広報誌 南東北

 

狭心症のおはなし

動脈硬化リスク高い肥満・糖尿病 血圧・血糖値は低いほどいい

まず生活習慣の改善 減塩・野菜摂取・禁煙・適度な運動
 高齢人口の増加とともに増えている狭心症や心筋梗塞などの虚血性心臓疾患。がんに次いで2番目に多く3大死因に数えられています。 12月17日(木)に総合南東北病院で開かれた医学健康講座で同病院の小野正博心臓・循環器センター副センター長(循環器内科)が「狭心症のおはなし」と題して講演した内容を要約、治療法や予防法を学びます。
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 日本の死因別死亡率1位はがんで全体の3分の1を占め、かつて1位だった脳血管疾患は昭和40年代から減り始め現在は横ばいで4位。これに代わってジワジワ増えてきたのが2位の心疾患です。 世界的に見ると冠動脈疾患死亡率(10万人対)上位は東欧、北欧、北米、西欧の順で日本は男女とも最下位です。欧州人が心臓病に罹患しやすいのは、食生活によると見られる中で仏だけが下位にあり「フレンチパラドックス」と呼ばれます。 ポリフェノールが多い赤ワインをよく飲み、体の酸化を防いでいるからといわれます。国内で心疾患が増えている日本が世界で最も心臓病が少ないのは、和食の影響ではないかともいわれます。 総コレステロール値は日本に住む日本人よりハワイ、それよりカリフォルニア州在住の日系人の方が高く心疾患死亡の割合もこれに比例しており、人種ではなく食生活など生活習慣によることを示しています。
 沖縄県の平均寿命は女性が今でも全国1位ですが、男性は平成12年に1桁台から一挙に26位に転落、心臓病死が増え〝26ショック〟と呼ばれました。戦後米軍の進駐で食生活がいち早く欧米化した影響と見られます。 日本人のエネルギー摂取は米国とほぼ同じ2000kcalですが、2000年までの40年間でブドウ糖が7割減、蛋白質が微増、脂質が3.7倍に増加。平均コレステロール値も米国が40年間で200mg/dL前後に減少したのとは逆に日本は180から200に上昇、 特に女性の増加が顕著です。食生活の欧米化によって心疾患が増えた13年前の沖縄と同じことが今後数年で日本全国に広がると危惧されています。
 冠動脈は心臓の筋肉に酸素や栄養分などを供給する血管で3本あります。直径3mmほどだが、詰まると命を左右する血管です。この冠動脈の内壁に動脈硬化・攣縮などによって血管が狭くなり十分に血液が送られず、 酸素が不足し一時的な痛みを生じるのが狭心症。血栓などで冠動脈の血流が完全に途絶、その先の心筋が壊死する状態が心筋梗塞です。男性の62%、女性の46%は初発の冠動脈疾患が心筋梗塞か突然死との報告もありますが、 予測は難しく現実は前兆なしに突然やってきます。
 狭心症の症状・痛みに個人差があるが、胸が締めつけられる・押さえつけられるような痛みのほかに、みぞおちや左肩・あご・喉の痛み、動悸・めまい・呼吸困難が現れることもあります。 通常5~10分で治まるが、冷や汗をかいたような時は狭心症の可能性が高いので早急に受診した方がいい。心臓カテーテル検査を受け、経皮的冠動脈ステント留置術を受ければ天寿を全うするまで大丈夫です。 狭心症かどうかは最終的にカテーテル検査ではっきりします。発症から90分以内に元の状態に戻すのが我々の目標です。
 このカテーテル検査も15~20年前は大腿部の付け根から心臓までカテーテルを入れていたが、今は手首の橈骨から入れるのが主流です。断層撮影検査や診断も進歩、X線検出器を64列配置したMDCTは1回転で64枚、 心臓全体では250枚ほどの冠動脈画像が撮れ、カテーテルしなくても診断できます。5~6年後にはもっとクリアな画像診断ができると思います。
 カテーテル検査すればすぐに治療が可能です。治療は風船で血管を広げていたのに代わり金属を用いた経皮的冠動脈ステント留置術が登場。 ただ15~20%は1年以内に網の隙間を塗って再狭窄が起きる症例が多かったことから10年ほど前に金属に抗がん剤を塗った薬剤溶出ステントが開発されました。半永久的で再狭窄が激減、9割以上がこれを使っています。 問題は体内に金属が残っていることですが、一定期間後にステントに代わり〝足場〟が溶けてなくなる生体吸収性スキャホールド(BRS)が今年中に登場するかもしれません。
 動脈硬化の原因は、第1は誰にも避けられない加齢、2番目が家族歴で男性がなりやすく女性は閉経後に多い。3番目は生活習慣で高血圧や糖尿病、肥満、喫煙者は動脈硬化が起こりやすい。 改善できるのはこの生活習慣だけです。血圧や血糖値、コレステロールが高ければ冠動脈疾患のリスクは高く、血圧も血糖値も低ければ低い方がいい。
 生活習慣を改善するには①減塩②野菜・果物・魚の積極的摂取③減量(BMI25未満)④適度な運動⑤節酒⑥禁煙―です。減塩6gは米国の主張です。和食がいいのに焼き魚に味噌汁の日本では10g前後でもいいと思います。
 冠動脈疾患を予防するには①リスクの自覚②禁煙③冠動脈評価④適切な薬物介入―です。きちんとした生活習慣を10~20年守り、続けられるかどうかです。適切な薬の服用はいいと思います。

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