医療費に関する基礎知識(1)

がんは早期発見が重要です。継続的なPET検診によって自分の体を見張り、自覚症状のない小さながんを見つけられれば、早期治療でがんを治すことができるからです。日々進化するがん医療の世界ですが、いざというときに慌てないためにも、お金に関するおおまかな知識を持っておきたいところ。そこで今回はお金にまつわる話題に触れてみました。
 がんはほかの病気に比べて治療費が高額になる傾向があると言われます。けれども意外によく分からないお金の話。一般的にがん治療のためにどのくらいのお金がかかるのでしょうか。
 がんの種類や進行の度合い、治療法によって一様ではありませんが、胃がんの場合を例にすると、外科手術をして1カ月弱の入院をすると、100万円ほどかかるのがおおまかなところだそうです。
 健康保険で3割負担と考えれば、自己負担は約30万円というところでしょうか。内視鏡で治療可能な場合は入院日数は短くなりますから、自己負担額も10万円ほど。これらに差額ベット代や食事代などが加算されます。
 ところで、進行がんの場合はどうでしょう。手術も大がかりになりますし、術後に抗がん剤治療などを受ける場合、毎月の負担額が必要になります。
 抗がん剤は高額なものもあり、継続して使う場合、毎月数万円の負担額が発生します。
 また、ある保険会社が調査した結果によれば、がん治療費の平均額は約150万円という報告もあり、こうした数字を念頭においたファイナンシャルプラン(お金にまつわる生涯設計)の重要性を説いています。
知っておきたい社会保険制度のいろいろ
 決して軽んじられないお金の問題。経済的な理由で治療を諦めるような悲劇は避けられなければなりません。
 闘病に専念するためにも、いろいろな社会保険制度などをよく理解し、また、民間の保険も上手に活用し、いざというときに備えておきたいものです。
 まず知っておきたいのは、高額療養費制度。これは70歳未満で一般的な所得世帯の場合、8万100円以上の医療費は申請すれば戻ってくる制度です。新しく高額療養費の現物給付化という制度もつくられ、事前に認定証を提出することで、払い戻しではなく、最終的な自己負担額を支払えばよいという制度もできました。ただしこれは保険診療の対象となるもので、1カ月ごとの計算を原則とするなどいくつかのポイントがありますから注意が必要です。また、1年間に4回以上の高額療養費の対象月があれば、さらに自己負担額が引き下げられたり、貸付制度もありますから、ぜひ覚えておきたいところです。
 介護・福祉の支援制度もあります。
 65歳以上であれば介護保険を利用して、食事や入浴・排泄などの身体介護や洗濯・掃除といった生活援助を受けることができるのはご存じでしょう。では、40歳から65歳までの場合はどうでしょうか。残念なことに介護保険が適応されるのは、がんの場合、回復の見込みがない状態と医師が判断した場合に限られるようです。
 障害年金もぜひ覚えておきたいところ。例えば直腸がんの手術をして人工肛門や人工膀胱になった場合や、咽頭がんで声帯を失った場合、これに該当します。また、乳がんや肺がん、胃がんなどで受給できるケースもあります。
 ところで、病気治療のために仕事を休まざるを得なくなったとき、収入は途絶えてしまいます。こうしたときに生活を補償してくれるのが傷病手当金です。ただし、国民健康保険にこの制度はありません。自営業の方などは、いろいろな所得補償保険に加入しておくことがいざというときの大切な備えになります。
 確定申告で行う医療費控除はご存じだと思いますが、自由診療は控除の対象になります。人間ドックなどの費用は控除対象にはなりませんが、健診の結果、重大な疾病が発見された場合で、引き続き治療を受ける場合は控除対象となります。
がんを予防するために
 次にPET(ペット/ポジトロン放射断層撮影法)検査について触れてみたいと思います。
 一回の検査で全身をスクリーニングして小さながんを見つけ出すPET。検査薬剤FDGを使ったPET検査は保険適用が認められ、今では頭頸部がん、肺がん、乳がん、膵臓がん、転移性肝がん、大腸がんなど、12の疾患がこれに該当します。ただし、これには医師が「がんの疑いがある」と認める場合などの制限があります。
 がん転移の有無を確認するなど、医学的な信頼度も高いPETですが、PETがんドックで健診として利用する場合は、残念ながら自己負担となります。しかし、PET以外の画像診断機器や、各種のがん検査を組み合わせたPETがんドックは精度も高く、がん以外の生活習慣病などのチェックにも有益です。40代からは定期的な受診を心がけたいものです。
 国民病とも呼ばれるがん。政府の医療制度の充実も求められるところですが、自分の健康は自分で守る、という私たちの意識も欠かせません。重篤な事態を招くと、経済的にも大きな負担を負うことになります。がんのリスクファクターとして挙げられる喫煙や食事などの生活習慣に気をつける一次予防とともに、定期的ながん検査、つまりがんドックを上手に使う二次予防はやはり大切です。
 「〝もしも〟のときのため、知っておきたいお金の話。」次回は科学技術の進歩にともない、注目を集める先進医療(陽子線治療など)や民間のがん保険などについて触れてみたいと思います。
 ※このレポートでは、がん治療などの一般的なケースについて説明しています。詳しくは病院のソーシャルワーカーや自治体の窓口、保険会社などにお問い合わせ下さい。
 ※PETがんドックは予約制です。詳しい情報やご相談は「南東北グループPET事業部」までお気軽にどうぞ。