広報誌 南東北

 

腸内細菌叢と免疫・病気との関係

大腸は病気の発生源?肥満や心の病気とも関係

腸の善玉菌を大いに増やそう 食物繊維多めに、発酵食品を摂る
 人の腸内には1000種以上の細菌が住みつき、細菌の集まり(腸内細菌叢=そう)が健康や病気と深く関わっていることが次々と分かってきました。 9月16日(金)に総合南東北病院で開かれた9月医学健康講座で同病院の樋口健弥総合医療センター所長(総合診療科)が 「腸内細菌叢と免疫・病気との関係」と題して講演した内容を要約し日頃からの健康法などを学びます。
 毎日自分の大便の形や色を観察していますか。 黄色か黄褐色で太い、バナナのような便が理想的。 赤いのは腸、白は肝臓、黒は胃などに異常がある〝便り〟でダメです。 色や形、臭いを観察しましょう。
 人は加齢につれ病気になりやすく、老齢期には2人に1人はがんになると言われます。 逆に言うと2人に1人はがんにならないのです。 免疫力が低下するためですが、齢を重ねても免疫力低下の度合いが少ない人もいます。 腸が健康な人は病気知らずのようです。
 腸内細菌叢は、腸内フローラとも呼ばれ、1000種類以上の腸内細菌が600~1000兆個も生息。 人の細胞は60兆個なので10倍強の細菌が腸に住みつき、重さは全部で1.5㎏にもなります。
 腸内細菌叢は善玉菌と悪玉菌、どちらか多い方に加担する日和見菌に分けられます。 理想的なバランス比率は善玉2・日和見7・悪玉1。 善玉菌は加齢とともに減少、それによって様々な疾病が引き起こされます。 それだけ善玉菌を増やすこと、減少させないことが大事になってきます。
 母親の胎内の赤ちゃんは無菌状態だが、生まれる時は母親の腸内細菌、膣内細菌を受け継ぎ、そして母乳を飲み始めるとビフィズス菌が増えてきます。 腸内細菌叢は、母親のお産時の体調はじめ生活環境によっても変化します。
 無菌動物と腸内細菌がいる普通の動物を比べた場合、無菌動物の方が1.5倍長生きするそうです。 腸内細菌が我々の体の健康と病気をコントロールしているのです。
 大腸は病気の発生源といわれます。 実際には腸内細菌が作った有害物質(特にがん物質)が発がんを促進、あるいは細菌毒素が大腸に直接傷害を与え病気を起こします。 それらが粘膜や血流を介して全身を回り疾患に関係します。
 肥満は代謝エネルギーの過多と運動不足に加え腸内細菌が介在する、いわゆる肥満型菌の発見です。 食べても太らない人、水を飲んでも太る人の原因は、どちらも腸内の菌バランスが悪く、肥満型菌と痩せ型菌の比率が腸内環境を左右しているわけです。 太った女性の大便を母親に移植したら2年後に母親は肥満したとの報告例もあり、腸内細菌は大腸だけでなく全身疾患に関係あるということです。
 このように腸内細菌叢のバランスが崩れるとがん、糖尿病、メタボ、老化、うつ病、認知症などの病気を引き起こすことが分かってきました。
 大腸は栄養を吸収しきった食べカスの終着場で有害物質がいっぱい。 発がん物質も1つ。長く停滞していると腸から吸収され、がん発症の原因になります。 便秘はいけません。大腸がんだけでなく全身に悪影響を及ぼします。
 糖尿病は膵臓からインスリンというホルモンが分泌されなくなる病気。 過食や酒の飲み過ぎで発症し完治は難しいといわれてきたが、米国の実験である腸内細菌により分泌が4倍に増えることが分かりました。 腸内細菌叢に菌が増えれば糖尿病にかかりにくいわけです。 糖尿病の抑制には食物繊維を多く摂ること、ポリフェノールを含む果物などを摂るなど腸内環境を整える食生活改善が有効。 夕食時の炭水化物制限も効果的です。
 この他バランスの崩壊は精神状態に影響を及ぼすアドレナリンやドーパミン、セロトニンといった脳内物質の分泌に異常を来たし、うつや様々な疾患の原因になります。 セロトニンも腸内で作られ、血流を介して脳に行き作用するといわれます。 つまり日頃から便秘したり、下痢していては、セロトニンが上手に産生されず、うつ病にかかりやすくなります。 ドーパミンがなくなってくると認知症をはじめとするアルツハイマー病、パーキンソン病に関係。 ドーパミンが過剰になると統合失調症に関係してきます。
 体を守る免疫、ウイルスやがん細胞を攻撃する免疫細胞を作るのも腸。 小腸・大腸合わせて体の70%の免疫細胞が集中、小腸は「免疫の司令塔」ともいわれます。 小腸の免疫機能を正常に働かせるには大腸の善玉菌が不可欠です。 しかし善玉菌を代表するビフィズス菌は、加齢とともに減っていきます。 増やすにはビフィズス菌の餌になるオリゴ糖を用いるのがいいようです。 ただ最近はがん細胞を抑制し腸内環境を酸性に保ち、善玉菌を増やす働きの酪酸菌が注目されています。 この菌を生かすには食物繊維をたくさん摂ることがポイントです。
 食物繊維には水溶性と不溶性の2種類あります。 水溶性食物繊維には干しアンズ、ライ麦、納豆、ゴボウ、玄米など。 不溶性にはグリンピース、あずき、干しシイタケ、オカラなど。 干し柿とインゲン豆は両方含んでいます。
 生きたまま腸に届いて体に良い影響を及ぼす微生物や食品のプロバイオティクス。 発酵食品のことでヨーグルトや乳酸菌だけでなく醤油、味噌、納豆、ピクルスなどもそうです。 中でも日本の生きた味噌は世界に誇れる発酵食品です。 お腹が緩くなるから乳製品を摂らない人ほどヨーグルトなどの発酵乳製品で腸内環境を整えてください。
 善玉菌が増えたはずなのに便秘が解消されない人は水分不足と運動不足。 水分は1日に1.5Lは必要です。歩かない人は腸の働きが悪く便秘傾向になります。 1日6~7000歩ぐらい歩いてください。 下痢や便秘は腸内フローラから「悪玉菌が増えて危険だよ」というサイン。 ウンチは体からの「お手紙」です。よく観察してください。


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