広報誌 南東北

第246号

肝がんのはなし

増える肝がん 男3位・女4位

肝がんは日本人に多く全がんの中で11.6%を占めています、男性は肺がん、胃がんに次いで3位、女性は4位で年々増え続けています。7月12日(木)に総合南東北病院で開かれた医学健康講座で寺西寧院長が「肝がんのはなし」と題して講演しましたが、その内容を要約し肝がんの原因や症状、予防法などをおさらいします。
◎肝機能検査で早期チェック 3s減量でかなりの改善◎
国立がんセンターの調べでは肝臓がんの死亡率は年々高くなっている。地域的には関西や九州など西日本に多く、本県など東北は比較的低い。
肝臓は臓器の中で最も大きく腹部の右上にあり、横隔膜を隔てて肺や心臓、横に胃、下側に腎臓が位置している。
肝臓は沈黙の臓器≠ナ再生能力や代謝能力に優れている。機能は@栄養の送り出しA老廃物の分解、有害な物質の解毒B胆汁の産生―などがある。肝臓の中を血液が網の目のように通って行くが、その過程でフィルターの働きをする。小腸から運ばれた栄養分をアミノ酸やたんぱく質、脂肪などに合成、貯えて必要な時に血液中に放出する。穀物などに含まれる炭水化物はブドウ糖に処理、最終的にはグリコーゲンとして貯蔵する。たんぱく質の分解時に人体に有害なアンモニアを無害な尿素に変える。アルコールの分解では酵素の働きによりアセトアルデヒドに、次に酢酸に分解し、最終的には水と炭酸ガスにして息や尿と一緒に体外に放出する。また消化液の1つの胆汁を産生し十二指腸に送る。「肝心」という言葉があるが肝臓の働きが悪くなると全てうまくいかなくなる。
肝臓がんには肝臓にできた原発性肝がんと胃や大腸など別の臓器がんからの転移性肝がんがある。一般的に原発性を肝臓がんという。ただ性質は全く違う。肝臓がんの約8割はC型肝炎ウイルスの感染による。肝炎に感染してから慢性肝炎、肝硬変を経て20〜30年の間にがんになる。慢性肝炎の原因は70〜80%がC型肝炎、15〜20%がB型、残りがアルコールや食べ過ぎ、脂肪肝からといわれる。
アルコールを飲み過ぎると脂肪肝になるが、最近飲まなくても肝硬変になる人が10%位いる。非アルコール性脂肪肝炎という。いわゆるメタボリックシンドロームで栄養の取り過ぎと運動不足だ。
肝臓は予備能力に富み、がんになっても1・2期には自覚症状が出ない。全身のだるさや右上腹部のしこりや痛み、むくみ、黄疸、発熱などの症状が出た時は進行している。CTやMRIの画像診断、血管造影検査、超音波検査が有効。血液検査で腫瘍マーカーのα―AFP(フェトプロティン)やPIVKA―U(ピブカツー)などの値が高ければがんが疑われる。
治療はがんの大きさや数、転移の有無、肝機能の程度などを調べ総合判断する。外科手術で肝切除するのが一番いいが、治療法は進歩している。局所療法として肝動脈への薬物注入やエタノール注入療法、ラジオ波で焼き切る方法、免疫療法、当院にある陽子線治療などがある。実際の手術は肝臓の機能をチャイルドの分類により3段階に分けて行っており、60%以下は危険としている。最近は小さいがんなら腹腔鏡で切る例も多い。
陽子線治療は@腫瘍が単発が望ましいA肝機能がある程度良いB消化管との距離が2p以上離れている―などの適格条件があるが、呼吸に合わせピンポイントで照射し、がんを殺すことができる。その結果、最初に照射したところにはがんは出てこない。肝切除で5年後の生存率は60%だが、陽子線もそう変わらないので治療法としては今後は注目できる。
肝臓の病気の予防・気をつけることはメタボの解消、生活習慣病対策だ。たんぱく質やビタミン、ミネラルなどを含んだバランスの良い食事を取ることが重要。適性カロリーを心掛け、肥満を防ぎ、サイクリングや歩くなどの適度な運動をするとよい。ぬるめの半身浴もいい。体重を3s減量すればかなり改善される。糖尿病でない人は1日に1500カロリーで1カ月1s減量が推奨だ。慢性肝炎が疑われる人は腫瘍マーカーの定期的測定で早期発見し、早く治療すること。肝臓の機能が低下していれば酒を控え、もつ類は避け、塩分を多く摂らないなどの食事制限をするといい。食べ物では大豆や海藻、きのこ、白身魚、緑黄野菜などが良い。肝臓は長い病気でコントロールが必要だが、適切な治療をすれば維持できる。あきらめないことだ。

NASH(非アルコール性脂肪肝)も増加

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