広報誌 南東北

第248号

タバコと女性肺がん

女性こそ気をつけたい肺疾患

「肺疾患= 喫煙(タバコ)=男性と思っていませんか。実は女性こそ気をつけねばならない病気です」。9月25日(火)に総合南東北病院で開かれた郡山地域がん診療連携拠点病院研修会で講師の宮元秀昭同病院呼吸器疾患研究所長は強調しました。「タバコと女性肺がん」と題した講演の内容を要約し課題を考えます。
◎妻4割弱が夫から受動喫煙 すりガラス陰影肺がんも急増◎
「ローマの休日」などで知られる英女優のオードリー・ヘップバーンが19年前に63歳で他界した。死因は大腸がんだが実は肺がんも患っていた。30歳頃タバコを覚え年々ヘビー化=A死亡時には80歳代の体だったそうでタバコが女性に悪影響した例だ。
日本では明治37年にタバコ市場を保護する煙草専売法、昭和59年にたばこ事業法を制定し財政確保を進めてきた。しかし国民の健康を守るため平成16年に方針を大転換、世界保健機関(WHO)のたばこ規制枠組み条約を承認し、健康への注意表示や広告を規制、1本3.5円のタバコ税率引き上げなどを実施した。この結果、成人の喫煙率は同22年には19.5%と3年前より4.6%減り、禁煙希望者は37.6%に増加した。神奈川県や兵庫県は公共施設での喫煙制御や受動喫煙防止を規制する条例(分煙のため問題は残るが)を制定した。
厚労省の広報は「タバコは殺人者」などと表現する欧米に比べ穏やかだが、今年から始まったがん対策新五ヵ年計画の「がん検診受診率向上と喫煙率の低下」で数値目標が初めて示された。その目標は成人の喫煙率を平成35年に12.2%に減らし未成年者と妊娠中の喫煙をゼロに、受動喫煙は10年後に飲食店で15%(現在50.1%)、家庭で3%に(同10.7%)する―などとしている。
英米と日本の喫煙率をみると英米は男女とも減少しているが、日本は男性が大幅に減少しているものの女性は変わらず、未成年喫煙禁止法違反で補導される10代女性が増えている。タバコを吸わない人の健康寿命は68.7歳、喫煙者は56.5歳と12年もの差があるといわれる。
平成21年のがんによる死亡原因の1位は男女とも肺がん。男性が減っているのに女性は増え続け、肺がん増加の大きな要因となっている。
タバコと肺がんの因果関係は科学的にも明らか。1日40本以上の喫煙者は吸わない人の50倍肺がんになりやすい。肺がん手術者の喫煙歴は男性が95%、女性が15%。タバコを吸わない女性が肺がんになるのは受動喫煙による。タバコの煙には4000種の化学物質が含まれ、200種は有害、60種が発がん物質だ。発がん物質の多くは吸った煙(主流煙)より吐いた煙(副流煙)に多く含まれる。何分か前に吸った人の息からも煙が出る。厚労省の調査でも夫のタバコの煙を吸う妻の肺がん死亡率は2倍以上、妻の肺線がんの37%が夫からの受動喫煙で発症との報告がある。
女性の呼吸器の特徴は男性より肺が小さく空気の出入りが少ない。気道も刺激に対し縮みやすい。また成長に伴う呼吸機能の発達が男性より早く完了、加齢に伴う変化が早く出現する。それだけ女性はタバコの煙に影響されやすい。タバコを吸わない女性も吸わない男性の1.3倍肺がんになりやすいという。
さらに困ったことに最近、タバコや大気汚染などと全く関係ない女性にも肺がんが増加。レントゲン(X線)で写らずCTには、まるですりガラスのような淡い陰影として写る肺がんの報告が増えている。割合は女性が4分の3で非喫煙者に多く、受動喫煙のない人にも発生していた。治療予後は良好だが、多発する事も多い。その原因究明のために遺伝子変異や女性ホルモンの研究、肺がん治療薬の開発なども進んでいる。分子標的薬が奏功しているのもあるが、肺疾患が男性の病気と捉えるのは誤り。女性こそ大いに認識を新たにしてほしい。

「肺がん=喫煙=男性」は誤り

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