同病院の小野正博心臓・循環器センター副センター長が講演した「狭心症のおはなし」の内容を要約し予防法などを考えます。
日本人の死因は1位ががん、2位が心疾患、3位が脳卒中。同じ血管系の心疾患と脳卒中を合わせるとほぼ同じ割合で血管系の病気は隠れ死因1位ともいわれます。
冠動脈疾患死亡率を国際比較すると男女とも上位はウクライナ、ロシアなど東欧、欧米の順で日本は最下位。総コレステロール値は日本に住む日本人よりハワイ在住、それよりカリフォルニア在住の日系人の方が高数値。虚血性疾患死亡もこれに比例しており民族・人種によらず生活習慣です。長寿県といわれた沖縄県の男性の平均寿命が平成7年まで全国順位が1ケタ台(女性は現在も1位)でしたが、同12年には26位にまでダウン。今でも心臓病死が増えています。日本で真っ先に食生活が欧米化した沖縄の傾向から20〜30年後、全国で心疾患が増えると危惧されます。
厚労省によると日本人のエネルギー摂取は総カロリーは変わっていませんが、ブドウ糖が昭和21年から平成12年までで約7割減、蛋白質は微増、脂質は3.7倍に増えています。日米の成人平均コレステロール値は、40年前に男女とも220(mg/dl)前後だった米国が平成12年に200前後に減り、逆に日本は180前後から200前後に、特に女性が増えました。食生活の欧米化で肥満が増え、血圧やコレステロール値が上がって動脈硬化を促進、心疾患要因が高まったようです。
冠動脈は心臓の筋肉に酸素と栄養を供給する血管で3本あります。心臓の周りを王冠のようにめぐるので冠動脈と呼ばれ、この冠動脈の内壁に動脈硬化が起こり、進むと血管が次第に狭くなり血液が十分送られず酸素不足に陥ります。酸素不足が一時的なのが狭心症で、血栓などで冠動脈が完全に閉塞、その先の血流が途絶え心臓の筋肉が壊死するのが心筋梗塞です。心筋梗塞の前兆に狭心症があると思われがちですが、心筋梗塞は突然やって来ます。心筋梗塞で突然死した男性62%、女性46%は、疾患がおこる前は全く何の症状もなし。まったく予測できないのが心筋梗塞です。
狭心症の症状は胸が締め付けられるような痛み(みぞおちや左肩、あご、喉など胸以外の痛み、動悸、めまい、呼吸困難になることもある)で5〜10分位で治ります。特に冷や汗が出たら発作の可能性大です。狭心症で死ぬことはありませんが、治療せず放置しておくと冠動脈の内側にプラークと呼ばれる塊が出来て狭く、狭窄がひどくなり心筋梗塞を起こして死ぬこともあります。
このようにならないために心臓も早期発見が大事。検査や診断が進歩し心臓カテーテル検査は、大腿部の付け根から入れていたのが、最近は手首の橈骨(どうこつ)動脈からが多く、患者さんの負担は軽くなっています。更に最新のコンピューター断層撮影検査(CT)では、X線検出器を64列配置したCTが登場、1回転で64枚、4回転で細かい冠動脈画像を256枚撮れ、カテーテルしなくても診断できる時代になりました。
カテーテル治療ははじめ風船で塞がった血管を広げるだけでしたが、1990年代に金属を用いたステントが開発され、さらに炎症など度重なる狭窄症の予防のため今は薬剤溶出性ステント、細胞増殖を抑制する薬を塗ったステントを使うのが主流です。3、4年後に究極の“消えるステント”が出てくると予想されます。また血管内超音波の検査法も研究が進んでいます。狭窄が複数の場合はう回路を作るバイパス手術も行なわれます。
動脈硬化は加齢とともに硬くなるほか高血圧や糖尿病、資質代謝異常など生活習慣により起こりますが、血圧も血糖値もコレステロールも低い方が死亡率は低いようです。北極のイヌイットに動脈硬化や心筋梗塞が少ないのは不飽和脂肪酸を多く含む魚類やアザラシ肉の食生活にあるといわれます。魚油EPAやDHAには中性脂肪低下の作用があり薬物療法の研究はじめリポタンパクや特定保健用食品などの開発も進化しています。
内臓脂肪が蓄積したメタボリックシンドロームの人は心臓病や糖尿病などの発症リスクが高く生活習慣病の引き金になります。改善策は@1日6g未満に減塩A食塩以外の栄養素は野菜・果物の摂取(カロリー制限者などを除く)、コレステロールや飽和脂肪酸を控える。魚油の積極摂取BBMI値25未満C有酸素運動を中心に定期的な運動D節酒(多くて1合)E禁煙―などがあります。生活習慣の複合的な修正は心臓病、高脂血症などすべてに効果的です。中性脂肪値が低くなれば冠動脈疾患や動脈硬化の予防、改善の道になります。“腹八分目”。メタボを抑えることは狭心症予防につながります。

メタボ抑制が改善への近道 減塩、魚油の積極摂取も

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