広報誌 南東北

 

頭の中の腫瘍は130種 3分の2は良性腫瘍

早期治療で完治も ぜひ脳の健康診断受けて

 脳腫瘍は1万人に1人の発生率です。病名を聞いただけで怖い病気をイメージするかもしれませんが、きちんと治療すれば完治する可能性の高い病気です。12月18日⑤に総合南東北病院で開かれた医学健康講座で同病院副院長の後藤博美脳腫瘍診療部長が「脳腫瘍ってどんな腫瘍?」と題して講演した内容を要約し脳腫瘍の知識を学びます。
 脳腫瘍は、脳そのものだけでなく頭蓋骨内にできた腫瘍全てをいう。胃がんなどと違い1つではなく130種類もある。頭は頭蓋骨の下に硬膜とクモ膜があり、その下を血管が走り、その中が脳。大別して大脳と小脳、脳幹部に分かれ、脳の下の方にホルモンを抽出する下垂体がある。
 脳を支える細胞には神経のネットワークを作り情報の伝達や処理をする神経細胞、その神経細胞を守ったり栄養補給をするグリア細胞がある。大脳の神経細胞は140億個、グリア細胞は1兆個くらい。脳の中で情報をやり取りする最小単位がニューロン。1つの神経細胞から軸索と複雑に枝分かれした樹状突起が出て別の神経細胞と繋がって複雑な神経回路網を形成している。神経細胞と神経細胞との末端の接合部がシナプスで、ここで神経伝達物質が次の神経細胞に情報を伝達する。手足を動かす神経細胞の軸索は脊髄まで1本でつながっているが、ここで出血したり、切れたりすると半身麻痺が起きる。
 紛らわしいが中枢神経は大脳と脊髄、末梢神経は脊髄と脳神経。脳神経には嗅・視・三叉・顔面など十二対あり、いずれも末梢神経でここにできたのも脳腫瘍だ。末梢神経を含め脳の中にできたのが原発性脳腫瘍、他の臓器から飛んできたのが転移性脳腫瘍。転移性は年齢が高い。子供に白血病が多いが原発性脳腫瘍も多く、年齢分布が広い。
 原発性脳腫瘍のうち脳の中にできた代表的な腫瘍は神経膠腫(グリオーマ)や悪性リンパ腫、子どもに多い胚細胞腫などで大半が悪性。一方、脳の外にできた代表的な腫瘍は髄膜腫や下垂体腺腫、神経鞘腫などで、ほとんどが良性。ざっと分けて脳実質の中にできたのは悪性、外にできたのは良性腫瘍だ。悪性腫瘍は手術だけでは治らないので放射線や抗がん剤治療を合わせて行う。良性腫瘍の場合は腫瘍を取れば治る。大きくしないようにガンマナイフなどを組み合わせて治療もできる。
 発生頻度は人口10万人に約10人。万が一の病気と覚えればいい。発生原因は不明。神経線維腫症や結節硬化症などの遺伝性腫瘍もあるが、それ以上のことは分からない。
 症状は脳腫瘍が周りの脳を圧迫して麻痺や言語・視野障害などを起こす局所症状、けいれん(テンカン)発作などの刺激症状。それに頭痛や嘔吐、視力障害などの頭蓋内圧亢進症状がある。局所症状では脳の真ん中にある中心溝の前の運動野、後ろの体性感覚野をやられると麻痺やしびれを起こす。左脳のブローカ野は言葉が思うように出なくなる。側頭部の後方のウェルニッケ野だと意味不明なことを言うようになる。後頭葉の視覚野では左部分がやられれば右、右部分なら左の視野が欠ける。小脳だと歩行障害や手足の震えなどが起きる。
 悪性腫瘍では進行が早く月単位、良性では年単位で徐々に悪くなる。トイレなどに行ってある日突然症状が起きる脳卒中などと違い徐々に起こるのが脳腫瘍だ。脳腫瘍による頭痛の特徴は①クモ膜下のような激しい痛みと違って鈍痛②間歇的③起床時に強い。夜頭痛で目覚める④かがんだり、きばったり、咳をすると脳内圧が高まり増悪する⑤嘔気・嘔吐を伴う―などだ。
 診断はCTやMRI、PET検査などを行い画像診断する。診断では①膿や出血、腫瘍性病変かどうか②腫瘍は脳の中か外か③悪性か良性か。悪性なら神経膠腫・悪性リンパ腫・転移性脳腫瘍のいずれか④治療が必要か⑤安全に手術できるか―などを判断する。PET検査ではブドウ糖とたんぱく質を使い腫瘍がどこにあるか、機能性MRIでは、しり取りや絵を見てもらいどこの脳が働いているか、血流はどうか―などを診る。脳にたくさん腫瘍がある場合は他から飛んできた転移性が多い。
 治療で注目されるのがBNCT、ホウ素中性子捕捉療法だ。当院では国の補助を受け3年前から南東北BNCT研究センターの建設に乗り出し昨年秋に建物が完成、今年夏から治験を開始する予定。エネルギーの低い中性子とがん細胞・組織に集積するホウ素化合物の反応を利用し、がん細胞だけを破壊、周りには放射線がかからず正常な細胞は残る放射線がん治療だ。従来は原子炉で中性子を発生させたが、原子炉に代わりサイクロトロンという加速器を使って発生させる世界の病院で初めての装置だ。悪性の神経膠腫や髄膜腫などの治療には大いに期待できる。
 まとめると脳腫瘍は1つではなく130種もある。幸いにして3分の2は良性腫瘍だ。ガンマナイフやサイバーナイフ、それにプロトン治療、抗がん剤や期待されるBNCTなど新しい放射線治療の組み合わせでかなり治ってきている。あきらめないこと、そしてきちんとした診断を受けること。体だけでなく脳の健康も見直し診断を受けてはいかがでしょうか。厄年の人は「躍」の年にしてほしい。

トップページへ戻る