広報誌 南東北

 

脳卒中後の手足のつっぱりに対する治療 ~ボツリヌス毒素を用いた治療~

注射で筋肉の弛緩実感 リハビリ併用で高まる効果


日常生活が楽になる選択肢 カギは目標設定とリハビリ意欲
 脳卒中は、正式には「脳血管障害」といい、脳の血管に障害が起き脳の一部組織が死んでしまう病気の総称です。脳梗塞、脳出血、くも膜下出血が代表的な病気で後遺症が残り、要介護になる原因のトップです。 3月22日(火)に総合南東北病院で開かれた医学健康講座で同病院の久保仁神経内科長が「脳卒中後の手足のつっぱりに対する治療~ボツリヌス毒素を用いた治療」と題して講演した内容を要約して治療法を学びます。
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 日本人の死因1位はがん、2位が心疾患、3位が脳卒中ですが、脳卒中は介護が必要な1位。2位が認知症、次いで年齢的なものや整形外科的な骨折などの病気です。 脳卒中は他の病気と異なり一命をとり止めても身体マヒや言語障害、判断・記憶力低下などかなり後遺症が残るからです。
 その後遺症でよく見られる運動障害は「片マヒ」と「痙縮」です。マヒは障害を受けた部分の反対側の手足に起こり、歩きづらい、転びやすい、字がうまく書けなくなったりします。 マヒというと力が入らず手足が〝だらーん〟としたイメージですが、脳卒中のマヒはつっぱりが強くなります。筋肉が緊張し過ぎてしまう痙縮状態で手足がこわばったり、つっぱったり、大半が片マヒと同じ側の手足に現れます。 具体的には手指が握ったままで開きにくい、肘が曲がったまま、足先が足の裏側の方に曲がる、膝が歩行中伸びたまま、歩いていると足の指が曲がり歩きにくい―など様々です。 しかし、つっぱりを軽くすると腕が振りやすくなります。
 痙縮の原因は脳血管障害のほかに脳性麻痺や頭部外傷、無酸素脳症、脊髄損傷などがありますが、つっぱりの頻度は欧米の脳血管障害調査では発症3か月後に19%、1年後に38%といわれます。 痙縮により身の回りのケアや衛生、着衣の妨げ、食事・座位、睡眠時の姿勢維持など介護時、動作時の問題が生じ着替えや入浴、料理といった日常生活に支障をきたします。 そうなる前、またならないために急性期(発症直後から数週間)に体の関節が固くなるのを防ぎ、筋力を維持するリハビリが大切です。 一昔前は「急性期の脳卒中は動かすな」でしたが、最近は軽度な脳卒中のうちから積極的にリハビリを重視しています。 回復期(数週間から数か月)には手すりを使って歩く訓練や着替えの練習などを行い、リハビリを続けながら日常生活の自立と社会復帰を目指します。
 痙縮の治療法は、脳組織やマヒを治すわけではなく、つっぱりを和らげること。痛み・つっぱり・痙攣の軽減、足の関節などを柔らかく、装具装着をしやすく、いわゆる〝固まる〟ことの予防、 介護人が苦労しないように、手指機能・歩行能力などを改善することです。まず内服薬。すごく効くわけではありませんが、全身の筋肉のつっぱりやこわばりを和らげます。 他には筋肉を緊張させている神経に注射して神経の伝達を遮断する神経ブロック療法、部分的に神経を切断・縮小する外科的療法、痙縮を和らげる薬の入ったポンプをお腹に埋め込み、薬を脊髄周辺に直接投与する療法などがあります。
 ボツリヌス療法は、食中毒の原因菌となるボツリヌス菌が作り出す天然のタンパク質を有効成分とする薬を筋肉内に注射する療法です。筋肉の神経の働きを抑え緊張を和らげる作用があります。 菌そのものを注射するわけではないので感染の危険性や心配はありません。世界80か国以上で広く利用されています。
 ボツリヌス療法の特徴は局所性の痙縮の治療に有効で、臨床上の効果は3~4か月程度持続します。注射が絶対効くとはいえないが、効果が得られた場合、必要に応じ反復投与でき、他の部位へ治療範囲を広げることも可能。 不可欠なのはリハビリです。筋肉の過度の脱力などの副作用が生じることもあります。この療法は一過性だが、着替えなどの日常生活動作が容易になる、 リハビリがしやすい、痛みが和らぐ、介護の負担が軽くなる―などが期待できます。
 治療の選択に際しては重症度、つっぱり・痙縮が部分的か全身か、併発の内科疾患や認知障害があるか、目標達成の見込み、家族や介護者のケア、治療による合併症のリスク―などを考慮するのが大切。 特に患者さんの希望、リハビリに対する意欲―は最も重要です。ボツリヌス毒素を用いた治療は、極端に改善をもたらす夢の治療ではないが、患者さんの満足度の高い治療です。 ただ、リハビリは必須で、リハビリなしでは薬の効果が限定的になります。通院のリハビリでも一定の効果があります。いずれにしてもボツリリヌス療法は、日常生活がしやすくなるのでつっぱり療法の大きな選択肢の一つです。


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