南東北グループは、世界でも有数のがん検査・治療機器を擁しています。グループ全体としてPET8台、CT11台、MRI10台を備え、副作用を極力抑えた低侵襲治療にも力を入れてきました。  
  総合南東北病院には、主に脳腫瘍に用いられるガンマナイフのほか、最新鋭リニアックIMRTが稼働しており、今年夏の開設が待たれる新百合ヶ丘総合病院では、サイバーナイフ(多方向から放射線を集中照射してがんなどの治療を行う定位放射線治療装置)の導入が予定されています。
 南東北グループはこうした最先端医療機器を数多く備えるだけでなく、放射線医師 15人、放射線技師70人以上を擁し、南東北がん陽子線治療センターは隣接する総合南東北病院との連携のもと、民間医療機関として国内初の総合的かつ本格的ながんセンターとしての役割を担っています。
 2010年、総合南東北病院は福島県のモデル事業として中国からのメディカルツアーを受け入れました。PETを用いたがん健診をメインに、周辺地域の観光もパックにしたツアーです。
 この事業の大きな特徴は中国側の医師が検査に立ち会い、帰国後の結果説明や治療にあたるというものでした。それは中国人との言葉の壁を越え、検査時のコミュニケーションを円滑にすることを目的とするだけでなく、健診の結果、何らかの異常が発見された場合にどう対処するか、という帰国後のフォローまでを視野に入れた試みでした。
 

  その後、総合南東北病院はモデル事業の中国側医療機関である上海市の浦南(プーナン)医院との間で正式に医療連携の調印をしました。浦南医院は中国で初めて人間ドックのクリニックをオープンさせるなど、中国で最も先進的な病院のひとつとされています。
  総合南東北病院と浦南医院では、診断と治療方針の検討を可能なものとするため、浦南医院が管理する検査画像を日本から読影する遠隔システムを導入しました。また、浦南医院では総合南東北病院へ医師を派遣し、医療研修と教育に努めています。
  医療事情も異なるなか、国境を越えた医療連携を充実したものとするためには、相互の地道な交流と人材育成が欠かせないようです。

 

メディコンパスクラブの視点

メディコンパスクラブは、健康と医療の会員制クラブです。南東北グループのご協力を得て2007年に誕生しました。私たちのコンセプトは、南東北グループが掲げる「早期発見と早期治療」という医療理念を共有し、会員の皆様に健診を中心としたきめ細かなメディカル&ウェルネスサービスをご提供したい、ということです。
健康な毎日を送れることは何よりですが、がんをはじめとする疾患に備えておくことは、誰もが忘れてはならないものです。Quality of Lifeという言葉がある通り、質の高い充実した人生を送る、あるいは健康寿命を長く生きるために、私たちは予防医学の成果を十分に活かしたいものです。PETがんドックや脳ドックはそんな思いに応えてくれる科学的なアプローチと言えるでしょう。
こうした健診・ドックとともに南東北グループが誇る陽子線治療などの最先端医療は海外からも大変な注目を集めております。2010年4月には南東北病院グループと浦南(プーナン)医院の医療提携調印式が行われました。私たちメディコンパスクラブといたしましても、まず上海に事務所を開設し、浦南医院との提携の上に上海を中心として活躍される日本人の皆様に、価値ある健診医療ネットワークと最高の安心をご提供したいと考えてまいりました。
上海医療講演会はメディコンパスクラブの上海事務所のオープン企画として開催したものです。7万人とも言われる上海在留邦人の皆様が海外で活躍し、健康な毎日を送れるようにするためには、医療の安心が不可欠です。私たちはこうした視点から、中国に暮らす日本人の皆様が南東北グループの優れた医療サービスが受けられるようになることに寄与したいと考えております。そしていずれは中国人の皆様にも、予防医学や陽子線治療への理解が浸透し、がんをはじめとする難しい疾患についても、南東北グループの進んだ医療の恩恵が受けられるようになることを願っております。
 
 
 

日本の健診サービスと最先端医療を世界に発信するために

陽子線治療をはじめとする日本の最先端医療が海外から注目を集めています。また、日本人や日系企業の海外進出にともなって、現地医療機関との円滑な連携を模索する動きも生まれてきました。医療の国際化という言葉に示される内容は多岐にわたるものです。南東北グループでは、これまでに、ブルネイ、サウジアラビア、ロシア、中国などの医療機関と医療連携協定の締結をするなど、会議や研修会の合同開催、医師や看護師の派遣、患者の治療、健康科学の共同研究などを通じて、将来へ向けて国際的連携を深めていく予定です。医療の国際化を捉える視点のひとつとして「上海医療講演会」から瀬戸晥一先生と劉衛東先生のお話をご紹介します。
 

日本の先進医療とInternational Hospital Share

 
日本の医療の質は世界から高く評価されています。寿命は世界一。しかし、残念ながら国際社会への発信は、他の科学分野、芸術などに比べて驚くほど消極的で貧弱と言わざるを得ません。そこで私たちは、日本の優れた医療を海外に発信し、各国の医療機関と連携して世界の患者さんのためにネットワークを作ろうと志しました。
私は口腔顎顔面外科医です。30年間、没頭して研究し、患者さんの治療や手術にあたってきました。しかし、舌のがんは切除・摘出が一般的で、切除後の再建術まで含めると、想像以上に大がかりなものになってしまいます。
手術後、電話をするのも食事をするのも支障なく社会生活を送っている患者さんがいる一方で、機能を回復することができず、咀嚼や嚥下障害、顔の変形などの後遺症を残してしまうケースもあります。早期発見で舌の切除が半分くらいならいいのですが、それ以上になると機能障害を起こしてしまうのです。
術者はうまくいったと満足しても、患者さんは後遺症に泣いている。こんなことなら死んだほうがましだった、と。そこで、南東北グループの切らずに治す医療、口腔がんはこれでいくべきだと思ったわけです。
それが陽子線治療です。普通のX線などの放射線治療は体に入って次第に減衰していくため、照射したくないところにもあたってしまいますが、陽子線にはブラッグピークというものがあり、腫瘍へのピンポイント照射が可能になります。心臓や骨など、ほかの臓器などに影響が及ばないというのが大事なんですね。
南東北がん陽子線治療センターでは年間500例以上の照射実績を誇っています。部位別には頭頸部が非常に多く、約40%を越えています。これは当センターの特長でもあり、世界でも特筆されます。
陽子線治療は前立腺がんに非常に有効ですが、食道がんでも、肺がんでも有効です。口腔がんでは舌動脈の腫瘍に近いところに集中的に抗がん剤を入れて陽子線治療と併用する治療が良好な成績を得ています。
喉頭(こうとう)に近いところまで手術でとらなければならないような症例でも、機能温存した治療が可能になっています。上顎がんもすっきり治って再発もしていません。
肺がんでは、呼吸の動きに合わせて照射する呼吸同期という方法を用いて正確な照射を実現させています。
最近では上海の学会で、総合南東北病院下垂体疾患研究所所長で脳神経外科医の池田秀敏先生が、脳下垂体腫瘍に対する陽子線治療の有効性を発表されました。
今後は、BNCT療法(Boron Neutron Capture Therapy)と呼ばれるホウ素捕捉療法の導入が待たれています。これは悪性腫瘍の細胞だけが選択的にダメージを受けるというコンセプトで、世界初の治療法です。
こうした日本の進んだ医療の恩恵を、海外の方にも享受してほしいと考えています。メディカルツーリズムと言うと、定義も実は曖昧で、現在は外国からの観光誘致に健診を組み込むかたちですね。しかし、私たちはこうした概念を乗り越えて、世界の医療機関と連携して難治疾患の治療技術や施設を国際的に共有し、最適最新の治療が受けられるシステムを構築しようと考えております。インターナショナル・ホスピタル・シェア(International Hospital Share)という概念です。
国境の壁を越えて、病院が提携し、ネットワークをつくる。そのためにはテレメディスン、遠隔画像診断という手段があれば、できる時代です。それをどんどん進めていこう、それによって日本の医療は世界に進出できるだろう、ということです。
富裕層をターゲットにしたメディカルツーリズムだけでなく、日本人に優しい治療を行う浦南医院との提携をひとつの契機として、これから新しい医療の世界が広がっていくことを期待しております。
 

上海での日本人医療を担う

 
私は、1992年に大阪医科大学で博士号を取得し、中国に戻ってからは中国にいる日本人の医療に取り組んできました。特に上海では日本人の人口が次第に増えて、それに対応すべく、浦南(プーナン)医院に国際医療部を開設しました。現在、24時間日本人の方に外来対応できるのは、上海では当院だけではないかと思います。
浦南医院はトータル28科の総合病院で、上海にある日系のクリニックとも連携があります。重症の患者さんなどで精密検査が必要な場合は、当院で検査を行っています。
日本語ができるスタッフが50名ほどおり、そのうち10名以上の医師は日本で博士号を取得しています。また、医療アシスタンス会社と提携し、中国全土で病気・外傷で倒れた日本人の患者さんからの依頼があれば、医師・看護師が現地に赴き、中国国内及び日本へ搬送する緊急搬送チームを有しています。
搬送はおおむね2つのケースに分けられます。1つはかなり重症の場合で、日本に戻って治療を受けたいという方に、チャーター便を利用して日本に搬送しています。治療してから日本に送るというケースも多くあります。緊急手術の場合は脳卒中や心筋梗塞、骨折などが多いですね。なでしこジャパンの選手が骨折して入院していたこともあります。
南東北グループとは医療提携によって、当院のすべての画像データが、遠隔システムで共有されています。診断や治療法の相談もできるわけです。
医学についての交流もしています。福島孝徳先生には4年くらい前から当院でも手術をして頂き、瀬戸晥一先生や伊藤康信先生にもご指導を頂いております。また、当院のスタッフの研修として、総合南東北病院に医師を派遣しております。南東北グループとの国際医療提携を通して、さらに高度な健診・医療サービスを提供していく考えです。
 
 

陽子線センター

陽子線治療センターには、これまで世界各国の政府・医療関係者が見学・医療交流に訪れている。陽子線治療に対してはいずれの国も強い興味を示しており、南東北グループとの連携にも積極的だ。
陽子線治療に関するプラントの自国への導入にも関心が高いが、医療はハード面だけでは成り立たないことから、南東北グループでは、医師・看護師などの派遣とともに、各国の医師を受け入れての研修・教育、医療連携などの視点も合わせた提案を進めているという。
写真①ロシアからの視察、②ブルネイとの医療提携調印、③サウジアラビアからの視察、④サウジアラビアで開催されたセミナー、⑤ロシアからの視察