広報誌 南東北

 

深部にピーク、"狙い打ち" 負担少なく、切らずにがん破壊

陽子線治療を用いた放射線治療 頭頸部・前立腺・食道がんなど塊状の腫瘍に威力発揮

 2人に1人が罹患し年間30万人以上が死亡するがん。不治の病といわれたが、近年は早期発見・治療で治る時代を迎えています。体に負担の少ない治療はないか。1月15日⑤に総合南東北病院で開かれた医学健康講座で菊池泰裕南東北がん陽子線治療センター長が「陽子線を用いた放射線治療」と題して講演した内容を要約し現状を探ります。
 日本人の主な死因は脳血管疾患や心疾患が減り、1位のがんが増え続けている。がんの治療には手術、化学療法、放射線治療がある。手術は腫瘍を除くのでうまくいけば治癒できる。抗がん剤の化学療法は体の負担が大きいが全身に効果がある。放射線治療は手術より体の負担が少なく腫瘍局所を治療できる。放射線治療は19世紀にスウェーデンで鼻にできた皮膚がんをX線で治療したのが始まりで役割も確立されている。欧米ではがん患者の6割が放射線で治療しているが、日本はまだ2割強で非常に遅れている。
 当院には放射線治療にリニアック、高線量率小線源治療施設、全国で55施設にあるガンマナイフ、8カ所にしかない陽子線、それに病院で世界初のサイクロトロンを用いたBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)などが揃っている。
 がん治療に使う放射線は大別して電磁波と粒子線、簡単にいうと光と粒だ。電磁波は光子線と呼ばれる光の波でX・γ線など、粒子線は水素や炭素の原子核など粒子を利用した放射線で電子・陽子・炭素線・中性子などがある。
 放射線でなぜがん細胞が死ぬのか。二重螺旋の形をした遺伝子が細胞分裂を制御している。そこに放射線が当たるとがん細胞のDNAを傷つけ、鎖を切り遺伝子が壊れて細胞分裂できなくなる。放射線は切る役目。一般的に1Gy(グレイ)の照射で1個の細胞内のDNA250本を切断する効果があるというが、1Gyではがん細胞を切れない。最低でも20~70 Gy当てないとダメだ。
 放射線治療は①機能・形態の温存②どの部位でも治療可能③手術不能例にも照射できる④外来通院でも治療可能―が長所。逆に①確実性に劣る②放射線障害がある―が欠点。放射線治療の歴史はいかに障害を減らし確実性を高めるかだった。当初は1方向から、それが2方向、更に数の多い多門へと発達、放射線を強く照射できるようになった。
 普通のX線治療にはリニアックを使うが、最新装置はIMRT(強度変調放射線治療)でコンピュータ制御により複雑な形の腫瘍にも集中性の高い、陽子線に近い線量分布で照射できる。ただ頭や首など動かない所に限られる。治療計画や精度管理に時間がかかり照射まで2週間かかるのも難点。高価で県内では当院や福島医大、寿泉堂、北福島医療センターにしかない。
 このほか定位放射線手術(ラジオサージャリー)として約200本のガンマ線を一度に集中させて当てるガンマナイフ、ロボットを使っていろんな方向からX線を照射するサイバーナイフがある。ガンマナイフは脳の治療だけだが、サイバーナイフは脳のほか脊椎や肺、前立腺などの治療も可能だ。当院グループでは新百合ヶ丘総合病院にある。
 陽子線治療の陽子は水素原子から電子を取った粒子(イオン)で加速器を使って高エネルギーまで加速すると光速の70%、1秒間に地球6周するほど透過力の大きい電離放射線、陽子線になる。粒子線は、ある深さで線量が最大になるブラックピークの特性がある。腫瘍に合わせ強く照射すると、その先に放射線が届かず正常細胞の損傷は低く抑えられる。陽子線治療の適応は頭蓋底腫瘍や頭頸部・Ⅰ期の肺・肝臓・食道・前立腺がん、直腸の局所再発、骨軟部・転移性腫瘍など。照射量は60~80 Gy。当初1個の治癒が目標だったが、肝・リンパ節転移など多発、症状緩和や延命につながる症例、X線で難しい悪性黒色腫や腺様嚢胞がんなどにも有効だ。ただ脳や十二指腸などは放射線が強いため敏感で副作用が出やすい。
 今後の展開は放射線と薬物療法を組み合わせたホウ素中性子捕捉療法・BNCTだ。がん細胞に集中するホウ素化合物を予め注射、そこに中性子を当てると正常な細胞を傷つけずにがん細胞1個だけを破壊できる。薬の開発によっては更に効果が高まると期待される。問題は中性子線が届くのは6㎝ぐらい、深いところまで届かないこと。正常組織に浸み込むように広がる腫瘍は普通の放射線では難しいが、中性子は難しい病気に効き再発にも有効だといわれる。陽子線は、がんの塊に強く照射できる。放射線治療は局所的で照射部に効くが周囲から再発もある。このため転移の有無や抗がん剤の効果、体調などを考慮し患者さんにとって最善の治療法を考える。


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