広報誌 南東北

 

循環器疾患の話 ~我々の取り組み~

動脈硬化の予防が一生を左右 大動脈瘤は破れないうち治療

 病院で「循環器科」を目にします。循環器系とは血液を全身に循環させるシステムで血液を送り出す心臓や血液の通り道の血管などをいい、障害が起きると脳卒中などの大きな原因となります。2月13日に総合南東北病院で開かれた医学健康講座で緑川博文心臓血管外科長が「循環器疾患の話~我々の取り組み」と題して講演した内容を要約し予防策などを探ります。
 日本人の三大死因はがん、心臓病、肺炎。長年、三大死因だった脳卒中(脳梗塞や脳出血)は4位になったが、2位心疾患と4位脳血管疾患を合わせるとがんとほぼ同数です。大部分が動脈硬化に起因します。人が老いるのは血管が老い、動脈硬化になること。だから動脈硬化を予防し治療することがよりよい人生を送るうえで最も重要なわけです。
 患者さんの望みは「切らない、痛くない、入院が短い」治療。優しい医療とは、高齢や合併症などの理由で治療困難だった人にも行える安全な治療法です。当院はベッド数461床、常勤医師120人、手術件数は県内一の7000件超。心臓外科医8人で昨年手術した360例は東北ベスト5に入ります。5例亡くなったのが残念ですが、失敗例は通常3~5%といわれます。当院は1・3%。今後も死亡ゼロを目指します。最先端医療を導入しているが、大事なことは進歩です。当心臓血管外科チームは①他施設でやれない疾患、断られた患者の受け入れ②リスクの高い疾患を負担が少なく、より安全に治療する③アカデミック④時代を担う若い医師の育成―が担うべき責務と考えています。
 動脈硬化の危険因子は高血圧、脂質異常症、喫煙、糖尿病、肥満で脳卒中などにつながります。こぶし大の心臓は全身の10%の血液を使い1日10万回動く。動脈硬化が起き心筋に栄養を送る冠動脈が狭くなったり、一時的に酸素不足になるのが狭心症、血液の供給減や途絶えて壊死するのが心筋梗塞です。狭心症の発作は数分で治るが、この段階で検査・治療しないと心筋梗塞につながる。心電図・胸部X線・血液検査のほか外来のCTなどでも検査できます。
 虚血性心疾患の治療は①薬物療法②カテーテル治療(PTCA)③冠動脈バイパス術(CABG)―などで、心臓を動かしたままステント植込み術などのPTCAが主流。心筋は6時間以内なら回復可能なので我慢せず即受診です。
 最近、足の閉塞性動脈硬化症も増えています。詰まる原因は心臓と同じで男が多く糖尿病の人は4倍、喫煙は3倍リスクが高い。血管障害による間欠性跛行などの人は8割整形外科に行き、我々のところに来る頃には足の先が真っ黒で腐って重症虚血肢となり切断という例もあります。下肢の冷感やしびれ、間欠性跛行が現れたら循環器科を受診です。治療は心臓の手術と全く同じ。運動・薬物による保存療法、カテーテルを使って血流を改善する血管内手術や人工血管を使う外科手術などの血行再建術があります。当院にはバイパスとカテーテルを同時に治療できるアジア初のハイブリッド血管造影装置が2台あります。2回の手術が1度にでき、治療費も半分で済む優れものです。
 大動脈瘤は血管が膨れ、破れると死にます。がんと違って血管が膨れても9割は症状がなく、検診やCT検査で発見されるのがほとんどです。破れたら50~90%は助からない。1度膨れると元に戻らず、予防できないのが大動脈瘤の恐ろしいところです。お腹の大動脈の太さは約2㎝。こぶが4㎝以下なら破裂しませんが、5~6㎝は100人のうち3~15人、8㎝以上は30~50人は破裂するので4㎝以上は手術を考えます。
 大動脈瘤になる危険因子は高血圧、慢性閉塞性肺疾患、虚血性心疾患、喫煙など。理由は分かっていないが女性は男性の3倍確率が高い。血縁者に頭や腹部の大動脈瘤の人がいれば検診を受けるべき。いずれにしろ破れないうちの治療が肝心です。腹部でも開腹せずカテーテルを使ってステントグラフトを血管内に留置する術が30分ぐらいで可能です。心臓血管外科は腕のいい脳外科医のように1人ではできないし、多くの人の手が必要なチーム医療です。
 日本人は世界で最も長寿だが世界一健康でしょうか。医学の進歩で寿命が延びましたが、健康に生きることが大切です。健康寿命を延ばすキーワードは①沖縄の「なんくるないさ」は「なんとかなるさ」の意味だが、心のゆとりが大切②足腰が弱らない運動③適切な栄養摂取④やりがいや楽しみ―など。70歳以上でやりがいや楽しみがある人は、ない人より3倍長生きするといいます。見た目年齢が若い人は動脈硬化も少ない。夢や希望、理想がなくなると老いが早いようです。故ネルソンマンデラ南アフリカ大統領は「楽観的であることは顔を常に太陽に向け足を常に前に踏み出すこと」「勇者はなにも恐れない人間ではなく、恐れを克服する人間のことだ」と語っています。目の前の患者さんに向き合っている我々医師は悪くなった症状を治してやっているだけです。皆さんの日々の健康への努力こそ大切。「健康に勝る宝なし」です。


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