広報誌 南東北

第255号

医食同源の伝統医学


東北大学医学系研究科
高齢者高次脳医学講座
関 隆志

西洋医学を基本とする病院や診療所で漢方薬などを取り入れた治療が注目されています。郡山市の南東北医療クリニックでも昨年から毎週土曜日に漢方外来を開設しています。担当は東北大学医学系研究科高齢者高次脳医学講座講師で日本中医学会理事の関隆志先生です。これまで誤嚥や歩行障害、緑内障の鍼治療、アレルギー性鼻炎の漢方薬治療などを研究されてきました。紙面を通じ漢方とは、漢方は現代医学でどんな役割を担っているのか―などを関先生に解説して頂きます。今回は漢方や鍼灸治療が属する伝統医学の現状と基本の1つ「医食同源」についてご紹介します。

古代中東に起源を持つユナニ医学、南アジアの古代インドに起源を持つアーユルベーダ、東アジアの古代中国に起源をもつ伝統医学、チベット医学などが大きな伝統医学として知られています。これらの伝統医学には、国により大学教育があり、正式な医師のライセンスが制定されています。中国では中医師、韓国では韓医師といわれ、西洋医学と共に専門の伝統医学の大学教育を受けています。そのほか世界の至る所に民族医学といわれる伝承医学があります。日本の漢方は、古代中国の医学が1500年ほど前に日本に伝わり、その後独自に発展したものです。そのために起源は同じでも中国の「中医学(ちゅういがく)」、韓国の「韓医学(かんいがく)」とは、同じ用語や生薬を用いているにもかかわらず異なる医学体系となっています。世界保健機関(WHO)と国際標準化機構(ISO)では現在、これらの伝統医学の国際標準化の作業を行っています。
日本では近年、漢方が大変普及しています。わが国の医師には漢方薬の処方と針灸治療の施術が認められており、漢方医という免許はありません。厚労省によると平成22年末のわが国の届け出医師数は29万5049人ですが、日本東洋医学会の漢方専門医の数は2148人で医師数全体の0・7%足らず。ただ漢方薬を日常の診療で処方している医師は、医師全体の83・9%に及び、診療所においては93・3%で漢方薬が処方されているとの報告があります

食べ物はクスリ

医食同源という言葉を耳にしたことのある方も少なくないでしょう。漢方医学のクスリとして使われるものは「天然物」と呼ばれ、植物や動物、昆虫、鉱物などが用いられます。天然物の中で、薬効の強いもののその性質を長年にわたり検証し、より効果を引き出しつつ副作用が出ないように研究して作り上げたのが伝統医学の治療体系です。漢方薬に知られている性質は、体を温める・冷やす、体に必要なもの(気、血、津液)を補う、(気、血、津液の)悪くなった循環を改善するなどで、西洋医学とは異なる観点で心身にアプローチするものです。この漢方の性質は、伝統医学では食物にもそのまま当てはまるとされており、それを活用しているのが「薬膳(やくぜん)」といわれる食餌療法です。数回にわたり理解しやすい中医学の基本病態と家庭で出来る薬膳についてご紹介します。1回目は、エネルギー(気)不足の状態「気虚(ききょ)」についてです。

気 虚(ききょ)


人体のエネルギーや内臓の働きのことを「気」といいます。気虚は「気」という生命エネルギーの不足による疲れやすい状態です。 疲れやすい、息切れ、しゃべりたくない。精神的な疲労、無力感。体に力が入らない。少し動いただけでじっとり発汗する。めまい。しょっちゅう風邪をひく。食欲が無い、腹をこわしやすい。活動時・活動後に疲労しやすく症状が増悪する―などが主な症状です。
原因として過労、日頃の食べ物・飲み物の偏り、精神的なストレスなどが知られています。生薬では甘草、人参(朝鮮人参)、大棗(ナツメの実)、山薬(いわゆるトロロいも)、冬虫夏草―など。食べ物では玄米、カボチャ、牛肉、葡萄、などが有効です。漢方薬では補中益気湯、六君子湯などがよく使われます。気虚を治す経穴の代表的なものは足三里(あしさんり)=図1=、太白(たいはく)、太淵(たいえん)、脾兪(ひゆ)、肺兪(はいゆ)などです。

足三里(あしのさんり)
健康長寿のツボ。松尾芭蕉が奥の細道に出かける時にお灸を据えた場所です。
【見つけ方】下腿の向こうずねの骨の外側を足首の方から膝の方に擦りあげます。膝下で骨が太くなるのでそこに指が止まります。
【効能】胃の経路のツボで強壮の重要なツボ。特に胃腸の調子が悪い時に元気にしてくれる。食欲がない時や胃痛・下痢に良い。吐き気のある時に押すと吐き気を軽減します。

【注意点】ツボを見つけたら気持ちの良い程度の強さで押す。どのツボもグリグリと力を入れ過ぎて刺激するとツボを痛めてしまうことがある。
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