広報誌 南東北

 

骨折が治らないといわれたら

難治性骨折も治せる武器 イリザロフ法、チッピング、ヘキサポッド

夢は郡山にヘリ配備の外傷センター 半径50km、県内をほぼカバー
 難治性骨折や後遺障害の治療に体の再生能力を利用したイリザロフ法などを中心に機能再建を目指す治療が注目されています。 8月25日(木)に総合南東北病院で開かれた8月医学健康講座で同病院の松下隆外傷センター長が「骨折が治らないといわれたら」と題して講演した内容を要約し、治療法と同外傷センターが目指す将来像などを探ります。
 「この骨折は、もう治らない。諦めなさいといわれた」という話をよく聞くが、基本的に治らない骨折などありません。 骨折が治らないのは、折れた箇所がくっつかずにグラグラ動いている偽関節の状態。 繋がったものの曲がったり、捻じれたり、短くなってくっついた変形治癒で元通りに戻せないタイプ。 あとは感染。バイ菌が入り、膿が出て骨が繋がらない、繋がっても膿が止まらず年に何回か腫れたり痛くなったりする例。 骨折がちゃんと治らないのはこの3つのどれか、またはそれが組み合わさったものです。
 それを治す方法は、聞き慣れないだろうが、ロシアの整形外科医・イリザロフ先生が1950年に開発したイリザロフ法。 私が考案したチッピング(骨粉砕)法、そして6本足のヘキサポッド創外固定器を使った3つが、治らない骨折を治す強力な武器です。
 私は1988年にロンドンで初めてイリザロフ先生の講義を聞きました。 骨や筋肉、皮膚を毎日少しずつ引っ張って伸ばすと間に組織ができ、若い人だと1日に1mm(高齢者はその半分)の割で皮膚、筋肉、骨ができ長くなるという従来の常識を覆すような方法です。iPS細胞など生体工学では、無くなったものを体外で作る手法だが、イリザロフ法は、骨折が治るときのメカニズムを利用し体の中で骨を作る考えで日本には1990年ごろ伝わりました。
 チッピング法は野蛮と思われているが、ノミで骨を砕いて人工的に骨折を作りだす方法。 骨が繋がっていない所を中心に細かく砕くと、折れたところから骨を誘導する骨髄液が出てきて骨が繋がります。粉砕骨折を細かくすればそれだけ良い骨ができます。
 ヘキサポッドは創外固定器を使い、6本の足の長さを油圧で伸縮調整。 コンピュータ計算で1日1mmほど捻じったり、傾かせたりして6本の脚の長さを変えてやると、どんな変形でも指示通り治すことができ、最終的に骨を真っ直ぐにして、ちゃんと正座もできるようになります。
 感染性偽関節、骨髄炎を薬だけで治すのは無理。 がんも手術後に抗がん剤など化学療法により取り残し一掃を目指しますが、偽関節もがんと同じように基本は病巣を一塊にして切除すること。 そして取り残しを叩くために薬を使います。骨がなくなっても残った骨は正常なので時間を掛け、新しい骨を作り、伸ばして繋ぎ治せます。 それがイリザロフ法の素晴らしい所です。皆さんの周りに骨折が治らず困っている方に多少時間はかかる(2年ほど)が、100%とはいえないもののほぼ元通りに治せますので当外傷センター受診をお勧めください。
 日本の外傷の救急医療はダメといったが、ケガは病気でないのでどれだけ素早く、適切な治療をするかで生き死に、最終的な機能障害が決まります。 外科医の腕だけで決まる、外科医にとってやりがいのある部門です。そのためには最高の設備とスタッフが揃っている病院に30分以内に患者さんを運ぶことが大事。 とりあえず病院に運び込めばいいというのは間違いです。
 ドイツではヘリコプターで10分の半径50km内に1つ病院を全土に配置しています。 医師と看護師が乗り込み10分後に現場で救急処置し、すぐ連れ帰り30分以内に病院の手術室で本格的な治療を開始するシステムです。 日本では3年前の統計だが、救急車の搬送時間が一報から現場到着まで8.5分で着くものの病院に運び治療開始まで40分近くかかっています。 直接センターに運べば、この時間は短縮できます。外傷の治療目的は一刻も早い治療開始。 近くは救急車、遠くはヘリコプターを使い広い範囲の患者さんを「プラチナアワー」以内で治療を始めることが大切です。
 ドイツではヘリコプター拠点が80か所あり、1970年に2万人いた死者が、このシステムで1998年には3分の1、2010年には6分の1に減っています。 山間部が多いスイスは救急医療をセンター化し、航空救助隊を13か所に配備、15分でスタッフや設備の充実したセンターに搬送、ここに運べば最高の治療が受けられる体制をとっています。 アメリカは州によって格差はありますが、日本の8割の面積のイタリアも48か所にヘリコプターを置き山間部は20分、都市部は8分で治療開始できる体制です。
 日本は救急センターを数多く造る考えだが、医師が数人しかいないセンターでは機能しません。 設備が整い、どんな患者が運ばれても完璧な医療ができるセンターを半径50km以内に1つ造り、いかに短時間に運ぶことができるかを考えた方が医療全体から見てもいいと思う。
 理想的な外傷センターは人口200万人に1か所。192万人の福島県はピッタリで真ん中の郡山市は最適地。 そこにドイツ並みのセンターを造れば浜通りは少し遠いが、北も南も会津若松市も県内をほぼカバーできます。 死なずに済んだ人や後遺症が残った人などを限りなくゼロに近づけることができます。近い将来ぜひ実現したいと思います。


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