広報誌 南東北

第252号

食品と病気

がん予防に食事のバランス 緑黄色野菜たっぷり

がんの原因はたばこと食物が各3割、感染症1割などといわれ、がん予防に食生活の重要性が指摘されます。その食生活は糖尿病や循環器疾患など他の生活習慣病予防にも役立ちます。1月17日に総合南東北病院で開かれた1月の医学健康講座で樋口健弥総合診療科長が講演した「食品と病気」の内容を要約、食をめぐる問題点などを考えます。
◎ホルモン残留牛肉は要注意 基本は疑しきは食せず◎
輸入牛肉で発がんリスクが5倍―。BSE問題で世間を騒がせた米国産牛肉が禁輸解除されたが、強い発がん性を持つ残留ホルモンが桁違いに高かった。米国では牛の飼育に女性ホルモンのエストロゲンを使っているが、残留濃度が日本の和牛に比べ赤身で600倍、脂肪で140倍だったという。北海道大学遺伝子制御研究所客員研究員の半田康医師が2009年に「牛肉中のエストロゲン濃度とホルモン依存性癌発生増加の関連」という論文で明らかにした。
米国やカナダでは1960年代から牛の成長促進剤として6種類のホルモンを使用している。EUは人の健康に悪影響があるとして80年代に使用を禁止、米国産牛肉を輸入禁止した。米国は報復としてEU農産物に課徴金をかけたが、輸入禁止は続いている。
わが国は2000年に旧厚生省が調査したが「残留濃度は国内産の3倍程度。健康リスク増要因にはならない」とした。半田医師が用いた分析装置は厚生省の従来型より感度・精度が20〜100倍以上で装置の精度差だった。
日本は米国のホルモン剤を使用禁止しているが、ホルモン剤使用牛肉は輸入している。残留ホルモンは私たちにどう影響するのか。日本人が米国に移住すると卵巣がんや乳がんが増えるという。実際乳がん発生率は日本人を1とすると米国在住白人は2.5倍。ハワイに住む日本人は白人発生率に近い。食事、特に牛肉消費量の影響が大きいと推定される。タイの乳がん発生率は日本の2/3、米国の1/4。タイでは余り牛肉を消費しない。蛋白源は魚だ。
2006年にハーバード・メディカルスクールは女性9万人を調べ「牛の赤肉を大量に食べると乳がんリスクを増大させる。牛の残留ホルモン剤の影響では」と指摘した。
日本の牛肉消費量は60年代に比べ5倍(うち25%が米国産)に増え、乳がんや卵巣がんも5倍に増えた。発生率は20〜30年遅れで米国を追随、40〜50歳から下降している。米国産牛肉の影響ではないか。牛肉輸入増の象徴がマクドナルドで主に家庭用ハンバーグや焼肉に利用された。その輸入量はホルモン依存性がん増加線とほぼ一致する。つまり幼少から牛肉を食べ続けた世代が、がん年齢になり発症したらしい。成人後、牛肉を食べ始めた人は米国型ではない。いずれ将来日本も発生率が米国型になると推定される。
高濃度の女性ホルモンは男性にも危険。南カリフォルニア大が焼き肉を毎週1.5回以上食べると前立腺がんが30%増えると発表。イリノイ大のエプスタイン名誉教授も75年以降前立線がん、精巣がんが60%近く上昇したと述べている。米国の前立腺がん死亡は肺がんに次いで2位だ。
更年期障害の女性に女性ホルモン補充療法を行うと乳がん・子宮がんリスクが高まる。ジャガイモを高温油で揚げると発がん性物質アクリルアミドが出る。ハンバーガーとフライドポテトは発がんセット≠セ。子供の成長にも影響ある。鶏肉も残留濃度が高い。米国はなぜホルモン剤を使うのか。好利益率の戦略的輸出品だからだ。疑わしきは食べない方がいい。
がんの原因1位はたばこ。日本人男性の約半数が喫煙派だが欧米では25%に低下している。食事からの発症も3割ある。がん予防は@バランスある栄養A変化ある食生活B過食を避け脂肪控えめC酒は適量D禁煙E緑黄色野菜たっぷりF塩辛いもの避け熱いものは冷ましてG焦げは避けるHカビに注意I日光に当たりすぎないJ適度なスポーツK身体を清潔に―の12カ条だ。
焼き魚と大根おろしのように食べ合わせで発がん物質を抑制できる。油が全て悪いわけではない。魚油はじめα―リノレン酸が多いえごま油・亜麻仁油などはいい。トランス脂肪酸は控えた方がいい。サプリメントにも適量がある。ビタミン剤ではなく野菜から栄養素を摂った方がいい。最近の研究からも明らかになっている。
70年代後半に米国上院で「肉や脂を減らし炭水化物摂取を増やすべき。日本の和食が理想食」と勧告するマクバガン・レポートが出た。当時の死因1位は心臓病。この結果、米国では脂肪摂取量が40年間で半減したが肥満は倍増、糖尿病や高血圧症も増えた。西欧は政策に取り入れたが日本は無視した。旧厚生省は85年の食生活指針で「1日30品目」を指導したが、食べ過ぎもあるため2000年の新指針では「主食、主菜、副菜を基本に食事のバランスを」に改めた。野菜・果物を多く摂るようになった米国ではがん罹患率が減ったが、わが国はがんが増加の一途。野菜消費量の違いかもしれない。野菜はご飯の前に、夜の炭水化物は控える、果物は朝―などもがん予防には重要だ。
トップページへ戻る