感染予防への取り組み -Infection Prophylaxis-

ノロウイルスが猛威を振るっています。今季はこの10 年間で最も流行した2006 年に次ぐ勢い。ノロウイルス感染は例年12 月にピークを迎えますが、インフルエンザとともに今後も十分な警戒が必要です。
集団感染をできるだけ予防するためにも、感染症についての正しい知識を持ちたいものです。

 

第4回感染予防週間について

総合南東北病院では早くから「院内感染対策室」を設置し、医師および(社)日本看護協会が認定した感染管理認定看護師を対策室に配置して日頃から感染予防と対策に当たっています。


去る10 月1日(月)〜10 月6 日(土)には「第4 回感染予防週間」として環境衛生、労働衛生、結核予防などを含めた総合的な視点から、南東北病院の患者さんと全職員に対する感染
予防についての啓発イベントを行いました。この予防週間の趣旨について、院内感染対策室室長を務める宮元秀昭先生は、このイベントがきっかけとなり、今後少しでも感染症に対する正しい知識が普及し、患者さんとそのご家族、医師、看護師、医療従事者の垣根が取れ、病院全体が一丸となって院内感染予防を目指し、よりよい医療のために手を取り合っていくことができたらと心より願っています」と述べています。

 

「第4 回感染予防週間」の主なイベントは以下の通りです。

 

[感染予防講演]

一般対象イベントとして10 月1 日は一般財団法人化学及血清療法研究所の岡本圭司先生が「感染症とワクチン」の演題で講演、日本のワクチン接種の現状として公費助成や政策面では、欧米と比べて(場合によっては世界的に)遅れている部分があることなどを指摘した上で、感染症とその予防手段のひとつであるワクチン接種、感染予防について解説しました。

また、10 月6 日には福田衣里子さんが「感染症とワクチン」と題して、肝炎についての正しい知識とウイルス検査の重要性について講演しました。そのほか、病院中央棟1 階の外科外来診察室の脇に展示ブースを設置して感染予防に関する用品を展示紹介、「手洗い実践と評価」ブースでは感染予防には手洗いが有効であることから、手の汚れを検出する機器を用いて洗浄前後の手を検査、いかに洗い残しがあるかを来院者などが試していました。感染症予防週間」に引き続いて行われた「健康講座」(10月18 日)では感染管理担当の高木光恵看護師長が「冬季感染症」と題して講演、インフルエンザとノロウイルスによる感染性胃腸炎の原因と治療、予防法について解説しました。

 

【まめ知識】

▷ノロウイルスは感染性胃腸炎の原因と なるウイルスで、潜伏期間は1〜2日。カキなどの二枚貝による食中毒や感染によって発症し、嘔吐や下痢、発熱が1〜2日ほど続きます。ワクチンや特効薬はなく、アルコール消毒も効き目がありません。そのため手洗いを中心とした予防が重要です。▷インフルエンザのピークは1 月から2月。予防の基本は、ワクチンの接種と、手洗い・うがいです。ワクチンには、発症したときの重症化を防ぐ効果もあります。

ノロウイルスについて

ノロウイルスは85度で1分間以上熱すると死滅するため、食品の十分な加熱が予防につながります。嘔吐や下痢の症状が出たら脱水症状に気をつけ、水分と栄 補給を。調理される方で症状がある方は食品を扱う作業を避けて下さい。調理器具などの消毒も重要です。

タオルなどの共用を避けたり、嘔吐物、便がついたものは、使い捨てのマスクや手袋を着用し、新聞紙などに嘔吐物を吸い取らせ、ビニール袋に密封して捨てます。その際、殺菌のために塩素系漂白剤を用い、ビニールの袋のなかも消毒します。

下痢の症状がなくなっても、患者さんの便にはしばらくウイルスが排出されています。ウイルスは乾燥すると空気中に漂い、これが口に入って感染することがありますので、便や嘔吐物を乾燥させないことも重要です。

感染したら、下痢止め薬の服用は禁物です。無理に下痢を止めるとウイルスが腸管内に溜まり、病気の回復を遅らせることがあります。

 

インフルエンザについて

2012年4月1日からインフルエンザを発症した際の学校の出席停止期間について「発症後5日を経過し、かつ解熱後2日間」に改められました。薬の効きが良くなり、熱が下がっても感染力が残ったまま登校することでウイルス感染が広がることを防ぐためです。潜伏期間は、通常1〜2日ほどであり、早くて24時間後、遅いと4~5日ほどして発症すると言われています。

高熱による発汗で脱水症状を起こさないよう水分補給が必要です。内服薬で有名なのはタミフルですが、最近では点滴や吸入器を使う薬も用いられます。

流行(飛沫感染)を防ぐため、マスを着用や咳エチケットを。また、ドアノブなどからの感染を避けるため、石けんを使ったこまめに手洗いや、アルコール消毒を。

熱が下がって大丈夫だと思っても5日間ほどはウイルスの感染力が残っており、ほかの人にうつしてしまうので外出は控えて下さい。

 

国内最大級の感染症と言われる肝炎。その原因のひとつに非加熱の血液製剤があり、C型肝炎の感染者を広げてしまいました。メディアでも大きく取り上げられたこの薬害事件は記憶に新しいところですが、その渦中、自身も被害者である福田衣里子さんは実名を公表し、薬害肝炎九州原告団の代表として活動を続けてこられました。10月6日に開催された第4回感染症予防週間での講演では、薬害肝炎被害者としてのご自身の経験とともに社会や政治のあり方まで、まっすぐに熱い思いをお話頂きました。
C型肝炎ウイルス感染を知る

私の母は血液型はアールエイチマイナスで、私はプラスです。ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、血液型がこの組み合わせですと抗体反応が出ることがあり、私は生まれてすぐに血液交換をしました。その際に血が止まらないということで止血のために血液製剤クリスマシンが使われました。

そのとき父は「死ぬかも知れない。 あきらめていて下さい」と言われていたそうですが、3日3晩看護師さん、お医者さんが看病をして下さって、こ うして今、生きています。そのときにはまさか肝炎になるとは誰も思いませんでした。やんちゃで元気に幼少期を過ごしました。高校、大学と進み20歳のときにたまたま新聞で血液製剤の納入病院名リストを母が見て検査を受けることになり、C型肝炎ウイルスに感染していたことが分かりました。

2000年の段階です。肝炎というのがどういう病気かもその頃は知りませんでした。治療すれば治るらしい、というくらいに受け止めていたのですが、そのうちに放っておくと肝硬変や肝がんになることを知って、はじめて事態の重大さに気づいたわけです。

治療をはじめたら入院しなけらばならないかもしれないし、学校をやめることになるかもしれない。結婚はできるのか。相手の両親は祝福してくれるだろうか。出産は。自分のせいで子供に感染したらどうしようか。そういうことばかりを考える毎日になってしまいました。

インターフェロン治療

22歳の時に入院して、インターフェロンを週に3回ずつ注射する治療が始まりました。そのときは完治する可能性は17%と言われました。いろいろな副作用に苦しみました。
 頭髪が大量に抜けたり、発熱や全身の倦怠感、に加え、唾液が出なくなりました。口の中が乾燥して、食事の度に痛くて死にそうになる。つらい治療でした。これを乗り越えれば、皆と同じになれると思い頑張ったのですが、そのときは治りませんでした。

 

薬害裁判との出会い

治っていたら行かなかったと思うのですが、2003年に行なわれた医療講演会を、たまたま聞きに行く機会がありました。そのとき弁護士の方がいて、薬害と一緒に闘わないかと言われたました。裁判なんてこわいし、嫌だなと思ったんですが、たくさんの人が肝炎患者の恒久対策、薬品責任を明確にするために頑張っていることを知りました。それまではただ生きているだけの毎日で、何も社会の役にも立っていない。親の負担になっているだけなんじゃないか、と思っていたので、こんな自分も社会の役に立てるかもしれないと、親にも相談せずに、じゃあ加わりますと言ったのが、裁判に参加するきっかけでした。
 肝炎になったのも、それまでの私は運が悪かったのだ、と思っていたのですが、その後、そうではないんだ。これは社会の問題だったんだと気づくことになりました。
 肝炎だというと結婚が破談になったりすることがあり、それまでの裁判は匿名で行われてきたのですが、私は何も悪いことはしていないし、差別されるような病気でもないと思っていましたので、名前を公表しました。C型肝炎は普通の生活では感染しないことなど正しい知識があれば、ちゃんと分かってもらえば、差別や偏見というのは減っていくと思ったのです。

薬害における国の責任

クリスマシンという薬は、もともとは先天性の血友病患者のために作られた血を止めるような役割の薬です。フィブリノゲンと同じ血液製剤の一つで、フィブリノゲンは1976年、十分な審査も経ないまま旧厚生省で非加熱のものが承認されました。1977年にはアメリカのFDA(日本の厚労省にあたる)が、この薬は危険であって、肝炎のリスクが高いということで
販売を禁止にしたのですが、日本ではその後も使い続けました。日本がアメリカの動向を知らないはずはなかったと思います。出産、出生児に産婦人科医院などで使われ続け、出産した人たちが肝炎に集団感染したんです。
 国が本当は医療を監視しなければいけないはずです。2007年には、厚生労働省が2002年に作成した418人のリストが放置されていたことが発覚しました。そのときの厚労省が症例リストに載っている人たちに肝炎の可能性を伝えず放置していたというものです。結局は自分さえ良ければいいという考えが薬害でも被害者を増やしたのだと思います。

薬害肝炎被害者の救済と「肝炎対策基本法」

私たちの思いは、原告として裁判で闘っている人たちだけでなく、すべての人を救済する法律をつくることでした。

いろいろな方にもご協力頂き、2008年に「薬害肝炎被害者救済特別措置法」ができました。2009年には私も政治の世界に入り、恒久対策として「肝炎対策基本法」をつくりました。肝炎は子どもを産んで20年くらいして子どもの学費が大変な時期に発症するため、「進学は諦めるから、お母さん、治療してほしい。自分のせい
で病気になったんだから」というお子さんの姿も見てきましたので、平成20年度からのB型・C型肝炎のインターフェロン治療に対する医療費助成の導入にも力をつくしました。月に10万円くらいの治療費がかかるため、それまで治療したくてもできなかった人たちが、月に1〜2万円で治療できるようになっています。

一方、B型肝炎でも訴訟が行われてきました。これは小さい頃に集団予防接種で注射器を換えずに連続接種したことが原因で感染したものです。5人の方が提訴し17年かかって2006年に最高裁で国の責任が確定しました。この問題も全国的な問題です。予防接種で感染した人たちは等しく救済する法律(B型肝炎特別措置法)をつくらせて頂きましたが、これも母子感染が多いのです。

B型肝炎は小さい頃に感染し大人になって発症すると言われています。家族に誰もB型肝炎がいないのに自分が感染している場合は予防接種からという確率が高くなってきます。

ただ、つけ加えておきますと、これまではB型肝炎は大人になって感染しても発症しないと言われてきたのですが、最近では別の欧米型のタイプで、大人になって感染しても発症するジェノタイプA型というものが増えています。

肝炎の予防に向けて

こうした病気については自分だけは大丈夫だと根拠のない自信を誰もが持ちがちなんですね。肝炎ウイルスの検査は無料でできるのになかなか検査が普及しないという現実があります。検査率は12〜13%です。

病気になってはじめて分かるのですが、若いと病気なんて、ましてや死ぬなんて遠い先のことに思うかもしれませんが、自分だけの命ではありませんから、一人ひとりが予防、検診を心がけてほしいと思います。自分だけの命ではありません。予防、検診を心がけてほしいと思います。

胃がんにつながるピロリ菌。肝臓がんにつながるB型及びC型肝炎ウイルス。そして、子宮頸がんの原因となるHPV。このような菌やウイルスによる感染が発症の原因となるがんは、感染を予防・治療することが非常に効果的ながん対策となります。
■1次予防

まずは、感染を防ぐための1次予防が大切です。これには、どのようにして菌やウイルスに感染するのかという、性交渉やスキンシップ、そして、血液感染に対する正しい知識・認識が必要です。

1次予防ではワクチンの接種も重要な要因になります。しかし残念ながら、ピロリ菌やC型肝炎ウイルスに関するワクチンは、まだ基礎研究の段階です。がんにつながる感染症に効果的なワクチンの実現が待たれるところです。

■2次予防
そしてもう一つ大切なのが、検診による2次予防です。

日本では、欧米に比べて、感染症によるがんの検診だけでなく、その他のがん検診を含めて、検診率の低さが懸念されています。感染症のがんは、菌・ウイルスのキャリアであることが分かった時点で治療を開始すると、とても効果的な治療を受けられます。感染症ががん化する前こそ、検診を受ける最適なタイミングなのです。

厚生労働省によると、我が国における肝炎の持続感染者は、B型が110万人~140万人、C型が190万人~230万人で、合計350万人を超えると推定され、国内最大級の感染症といわれています。

また肝がんで死亡する方は年間3~4万人にのぼり、このうち肝炎ウイルスに起因する肝がんの死亡者は全体の8割以上を占めていると言われています。

肝がんは全がんの中で11.6%を占め、男性は肺がん胃がんに次いで第3位、女性は4位で年々増え続けています。

肝臓は、それ自身に病気があっても痛みを感じることがなく、自覚症状(体がだるい、黄疸等の症状)が現れないため、「沈黙の臓器」と言われています。

このため、感染に気付かずに、適切な時期に治療を受ける機会がないまま、肝硬変や肝がんなどの重篤な病気に進行してしまうことから、早期発見、早期治療の重要性が指摘されています。

 

C型肝炎と肝がん

C型肝炎は、C型肝炎ウイルスによっておこる肝臓の病気です。C型肝炎ウイルスに感染すると、約70%の人がC型肝炎ウイルスキャリアとなり放置すると本人が気づかないうちに、慢性肝炎、肝硬変、肝がんへと進展する場合があるので、注意が必要です。

しかし、B型・C型肝炎ウイルスに感染したから、あるいは慢性肝炎を発症したからといって、必ず肝がんになる、ということではありません。感染が発覚したら、飲酒を控える、ストレスと溜めないようにするなど、肝臓に負担をかけない生活を心がけましょう。そうすれば、予防も可能です。そして、定期検診を欠かさずに受けるようにしましょう。

 

これまで肝炎ウイルス検査を受けたことのない方はこの機会にぜひ肝炎ウイルス検査を受けましょう!

 

検査は市町村健康増進事業での総合健診(※詳細は各市町村にお問い合わせ下さい)や職場の生活習慣病予防検診等で受験できるほか、県内各保健所及び県が委託している指定医療機関においては無料で検査を受けることができます。