広報誌 南東北

 

難治がんに立ち向かう

開発進む分子標的薬 期待大きい新放射線治療

 日本人の3人に1人はがんで死亡し21世紀は“がんとの闘い”といわれます。医療技術や抗がん剤開発が進んでもまだまだ課題はあります。3月13日㈭に総合南東北病院で開かれた医学健康講座で宮元秀昭呼吸器疾患研究所長・緩和ケア委員長が「難治がんに立ち向かう」と題して講演した内容を要約して難治がんへの取り組みを探ります。
 難治がんは①転移力が極めて高く、早く全身へ伝播②周囲に広がり過ぎて手術で取りきれない③危険な場所に発生し手術が困難④放射線や抗がん剤が効かない⑤治療すると逆に寿命を縮める―などの治りにくいがん。肝臓・胆道・膵臓・食道・卵巣・肺がん、メラノーマ、悪性リンパ、脳腫瘍、原発不明がん―が10大難治がんです。消化器系は難しく、卵巣がんは子宮がんより治りにくく、メラノーマ(皮膚・ほくろ)は触ると転移しやすく、悪性リンパはどこに転移するか分からないという具合。肝臓・肺がんの5年生存率は男子が2割未満、女子は約20%。乳がんは80%超で長生きできるがんです。
 診断にはがん細胞の目安となる物質の腫瘍マーカーが使われます。肺がんではCEA、SLX、SCC抗原など6種類。大部分はⅢ・Ⅳ期の進行がんになり現れるので「腫瘍マーカーが上がった」と言われたら大変と思った方がいい。検査技術はこの10年で1㌢間隔だった胸部CT検査は現在5㍉間隔に向上しています。胸腔鏡下生検のほか転移はPETや頭部MRIで見つけられます。がんの病期はⅠ~Ⅳ期に分け進行度合で治療法を決めます。Ⅰ期は早期で手術が可能、Ⅳ期は遠隔転移あり。難治がんはⅢ・Ⅳ期のことを指し、肺がん患者の約4割、膵がんの6割がⅣ期で見つかります。
 難治がん治療はまず禁煙。たばこは、予後に悪いため禁煙が始まりです。そして手術・抗がん剤・放射線治療。がんセンターでやっている、身体への負担が大きい、すべて専門医任せ―が共通点です。
 昔はがん切除重視だったが、今は医療機器や技術の進歩で患者さんのQOL重視の手術。手術できる難治がんは10%程度。再発の可能性もあり別の治療法も考えておくべきだが、とにかくあきらめないこと。日本の手術後5年生存率は9年前のⅠ期79・5%が3年前に85・9%、Ⅳ期でも20%から27・8%に向上し国際報告を上回る成績です。
化学療法は専門家による効果的な治療に移行。10年前抗がん剤が効く確率は30%未満、しかも副作用が出る確率は80%でした。それががんの生検材料を使って様々な情報が得られ、組織型や遺伝子変異の違いで抗がん薬を使い分ける個別化医療も標準的になりました。生存率も向上、副作用の少ない抗がん剤も使われています。がん遺伝子が作った分子を標的にした分子標的薬が10年前から新しい抗がん剤として開発が進められ、肺がんではアバスチンやイレッサ、タルセバなどが使われています。日本発のクリゾチニブは韓国人が反応早く飛びつき臨床試験開始。日本ではザーコリ、アレクチニブなどが認可されています。肺線がんの4%、女性や非喫煙者に効くといわれます。
 米国ではがん患者の66%、ドイツは60%が放射線治療を受けているが、日本は9年前に25%、来年40%に達すると予測されます。ただ放射線療法はコンピューターを用いた治療装置の開発で標的病巣に高精度の照射が可能となり、この10年間で大いに進みました。X線を使った定位放射線照射(STI)と強度変調放射線(IMRT)治療のほか注目は粒子線治療。陽子線と炭素線があり、どちらもピンポイントでがんを攻撃する破壊力と正常組織の温存に優れています。特に陽子線は副作用が少なく安全。STIと粒子線治療ではⅠ期早期肺がんで手術と同等。Ⅲ期進行がんでは放射線と化学療法併用で外科療法と同等の生存率が得られています。
 3大治療のほか「代替医療」もあります。NK細胞療法やがんワクチン療法などの免疫細胞療法と温熱療法、代替治療。
温熱療法はがん細胞が熱に弱い(43度)のを利用し放射線や抗がん剤の効果を強めることを目的に併用。脳腫瘍や食道がん、乳がん、膀胱がん、肉腫などに有効といわれます。ラドン温泉はオーストリアやドイツでは放射線を浴びる医療行為。直接治癒ではないが温泉もバカにしたものではないようです。ホルミシス効果の期待もあります。また大豆イソフラボンは受容体を邪魔してがんになるのを防ぎます。昆布・ワカメなど天然もののフコダインはがん細胞に自滅作用を起こさせます。ただサプリメントはがんに対し無効です。
 がん末期に行われていた日本の緩和ケアは、2012年の新対がん5カ年計画でガラっと変わりました。がんと診断された時から患者と家族の苦痛を予防し緩和ケアがいつでもどこでも受けられるようになりました。QOLが向上し予後も好影響を与え、長生きできます。病院医療から在宅医療が新しい目標になってきました。これからは在宅緩和ケアの時代といえます。
 当院では今、BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)研究センターを建設中です。再発・進行がんに効果あるがん治療で一回の照射で済みます。病院施設で行うのは世界初。このセンターを中心に都市が広がる東北で二番目の国際がんセンター構想も進んでいます。


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