人生の指南役 『指導医の役割-研修医の教育を通して-』

一般財団法人 脳神経疾患研究所
附属 総合南東北病院 消化器センター
西 野 徳 之 センター長
(にしの・のりゆき)
◎profile
1987年自治医大卒。
1990年利尻島国保中央病院(北海道利尻町)内科医長。94年同院長。
2007年より現職。



 総合南東北病院 消化器センター長、西野徳之先生の専門は消化器内科。特に胆嚢・膵臓やがん疫学が専門ですが、北海道・利尻島の医療を担ってこられた経歴の持ち主。救急医療(Helicopter搬送)、画像伝送なども専門としています。  いわゆる僻地医療の経験から、総合診療(General Physician)や地域医療はライフワークのひとつ。初期診療の段階で一般に普及しているX線画像から病気を見つけ出す読影の大切さ、“気づき医療”を提言しています。地域の患者さんと向き合ってこられた臨床経験も豊富ですから、研修医の指導や相談役としても頼りになる存在。  今回は総合南東北病院ホームページにも掲載されている西野先生のコラムから、後輩医師へ語りかけたPET検診に関するお話しをご紹介します。 (http://www.minamitohoku.or.jp/study/study_column.html)


人生の指南役 『指導医の役割-研修医の教育を通して-』西野ドクターのコラムから

 今日うれしいことがあったんだ。聞いてくれ。
 先日初めて会う患者さんが僕を指名して診察に来てくれたんだ。
 もちろん指名料なんてないよ。きっと、知り合いの方のお勧めなのかなと思っていたら、あにはからずや。僕のPETの市民公開講座を聞いて、PETを受診してくれた方だったんだよ。うれしいじゃないですか。演者冥利に尽きるってもんですよ。でもね、受診に来てくれたということはさらに検査が必要だったってことなんだよね。その精密検査を僕にしてほしいという依頼の受診だったんだ。

 あとで話を聞いたら、その方はもともと至って元気な方で、病院なんか行ったことがないというのが自慢だったらしいんだ。僕の講演にも奥さんが無理やり手をひっぱって連れてきてくれたらしい。奥さんもPET検診を受診されたけど、問題なかったんだって。不思議なものだよね。でも奥さんもえらいよね。それだけご主人のことを心配していたわけだから。まだまだ一緒に生きたいんだよきっと、そう思いながら手をひっぱっていったんだろうね。ご主人もきっと奥さんに感謝していると思うけど…、口に出して言ったかどうかはわからないけどね。男は思っていてもなかなか口に出せないからな。
 「そうなんですか?」
 そんなもんさ。
 その後、結局直腸がんの手術もうまくいって元気に退院された。
 PETの一番いいところはこのような無症状期の方が、検査の苦痛を感じることなく、診断が得られることだよね。Costがかかるのが玉に瑕だけど。
 PET検診がlow costで普及すれば、きっともっと早期のがん患者さんが一杯見つかるはずなんだ。
 でも現実的な一番の問題はPETのよさが医師の中にあまり浸透していないことだと僕は思っている。実際我々もPETを稼動し始めた頃は役に立つのか、懐疑的だった。多くの症例で検査をすることで、その有用性を理解するようになった。癌の患者さんなら、一度はPETを撮ったほうがいいとね。
 PETを使っている医師はそれほど多くない。「PETはあればいいよね」という傍観者が実は多いんだ。だから、我々はPET検査のEvangelistでもあると思っている。
 「なんすか? それ」
 伝道師、啓蒙っていうことさ。学会などで、PETの有用性を紹介することで、医師に対してもその価値を認識してもらいたいと思っている。

利尻空港にて、
利尻山を背景に(1995年頃)