広報誌 南東北

第247号

麻薬は魔薬?真薬?

使用で“中毒、短命、末期か”は誤解

麻薬、恐ろしい、悪。モルヒネを使うようではもう末期なの―。マイナスイメージが強い麻薬ですが、皆さんはどんな印象をお持ちですか。8月16日に総合南東北病院で開かれた医学健康講座で同病院麻酔科の半澤浩一緩和ケアセンター長が「麻薬は魔薬? 真薬?」と題して講演した内容を要約し麻薬とは何か、正しい使い方などを考えます。
麻薬は麻酔作用を持つ薬物の総称。習慣性や耽溺性があり、続けて使うと慢性中毒を引き起こし、身体的・精神的に混乱を生じかねないため、乱用防止を目指して法律で規制している。死麻薬関連の法律は@モルヒネやハルシオンなど90品目を対象とした麻薬及び向精神薬取締法Aマリファナなどの大麻取締法Bアンフェタミン(ヒロポン)など対象の覚せい剤取締法Cあへん、ケシ殻など対象のあへん法―の4つ。昔はコカコーラにコカインが含まれていた時代があったり、白内障の点眼液にコカインが含まれていたこともある。大麻は栽培や所持はダメだが法律の範囲内での使用は違法でない。
麻薬はケシや大麻草など植物から作られるのが多いが、覚せい剤はメタンフェタミンなどの化学物質を基に人工的に作られており、麻薬と覚せい剤は違う。覚せい剤は戦時中、軍需工場労働者の疲労防止に「ヒロポン」の名で売られた。戦後民間に放出され乱用が激増。「覚せい剤やめますか、それとも人間やめますか」のCMが話題になった。
麻薬の種類は医療用とそうでないのとがある。医療用には咳止めにもなるコデイン、天然のモルヒネ、オキシコドンなど。そうでないのにはケシから作るあへんや大麻、コカイン、モルヒネから合成するヘロインなど、いわゆる「麻薬」だ。麻薬の最も有効な使用例はがんの疼痛緩和だが、痛くて辛いがんの治療に「やっぱり麻薬ですか」「モルヒネですか。末期なんでしょう」など印象が悪い。日本では痛みを我慢するのが美徳だった。でも我慢はいけない。痛みを我慢して手術後肺炎を併発して死亡した例も多かった。今は抗生物質で抑えられる。
大腸がんになりやすいのは@男性A高脂肪・肉食多いB喫煙C血縁者に大腸モルヒネは眠りの神ヒュプヌスの子モルフェウスから取ったのが語源。日本では暗いイメージだが、西洋では眠りをもたらし疲れを取ってくれる安楽、解放、喜びなど穏やかなイメージだ。モルヒネの原料はケシ。日本では大半が輸入。自生のケシもある。見つけたら警察や保健所に連絡してほしい。1kgのあへんを取るのに約2000本のケシが必要。そこからモルヒネは20〜30%しか取れない。
例外として饅頭にケシ、七味唐辛子に大麻の実が使われているが極微量。モルヒネやコデインに類似しているものの、あへんが結合する受容体に結合する類縁物質をオピオイドという。全てが麻薬ではない。医療用麻薬は内服薬や座薬、注射薬、貼付薬など種類が多い。キャンディの中に麻薬をしみこませた薬も間もなく発売されるという。痛い時舐めるとがんの痛みが取れる時代に入ってきた。
昔中国ではあへんを嗜む人が多かったが、貧困な人ほど中毒が多かった。痛くなるたび注射を繰り返したのが中毒の原因。モルヒネの使い方が悪かった。一定の満腹感が得られるよう常にモルヒネを入れておけば中毒にならないのがモルヒネの原理だ。適切な投与で疼痛が制御できるし、痛みがあるとモルヒネ依存性は生じない。
痛みは脊髄と脳の2カ所でブロックしている。痛みは警告信号だ。がんの痛みには@がん自体の痛みA治療の痛みB筋肉痛などがんに関連した痛みC他疾患による痛み―の4種類。モルヒネで全て痛みが取れるわけではない。治療できる症状、治療すべき症状があり患者さんは鎮痛剤を要求する権利、医師には投与する義務がある。痛みからの解放の第一目標は眠りを邪魔されない、第二目標は安静にしていれば痛まない、第三目標は体を動かしても痛みが強くならない―で症状に合ったいろいろな薬がある。薬は最初に痛くなったときから使える。WHOのがん疼痛治療法は@鎮痛剤は内服薬が第一A弱い薬から強い薬へ段階的に使用B時刻を決めて正しく投与―の3点。麻薬の使用と予後に相関関係はない。進行度合いでなく痛みの強さに応じて使える。適切に使用すれば96.2%、ほぼ完全に除痛でき、中毒の頻度は0.2%以下だ。オピオイドを含め麻薬を使うと「中毒になる。気がおかしくなる。寿命が短くなる。末期なのですか」という疑問はいずれも誤解。ただ副作用で便秘は避けられない。痛みの悪循環を断ち切り、痛みを我慢せずコントロールすることが大切。オピオイド(麻薬)は神様からの最高の贈り物。魔薬、魔法の薬、真薬、本当の薬へ―と変わって欲しいのが緩和チームの願いだ。

がん疼痛、適切投与で96%除痛/がまんせずコントロールが大切

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