郡山市内に住む小学生の女の子が、血管の病気に悩まされているのをご存じでしょうか。原因不明とされるこの病気は「混合型血管奇形」。聞きなれない名前ですが、職場やPTAなどを通して多くの方がこの病気の存在を知り、難病指定を求める署名に協力されたことと思います。
 国の難病指定へ向けて活動を続けてきたのは「混合型血管奇形の難病指定を求める会」の紺野晶子さん。娘さんの病気を機に福島県支部を立ち上げ、署名活動や講演会を開催してきました。「ひとりで悩んでいる方もたくさんいます。少しでも多くの皆さんにこの病気のことを知って頂ければ」と活動を続ける紺野さんに、お話をうかがいました。

「混合型血管奇形」の難病指定を求めて

難病指定を求める37万人の署名を提出
 4月28日、「混合型血管奇形」の難病指定を求める署名が、患者や家族たちの手で厚生労働省に提出された。
 全国から寄せられたおよそ37万人分の署名は、段ボール箱にして28個。テーブルの上に積み上げると、山のような高さだ。
 署名を提出したのは「混合型血管奇形の難病指定を求める会」。生まれつき本来必要ではない血管が異常にあり、あざや痛みを伴う原因不明の病気の治療法などを調査・研究してもらえるよう、国に難病指定を求める署名運動を続けてきた。
 郡山市の紺野晶子さんをはじめ全国の患者、家族たちおよそ20名が緊張した面持ちで見守るなか、飯尾良英代表(中部学院大学短期大学部教授)が渡辺孝男厚生労働副大臣に難病指定を求める請願の主旨を説明、会の事務局長を務める岐阜県の佐藤朋子さんらが署名の束を提出した。
 病に指定されると、国によって治療法などの研究が重点的に進められることになる。現在、難病(特定疾患)には130疾患が認められており、うち45疾患の医療費は公費助成の対象だ。ところが、紺野さんらの病気は全国にどれだけの患者がいるか、実態さえも分かっていない状況だ。
 渡辺厚生労働副大臣は署名を受け取り、「多くの患者が望む重いメッセージとして受け止めています。難病の指定は専門家の判断によるところが大きいのですが、要望をしっかりと伝えて努力をしていきたい」と述べた。
 難病に指定するかどうかは、今年6月までに開かれる予定の厚労省の評価委員会で検討されることになるという。

混合型血管奇形という診断を受けて
 紺野さんの娘さんがこの病気を発病したのは生後2か月のときである。専門の医師も全国に20人足らずと言われ、近くの小児科などを受診しても、正しい診断や治療に恵まれないケースが多いという。
 紺野さんの場合もいくつかの医療機関を受診したが、「経過を観察しましょう」という答えが帰ってくるばかり。その後、夫の正寿さんがたまたま仕事で北海道に赴任していたとき、北海道大学に血管の病気の専門医がいることを知り、娘さんを診てもらうことにした。形成外科の領域から血管の病気の治療に取り組んでいた佐々木了(さとる)医師の診断は「混合型血管奇形」。紺野さん家族は4カ所目の病院でようやく本当の病名を知ることになった。
 この病気は、いわゆる血管腫とは違い、動脈、静脈、毛細血管、リンパ管のうちの複数の血管の先天性形成不全により、体にあざや腫瘍のような症状が表れるもので、大量出血やウィルス感染の危険性があり、骨格の成長に悪影響がある、というのが佐々木医師の説明だった。
 「娘が血管奇形という診断を受けて悩みました。そんな折り、偶然同じ病気を持つ女の子のお母さんが難病指定を求めて頑張っているのを知ったのです。すぐに連絡し、交流を持つようになりました。会の事務局長の佐藤朋子さんです。昨年はたった1人で15万人の署名を集め、厚生労働省に提出していました。
 自分たちだけじゃないんだ、と思うと元気が出てきます。私も何かできないかと、福島県で会を立ち上げ、無我夢中で署名集めを始めました。最初はほんの身近な人たちにお願いしました。患者やその家族がつながりを持つことは本当に大切だと思います。仲間同士で治療やいろいろな情報の交換をしたり、萎えそうな心を支えあったり」
 昨年12月には福島県議会と郡山市議会で、国に難病指定を求める意見書が採択された。今回の厚労省への署名提出は会として昨年4月に続く2度目の提出で、北海道から鹿児島県まで13都道府県から患者や家族17人が参加した。最初の分と合わせると、実に51万人の署名だ。福島県内でも8万4775人が署名している。
 「署名を提出したときの様子は、岐阜の佐藤さんが『もものほっぺ』というブログに書いていますから、ぜひご覧になって頂ければと思います」
 ログを読むと、そのときの様子がよく伝わってくる。重い段ボール箱を自分たちで運び、厚生労働省へ向かうときの感謝の気持ち。普通の母親たちが、ようやく集めた署名の束を抱え一所懸命に大役を果たそうとしている姿。患者や家族という仲間たちが支え合う会の素顔がよく分かる。『慣れない格好に慣れない靴。身体はクタクタなのに、心はホッカホカで帰ってきました。すごい充実感と満足感でいっぱいです。(中略)とっても素敵な一日でした。これでまた頑張れます』と文章は結ばれている。
 「正直、ちゃんと皆さんの気持ちを国に手渡せたと、そのときは本当にほっとしました。けれど、それで終わりではありませんので、娘と同じ患者さんのためにも、この先を見据えてやっていかなくちゃ、という気持ちになりました。まずはこの病気が存在することをたくさんの方に知ってほしいと考えています」
 ホームページでこの病気のことを知り、『もしかすると、自分の病気は混合型血管奇形ではないか』という相談を寄せる方もいるという。正しい診断も受けられず、ひとりで悩み、寂しい思いをしている患者や家族が一人でも少なくなるように、と紺野さんは願う。
心強い専門医たちの存在
 現在、紺野さん親子は北海道へ年に3回程通い、佐々木医師(現・斗南病院)の治療を受けている。
 この病気の治療は主に異常発達した血管をアルコールで潰す硬化療法と呼ばれるもので、ほかに外科手術や、あざが目立つ場合にはレーザー治療も併用する。
 主治医の佐々木医師は、血管治療の第一人者で、今年1月に紺野さんらが郡山市で開催した医療講演会にも北海道から駆けつけて講演を行った。患者や家族に協力の手を差しのべる専門医の存在は心強い。
 「佐々木先生と同じく、血管奇形などの診療に取り組む有名な方に今井茂樹先生がおられるのですが、今年春から総合南東北病院に着任されたのを知って驚きました。血管腫・血管奇形の患者会では、お二人が協力医として関わっておられます。総合南東北病院ではたくさんの署名もいただきましたが、今井先生にもご挨拶させて頂き、会の皆さんにもお知らせしていきたいと思っているところです」
 『血管腫・血管奇形IVR研究会』の代表世話人も務める今井茂樹医師は、放射線科のがん治療『動脈塞栓術』や『動注化学療法』といった血管内治療で知られるが、佐々木医師とも親交があり、血管腫や血管奇形の研究と治療にも積極的に取り組んできた。
 「血管奇形など、最近研究が進んだ病気の多くが、専門の医師の先生方のご苦労の上にあるようです。この病気が一日も早く難病に指定され、国として調査研究を進めてくれることを願ってやみません」
 今後も紺野さんたちは署名運動などを地道に続けていくという。近くでは山形県にも会が誕生し、ともに支え合いながらの活動だ。
 国や厚生労働省が患者や家族たちの声を真剣に受け止め、一日も早く難病指定への明るい展望が示されることを望みたい。
 

厚生労働省へ署名の入った段ボール箱を運ぶ「混合型血管奇形の難病指定を求める会」の皆さん。

署名提出を前に国会議員の皆さんと意見交換。難病指定への協力を求めた。衆議院本会議開催中で、主に有志の参議院議員が参加した。

渡辺孝男厚生労働副大臣に署名を提出する紺野晶子さん。福島県選出の参議院議員、増子輝彦、金子恵美の両議員が付き添った。

署名提出を終えて、日比谷公園に集う同会の皆さん。