首都圏における南東北グループの医療・福祉ネットワークが新たな時代を迎えようとしています。「新百合ヶ丘総合病院」の誕生です。377床という大きな総合病院の開設には医療を支えるスタッフの募集から育成をはじめ、経営管理の視点からの土台づくりも不可欠です。今回はこうした病院マネジメントの視点から、理想の医療を実現するために南東北グループが進める取り組みを見つめてみます。

新百合ヶ丘総合病院・起工式にて(2010年9月2日)
渡邉一夫理事長による記念すべき「鍬入れ」が行われました。

 新百合ヶ丘は通称新百合山手と呼ばれる街。そこに377床の「新百合ヶ丘総合病院」が誕生します。
 川崎市の北部医療圏(麻生区・多摩区・宮前区・高津区)の病床不足を補い、小児科・産婦人科をはじめ複数の診療科目を持ち、小田急線沿線に開設することなどを条件とした川崎市の公募で、南東北グループのひとつ医療法人三成会が選ばれ、川崎市医療審議会、川崎市が承認したものです。
 「新百合ヶ丘総合病院は2012年オープン予定です。南東北グループにとっては、脳神経外科病院の開設から、民間病院初となる陽子線治療センターオープンなど、現在まで取り組んできた医療サービスの集大成とも言うべきプロジェクトになります。渡邉一夫理事長以下、医師、看護師、スタッフ一丸となって地域の救急医療を担い、産科、小児科に加えて南東北グループが得意とするがん医療、高度先進医療など、理想の医療に取り組んでいきます」

諸 橋 泰 夫 さん
(もろはし・やすお)
南東北グループ人材開発部 部長
新百合ヶ丘総合病院開設準備室 室長
東京病院 事務長
◎ 略 歴
早稲田大学社会科学部卒
一般財団法人脳神経疾患研究所 総合南東北病院
事務長/ 社会福祉法人 南東北福祉事業団
事務長 /同法人 東京総合保健福祉センター
江古田の森 事務長等 を歴任 現在に至る

 そう話してくれたのは、諸橋泰夫さん。新百合ヶ丘総合病院の準備室長です。中野区にリニューアルオープンした東京病院事務長も兼任するなか、病院経営や「人材確保」「人材育成」に多くの経験を持つスペシャリストとして、講演などで全国を飛び回っています。
 諸橋さんには、郡山市長選立候補(2005年)というユニークな経歴もあり、医療・介護の安心とともに、社会に対して正直な姿勢を貫こうとする理想は、首都圏の医療過疎、介護職・看護師不足という難しい課題に直面しながら、南東北グループの首都圏展開に活かされているようです。
 医療・福祉サービスの質を維持するためにも必要とされる病院マネジメント。その〝アイディア〟と〝取り組み〟は、これからのマネジメントモデルとしても注目を集めています。
看護師不足とワーク・ライフ・バランス
 「来年オープン予定の新百合ヶ丘総合病院では、現在、約200名の看護師さんにエントリーをしていただいています。条件が合えば働きたいという希望ですね。最終的には300人集める必要があるのですが、これは大変な人数なんですよ」
 そう話すのは諸橋泰夫さん。看護師不足は想像以上に深刻だと言います。
 「ですから、いろいろな知り合いの病院を回ったり、ほかの病院の事務長さんや、看護師長さんたちが集まる人材セミナーの講師をして声かけをし、互いに人材のネットワークをつくろうと話しています。紹介会社を通すと、手数料もとられますから」
 諸橋さんは潜在看護師と呼ばれる人たちへの求人にも力を入れています。出産をして、しばらくして職場に復帰しようとしても、保育所がいっぱいで戻れない。そんな看護師さんたちにも働いていただけるように環境を整えることが必要だと言います。
 「今年4月、中野区江古田の森に東京病院をオープンしましたが、東京病院は、日本一働きやすい病院を目指しているんです。短時間勤務制度や夜勤免除など、いろいろな制度をつくっています。看護師さんには女性が多いですから、子育てを支援し、女性が働きやすい職場環境を整えることが必要なんですね」
 キッズルーム(保育施設)の設置は必須。それ以外にも東京青山にある『子ども未来財団』に申請してベビーシッターの活用を補助する制度も利用できるようにしました。
 また、東京都には、仕事と生活の調和を目指した雇用環境整備を推進するワーク・ライフ・バランスの認定制度があり、早速申請して審査を受け、認定を得られたそうです。
 「これは発足から3年目の制度で今年は10社が認定されました。実は東京病院の副院長は、看護師協会の研修などで講師も務めるワーク・ライフ・バランスの専門家です。新百合ヶ丘総合病院のオープンにあたっても、こうした取り組みが理想的な医療を支える環境づくりに、有益な経験として活かされるよう、私たちはプロジェクトを進めているのです」
東京総合保健福祉センター 江古田の森の経験
諸橋さんは、日本最大級の福祉施設、東京総合保健福祉センター江古田の森のオープンにあたり、短期間で看護師・介護職250人を集めた経験があります。その経緯は、NHKテレビでも紹介されました。折しも介護・看護の人材不足が社会のなかで深刻化しはじめた時期。
 「最初は手探りをしながら専門学校やハローワークを回りました。そこで気づいたのは、もともと福祉や医療に関わる人たちは、人のためになりたいという動機を持ってその世界に飛び込んできているということです。資格をとるために学校に通う時点で志を持っているんですね」
 しかし、働いてみて大変な現実にも直面し、現場から心が離れてしまう。だから本来の心の琴線に触れるような組織、仕事ができる環境を整えることが自分たちの責務ではないか、と諸橋さんは考えるようになったと言います。
 こうして、働く環境のきめ細かな整備が真正面に据えられていくことになりました。働く意識を高く保つ上でも、それは重要なこと、と諸橋さんは言います。
東京病院事務長として
 ところで、〝江古田の森〟には大正時代に国立の結核療養所がつくられ、詩人の立原道造なども療養生活を送ったそうです。
 「1993年に療養所は移転し、跡地は公園として整備されました。今では考えられませんが、結核は不治の病と恐れられていた時代があり、療養所から回復しないまま退院を迫られ、行き場もなく生きるすべもない方が悲惨な状態に置かれていたんですね。昭和2年、そんな光景を目の当たりにしたフロジャクという神父さんが、慈しみの家を創設し、そうした方を受け入れたのが始まりで慈生会病院が誕生します。由緒正しく、とても歴史があるんですね。しかし近年、経営は厳しさを増し、南東北グループが引き継いでリニューアルオープンしたのが東京病院です」
 債務も含めると大きな負担でしたが、地域に貢献したいと渡邉一夫理事長が決断しました。
 医療と福祉は、法律的には区別されますが、患者さんにとっては連続しています。救急とリハビリ病棟をあわせ持つ東京病院と、すぐ隣にある江古田の森の福祉施設を一体的に運営できるのは、患者さんのメリットにもなるはず。現在、首都圏の高齢化が進んだ人口密集地域における医療・福祉の新しい事業モデルとしても、東京病院の取り組みは注目されるようになっています。
 「南東北グループが病院事業を引き継ぐ頃、慈生会病院では救急の受け入れにも積極的ではなくなっていました。救急は断らないというのが南東北グループの理念ですから、数カ月で救急車の搬送件数は月に250台を数えるようになりました。こうした地域への貢献を果たすため、地域連携室などを通して医師会や開業医の先生との連携にも力を入れ、信頼されるよう努力しているところです。
 9月には、高知大学医学部教授の笹栗志朗先生が院長に着任されました。心臓血管外科のスペシャリストです。救急において心臓外科は不可欠ですし、脳外科では福島孝徳先生も手術をしています。こうした急性期医療においても、東京病院は特筆される存在になっていくでしょう」
最高の医療を実現するために
 景気後退を背景とした厳しい経済環境の中、医療や介護は今、構造的な不況業種だと言います。診療報酬、介護報酬は国が定めるわけですが、例えば高性能な3・0テスラーのMRIも0・5テスラーのMRIも保険点数は同じです。本当は高性能で高額の機械を導入したら、診療報酬に反映させてもらわないと経営的に合わないのですが、そうなっていない現状があります。
 そんななかでも、質の高い医療サービスを維持するため、医療機関は経営努力をしていかなければなりません。
 「最高の医療サービスの提供に欠かせないものに『ひと・もの・おかね』があります。つまり、優秀な人材、最高の設備、適正な経営です。そこに優先順位はないんですね。小児科・産婦人科の医療崩壊、看護師不足など、様々な問題に前向きに取り組み、患者さんの満足はもちろん、地域の皆さんの満足、働くスタッフの満足を実現できるよう取り組みながら、最終的には、南東北グループのブランド力をつけられるように頑張っていきたいと考えています」
 

新百合ヶ丘ってどんなとこ? 小田急小田原線沿線、東京都郊外の人気エリア(神奈川県川崎市麻生区)

新百合丘総合病院 開設準備室
顧問 石井 通さん

 新宿から箱根へ向かう小田急小田原線の途中駅にあたる新百合ヶ丘は、特急「ロマンスカー」の停車駅でもあります。新宿からは快速で約21分。沿線の下北沢や成城学園などにも近く、多摩丘陵の面影を残した環境は“新百合山手„とも呼ばれ、住宅地としても人気です。
 「新百合ヶ丘がある麻生区の人口増加率は川崎市で第一位。大型のショッピングセンターも相次いで出店し、将来性のある暮らしやすい街です。小高い丘を散策していると、思いがけず懐かしい水田や畑を目にすることもあります。緑地や公園も整備されていて、ウォーキングや散策にも最適な環境です。この地域は、かつて柿生(かきお)村と呼ばれていました。特産の禅寺丸柿は、日本で最初に見つけられた甘柿で、柿生の地名の由来と言われています」
 そう教えてくれたのは病院開設準備室の石井通さん。
 準備室は駅に隣接するビルの6階にあり、建設工事中の新百合ヶ丘総合病院を丘の上に望むことができます。また、天気が良ければ丹沢山系の向こうに秀麗な富士山の姿を見ることができるとか。
 「新百合ヶ丘総合病院が完成すれば、素晴らしい眺望が楽しめるでしょう。緑豊かな丘陵地の理想的な病院環境のなか、地域の急性期医療を支え、南東北グループならではの先進的な医療サービスを提供できるよう、準備を進めています」

早朝の新百合ヶ丘駅

新百合ヶ丘総合病院準備室から病院建設地方面を望む

「芸術のまち・しんゆり」を彩るイルミネーション
「kirara@(きららっと)アートしんゆり」

新百合ヶ丘病院開設準備室から見た富士山

秋の黒川/多摩丘陵の谷筋に伸びる
水田の風景が美しい(麻生区)

香林寺の五重塔
よみうりランド南側の
小高い丘の上にある
(麻生区)

よみうりランド(東京稲城市と川崎区多摩区)/
敷地内にゴルフ練習場・読売ジャイアンツ球場
などを備える

禅寺丸柿


東京病院&東京総合保険福祉センター江古田の森

江古田の森の散策路

 東京病院は2010年4月より旧・慈生会病院をリニューアルオープン。「すべては患者さんのために」という南東北グループの理念のもと、さらに地域に貢献できる病院を目指し「東京病院」として生まれ変わりました。
 東京病院の特長は、急性期とリハビリ(回復期・欄外注記参照)の病棟を併せ持つこと。地域で医療ニーズの高い回復期リハビリテーションの向上及び、急性期医療における特色のある専門診療科の設置を進めています。また、働きやすい職場環境の実現を目指すワーク・ライフ・バランスの実践でも注目されています。
 南東北福祉事業団は、「すべては、利用者さんのために」を団是に掲げ、「東京総合保健福祉センター 江古田の森」も利用者さん本位に、 誰もが、“住み慣れた地域で生涯生き生きと暮らし続けるために”を 基本理念としています。
 江古田の森に隣接する相互の施設が一体的に運営されることで、医療、福祉間の連携や、利用者の希望に合わせて回復期リハビリの選択肢を増やすなど、きめ細かな福祉・介護サービスの提供を実現しています。
 
医療法人財団 健貢会 東京病院
〒165-8906 東京都中野区江古田3-15-2
JR中野駅より江古田の森行きバス 東京病院バス停下車
http://www.tokyo-hospital.com
TEL:03-3387-5421
東京総合保健福祉センター 江古田の森に隣接
旧・慈生会病院を引き継いで改装し、東京病院として2010年オープン。将来的には全面リニューアル工事が行われる予定。2010年9月9日の救急の日には地元の野方消防署長から救急医療への貢献が認められ、表彰されました。
 
南東北福祉事業団 東京総合保健福祉センター江古田の森
〒165-0022 東京都中野区江古田3-14-19
http://www.kaigo-egota.com
TEL:03-5318-3711
国内でも最大級の福祉センターとして中野区が旧国立診療所中野病院跡地に、 PFI事業による施設整備を実施するため、事業者を全国公募し、選定事業者となりました。

※PFI法:民間資金等の活用による公共施設の整備等の促進に関する法。
 

南東北グループ 医療法人財団
健貢会 東京病院
笹栗 志朗 院長
ささぐり・しろう
(高知大学名誉教授 医学博士)

○専門/心臓血管外科 呼吸・循環・再生外科学
 心臓血管外科専門医・外科専門医・日本外科学会指導医・日本胸部外科学会指導医
 日本循環器学会専門医 ほか
東京医科歯科大学医学部卒業、三井記念病院外科チーフレジデント、米国ハーバード大学外科研究員(マサチュウセッツ総合病院勤務)、東京医科歯科大学 医学部手術部助手、順天堂大学 胸部外科助教授、高知大学医学部外科学教授などを経て本年9月から現職。

 

南東北グループ 医療法人財団
健貢会 東京病院
中島 美津子 副院長
なかしま・みつこ
(看護学 博士)

九州大学病院、日本赤十字病院、済生会病院など各地の病院で看護師として勤務。平成15年より九州大学医学部保健学科、聖マリア学院大学看護学部などの教育・研究職を経て、東京警察病院看護部長、本年5月より現職。
日本看護協会においてWLBNI開発・検討会委員や看護職の多様な勤務形態による就業促進事業、地域へのワーク・ライフ・バランス普及推進プロジェクトの委員も務める。
美津子の部屋 http://ameblo.jp/tokyobyouin-director/