がんの早期発見と早期治療を理念に掲げ、いち早くPET機器を導入、精度の高いがん検査システムを提供する南東北病院グループ。その一翼を担う宮城県岩沼市の「総合南東北病院 南東北岩沼PET高度診断治療センター(通称・岩沼PETセンター)」を訪ね、スタッフの皆さんに、地域に密着したPET健診普及の現状と、PETやがん、健診への思いをお聞かせ頂きました。

PETセンタースタッフの皆さんは、がんの早期発見に寄与するPET健診の啓蒙や普及にも携わってこられたわけですが、一般の方のがんに対する認識は変わってきているのでしょうか。
佐伯  がんというと、「まさか自分がそんな大変な病気になるなんて」というように、特殊な病気と考える方が多かったと思います。不治の病というイメージもありました。ところが、最近では、「体にがんができるのは当たり前なんだ」という意識を持つ方も増えてきたと思います。
 そのせいか、健診としてPETを受けて頂く方はもちろんですが、ほかの病院からの紹介も含めて、PETという言葉も浸透しつつあるように感じています。

PETマネージャー

佐伯 悟さん

 PET検査を自由診療・保険診療という分け方をした場合、保険診療の割合が増えてきている傾向があり、身近な人ががんにかかり、決して他人事ではないと思う方が増えているのかも知れません。
三善  問い合わせをいただく方の年代が若くなってるようにも感じます。40~50代前半の方が増え、脳や心臓の病気を心配するより、「自分たちが怖いのはがん」という声が多くなっています。
郡山  新聞やテレビでもがんに対する話題が多くなってきており、意識の向上を後押ししているのではないでしょうか。
佐伯  私たちは正確な知識、新しい情報を身につけ、一人でも多くの方にPET健診の重要性を伝えるため、啓蒙や普及に力を入れていきます。
実際に受診される皆さんのご様子などはいかがでしょう。
大久保  ある受診者の方は、何かお腹に違和感があって、いろいろな健診や、病院の検査を受けたのですが、どこでも異常なし。しかし、どうしても気になる。そこで奥さんと奥さんのお母さんとご本人の3人でPETを受けられたんです。そうしたら、大腸に悪性のリンパ腫が見つかったんですね。すごくショック受けてしまって。40代の方でしたが、奥さんが私の携帯の電話を教えてくれと言って、いつも電話を下さいました。
 私たちは医療行為にあたるようなことはできませんが、奥さんは共働きですし、私の近所にお住まいでしたので、機会があれば伺って、プラス志向で考えてくれ、早く見つかって良かったんだ、と気持ちを治療に早く切り替えてくれるよう、いろいろなお話をして励ますようにしました。

大久保 俊道さん

 だけど、がんになった自分を責めるんですよ。その方はがんセンターに紹介されたんですが、お会いして、自分のがん治療の体験などを説明しているうちに、前向きに治療に立ち向かう気持ちになって下さって、「がんになんか負けられない。私も落ち込んでいるだけでは駄目だから、早く健康になって、子供に大学を卒業させてやらないといけない。早く見つけてくれたことを感謝しています」と言って頂きました。
 私の場合は前立線がんでしたが、4回目のPET健診で見つかったんです。腫瘍マーカーのPSAの数値が高いということで、再検査したら悪性でした。手術を受けましたが、早期のものでしたから、一週間で抜糸して、もう何も治療はない。見舞いに来る方は皆さん〝がん〟ということで、相当苦しんでいるのではないかと想像していたようですが、病室はほかの方も含めて、明るい空気に溢れていて、拍子抜けしたようです。
 がんは症状が出てきてからではこわいけれど、早期であれば治るんです。社会復帰も問題ない。私は17日間だけ入院して、退院した次の日、すぐに車を運転し、3日後には畑に行って大根を採ってきました。(笑)
 ですから、やはり健診で体をチェックすることは本当に大切だと思います。がんの早期発見のためであると同時に、PET健診をきっかけに命に関わるような、思わぬ病気が見つかるケースもあります。健康な毎日を送っていた方に重い心臓の疾患が見つかって即入院し、大手術を受けた方もおられるんですよ。 ?スタッフの皆さんの中には、ご自身でもPET健診でがんを見つけ、治療された経験をお持ちの方がいらっしゃるのですね。
スタッフの皆さんの中には、ご自身でもPET健診でがんを見つけ、治療された経験をお持ちの方がいらっしゃるのですね。
菊池  実は、私もその一人です。総合南東北病院では、PETがんドックが平成16年に始まりましたが、私は翌年の5月から仕事を始めました。
 職業柄、私もPETを受けてみたのですが、ごく初期の甲状腺がんが見つかりました。少し様子を見ましょうということで、結果的には昨年の4月に手術しました。早期で見つかりましたから一週間の入院でしたが、その後、毎年受けていた脳ドックで、今年の1月、今度は動脈瘤が見つかって、2月の末に手術しました。5月には血管が悪くて手術して。すべて健診で発見して頂きました。自覚症状はありませんでしたね。ですから、具合が悪くないのに健診を受けるのはお金がもったいないと思いがちだけれど、現にいろいろな病気が見つかって、非常に簡単に完治するということはお伝えしたいと思っています。

菊池 久美子さん

 お年寄りの方は特に多いのですが、本当に我慢してしまって、ようやく検査を受けてみようかとなったときには、手がつけられない状態の方が増えてきました。がんのステージがもう3とか4に進んでしまっている。手術もできない。そうなる前に、健康なうちの健診が、本当は大事なんですけれども。
大久保  健康はお金で買えません。いくらお金を持っていても健康を損なっては意味がない。健康だと思っていても、60歳を過ぎてリタイアする頃の年齢になると病気というのはどっと来るんですね。だから、リタイアと同時に健診を受けることをお薦めしたいわけですね。
 ご夫婦ともども、旅行したり、お茶を飲んだり、楽しく過ごすにも健康が基本ですから、健診はまめに受けてほしいですね。PETでなくても構わないですから。
健診や予防医学への関心も強まっているのでしょうか。
渡辺  健診で問題がなければ、これは安心料だ、良かった、とおっしゃって下さる受診者の方もたくさんおられます。
 「これは車の車検のようなものだよ。健診でチェックするのは当然だよね。生身の身体だから、日々、状態も変わっているし。社員や家族の負担も考えて、責任のある立場としてPETを受ける。自分が倒れたら会社が駄目になってしまうから」
 そんなお話をうかがうと、本当に感心させられます。とても意識が高いですね。健康を維持するためには、そんな健康観、健診の意識が大切ですね。
佐伯  全国的に見ると、インターネットの申し込みを中心に受け付けるPET施設もありますが、私たちは直接お客様と対話して、説明をする。一人ひとりの方にきちんと向き合ってご案内したい。それが地域密着というものにもつながっていくと思います。

郡山 芳治さん

郡山  市の地域包括が活発化しており、健診に対して行政が力を入れていると実感してます。私のお客様の中では、ほとんどの方が市の健診を受けています。ただ、問題はその後で、2次健診を指摘されながらそのままにしている方が多いというのも現状です。
大久保  やはり健診を受けられる方と密着しているということが大事だと思います。予約を頂いたお客様には挨拶をし、健診後の検査結果はいかがでしたか、とお声をかける。お客様と対話しながらフォローしていくことが安心にもつながると思いますから。
三善  「健常者には分からなくても、あなたなら分かるでしょ?」と相談されることもあります。自分の存在が重宝がられ嬉しい反面、言葉を選んで接する技術も要求されます。
菊池  PETというと、最初の頃のイメージは、最先端の、斬新なものというかたちでした。この機械にかかればがんはすべて見つかるし、治るというイメージで広がったと思います。今はそうした珍しさはありませんね。本当に具合が悪くて受けてみよう、と変わってきたように思います。

三善 和夫さん

 PETの認知度も上がってきましたし、ニーズもすっかり変わってきたということでしょうか。興味本位ではなく、がんが心配だから。それだけに、お客様には一層きちんと接しないといけません。
大久保  生活習慣、食生活やストレスなど、がんにかかりやすい時代状況もあるのかもしれませんね。
 38歳の方に、PETは2年に1回受ければいいよね、と尋ねられたことがあるのですが、その周期でチェックすれば大丈夫です、と太鼓判を押すことはできないわけです。私の体験ではこうです、とはご説明したのですが。
体は個々人それぞれで違いますから、PET健診をご案内する上では、当然機械的な一般論だけでは済まない難しさもあるわけですね。
佐伯  昔は2年に1回、3年に1回という決まり文句がありましたが、変に断言できない状況はありますね。確率は低くてもごく少数派の進行がん、たまたまPET健診で問題なしとなっても、半年後に見つかるというケースもないわけではありませんから。
渡辺  PETの感度についても、1センチ前後であれば、大体は分かるとしても、説明をするときには言葉をいい加減に使うことはできませんね。
菊池  だから、私たちのフィールドはここからここまで、ここからはドクターの領域ということを自覚しておく必要があると思います。私たちスタッフの問題意識として。私たちはドクターではありませんので、私たちが説明できるのはここまでです、と。お客様にもご理解頂きながら、それ以上はドクターが希望者に面接してご説明させて頂きます、ということですね。
渡辺  確かにお客様はドクターと同じ感覚で私たちに接してくることもありますから、自らを戒めないといけませんね。
菊池  健診については自治体によっても随分考え方は違っているようですね。医療費が財政を圧迫しているから、健診に力を入れようというところもあります。PETの講演会を自治体で後援してくれたり。回覧板を回して下さるところもありましたね。
 ただ、景気が悪くなってくると、自分から進んで健診を受けようという方が少なくなってくるのも現実ですね。PETを受けたいけど、年金暮らしで、節約したい、という方もおられます。

渡辺 敬夫さん

佐伯  世の中の状況に健診や健康も左右されてしまうというのは残念なところですが、そうした現実もやはりあるわけですね。けれど、人は誰でもがんになるもの。なるのが当たり前ということであれば、PETを利用した早期発見という役割は、一層強まるのではないでしょうか。
渡辺  がんを水際で食い止められれば、治療のための入院期間も短くなるし、医療費も削減できるわけですからね。
岩沼PETセンター概要