広報誌 南東北

第248号

放射線治療と放射能

切らずに治せる放射線治療 陽子線はピンポイント

先ごろ作詞家・なかにし礼さんが陽子線治療で食道がんを克服、仕事に復帰しました。陽子線治療って何。そんなに強い放射線浴びて大丈夫―。9月20日に総合南東北病院で開かれた医学健康講座で同病院放射線治療科の高田彰憲先生が「放射線治療と放射能」と題して講演した内容を要約し放射線治療についておさらいします。
◎正しい放射線の知識吸収を セカンドオピニオンも大切に◎
放射線は蛍でいえば放射性物質が蛍、放射能は蛍が光を出す能力、放射線は蛍が出す光。治療分野では速く飛ぶ小さな粒の炭素線や陽子線など粒子線とX線・ガンマ線など波長の短い見えない光子線に大別できる。弱い放射線は自然にもあり我々は宇宙や大地、空気・水・食物などから毎日自然放射線を受けているほか胸のX線撮影など人工放射線も浴びる。日本では自然から年1.5ミリSv(世界平均は2.4ミリSv)、人工放射線は年2.3ミリSvくらい浴びている。
放射線は物質を透過する性質が特徴。α線は粒が大きく透過しにくく紙1枚で止まる。β線はα線より飛ぶ距離が長く、1cmくらいのプラスチックで遮蔽できる。γ線とX線は透過性が高く鉛や厚い鉄板の防護が必要。中性子線が生体に及ぼす影響はγ線・X線より大きく遮蔽には水やコンクリートが用いられる。
放射線を生体に照射すると遺伝子が損傷する。大半は修復されるが、修復されなかったものが影響を及ぼす。細胞分裂の盛んな細胞や幼弱な細胞は感受性が高く進行の早いがんは放射線が効く。放射線被ばくの限度は一般の人は年1ミリSv、医療など業務従事者は年50ミリSv、5年間で100ミリSvに規制されている。原子力発電所の原子炉内では様々な放射性同位元素が生成される。被ばくには体外被ばくと食物や空気からの内部被ばくがある。急な大量被ばくは命にかかわるが、被ばくで免疫が活性化されるため微量の被ばくは安全、有益だとするホルミシス効果説がある。ただ低線量でもリスクはあるとする説もありどちらが正しいかはまだ分かっていない。
日本の主要死因はがん、心疾患、脳卒中。がん治療には手術や化学療法、放射線治療がある。喉頭がんで「声はいらない。生きたい」という人と「死んでも声を失いたくない」という人がいるが、選択は価値観の問題。米国60%、日本20%―は全がん患者中に占める日米の放射線患者の割合。米国ではセカンドオピニオンが普通だ。日本は手術偏重な面があり放射線治療への理解が低い。治癒後の生活の質(QOL)の重視度が違う。食道がんの治療成績は手術と化学放射線治療がほぼ同等。米国では「切らずに治せる治療」を選ぶ人が多い。
放射線は痛くも熱くもなく治療で体の機能や形態を温存できるのが利点。放射線治療の成否はいかに放射線を「がん」に集中させるか。陽子線は、がん周囲の正常細胞を傷つけずピンポイントで照射、X線より充分な量の照射ができ治癒率が高まり、副作用の軽減も可能だ。治療には部位によって違うが2〜8週間かかる。陽子線は悪性脳腫瘍や頭頸部、食道、肝臓、前立腺などのがん治療が得意。胃や腸など消化器がんや多発転移などは苦手だ。とにかく放射能に関して正しい知識を持つこと。がん治療には放射線治療、中でも陽子線は有効だ。自分や家族のためにも最適な治療法を選ぶにはセカンドオピニオンを大切にする意識を持ちたい。
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